2章ー3 買い物
俺がロム王国に来てから一週間が経った。
ジルはロム王国の兵士に魔法を教えるためにいつも朝早くから訓練場に出向き指導をしてくれている。
俺も魔法を教えることが出来ればいいのだが、魔法がどういう原理で発動しているのか、いまだにさっぱり分からない・・。
ジル達に教えてもらったこともあるのだが、確か自らの魔力を火や水などに変化させるために頭の中で術式を組みそれを呪文のよって発現する、だったかな。うん、やっぱり分からない・・。
慣れると無意識の中でも発現することが出来るらしいが俺には一生無理だろう。模倣があって良かった。
話は戻るが、ジルによると蜥蜴人族はもともと極端に魔力が少ないらしい。
その身体能力から魔法を必要としなかったのだろうとジルが言ってたっけ。
なので蜥蜴人族の中から比較的魔力量の多い兵士を選抜し訓練に当たってくれている。
そのおかげか、かなり多くの兵士が魔法を使えるようになったみたいだ。
魔法指導のことはジルに任せっきりになっているが俺も遊んでいたわけではない。
ガルエンの紹介により製鉄場に入れてもらうことが出来た。
流石は魔境北部一の強国だけあり、製鉄場の規模もすさまじいもので一日に剣であれば100本は作れるそうだ。
まあその中から何人かの職人に頼み込み無事リオン村に技術指導をしてもらえることになった。やったね俺!
そして今日は色々な道具を調達するためワーグ、リーナ、ユーナと街に買い出しに来ている。
これまでの経験から銀の髪は目立つのでジルに一時的に魔法で黒髪に変えてもらった。
こんな便利な魔法があるならもっと早く教えてもらいたかったがこれでフードを被らず外を出歩ける!
それにやっぱり黒髪は落ち着く。俺も日本人だなぁ・・。
「ヴィンデル様! これはどうでしょう??」
リーナが優一に剣を見せる。
「うーん。俺は武器のことは全然分からないからリーナ達が決めていいよ。」
「ではこれをリオン村の人達に買っていきましょう!!」
リーナはマントの中からお金の入った袋を取り出すと店の店主に渡した。
「毎度あり!! じゃあ注文通り2日後に王宮に届けさせてもらうよ!」
獣人族の店主がリーナに領収書を渡す。
流石はロム王国だな・・。
ロム王国はゴース王の理念のもと、どの種族であろうと皆平等に権利が保障されている。
なのでこの店主のように獣人族もいれば小人族に小鬼、少数ながらも人鬼もいる。彼らはアムリアの考えに反対し魔境北部へ避難してきた人達らしい。
小鬼が悪さをしないのか心配だが、この国は豊かで食事にも困らないため略奪をする必要もなく、また蜥蜴人族の強さが抑止力にもなっているそうだ。
そして一番驚いたのは妖精族がいたことだ。妖精族は確か人種として500年前の戦いに参加していたはずだ・・。これは後でガルエンに聞いてみよう。
「ヴィンデル様! 次はあっちに行ってみましょう!!」
リーナが優一の手を引く。
ほんとに元気だなー。まあ18歳って言えば遊びたい盛りだもんなぁ。
優一がふと横に目をやると回復薬の店がある。
回復薬か・・。
「そういえばユーナ。回復薬ってどうやって作るんだ?」
優一の質問にユーナが恥ずかしそうに答える。
「・・回復薬は薬草などから作った溶液に特別な術式を込めた魔法をかけるんです。」
「その魔法は特殊能力 錬金術師を持っていないと使えないんです・・。」
やっぱり特別な特殊能力がないとだめなのか・・。
「でもかなり魔力を消費しますが錬成板を使えば誰でも作れたはずです。」
錬成板。そんなものもあるのか・・。
ついでにどこかで売っていないか探してみるか・・。
「そこの黒髪のお兄さん! そういうことなら私の店にいいものがありますよ!!」
話を聞いていた道横の店の女性が声をかける。
黒髪・・?あ、俺のことか。
「どんなものがあるんですか??」
「なんでもあるよ! まあまずは店の中に入っておくれよ!」
優一達に断る隙も与えず女性は店の中へと案内した。
「それでこれがさっきあんた達が話していた錬成板だよ。」
女性は店の奥から何かを持ってくると優一達の前に置く。
これが錬成板か。
大きさはA4の紙くらいの大きさだろうか。黒っぽい板には何か文字のようなものが刻印されている。
「これがはどうやって使うんですか?」
「この板の真ん中に溶液を置き、板の両端に手を置いて魔力を流し込むんだよ。」
「実践してみた方がいいかしらね。」
女性はまた店の奥に消えると瓶に入った溶液を持ってきた。
「ほら、やってみなよ」
瓶を板の真ん中に置くと女性は優一を促す。
えっと確か両端に手を置き魔力を流し込む・・。
ヴオオオン! 優一が魔力を流し込むと溶液が青く光り、しばらくすると光は消えた。
「す、すごいです! ヴィンデル様!!」
ユーナが珍しく声を荒げている。
これは成功したのか??
「お兄さんやるじゃないか! これは回復薬の中でもより回復能力のある上位回復薬だよ!」
女性が答える。
「あれだけの魔力を使っていながら顔色一つ変えないとはね。あんた一体何者なんだい?」
「興味深いね・・。ちょっと調べさせてもらおうかな?」
そう言うやいなや女性の体が崩れ緑の流動体になると優一を包み込んだ。
「ヴィンデル様!!」
リーナ達は声を上げると剣を抜き、優一を助け出そうとする。
え、ナニコレ・・。き、キモチワルイ!!
この感触はまるで・・・スライム??
「落ち着いて。別に取って食おうって訳じゃないから。」
それは優一を包み込むとしばらくして吐き出した。
き、気持ち悪かった・・・・・。
下を見ると優一の足元にはサッカーボール程の緑の生物がいた。
「ごめんなさいね。私はスライム・ロードのマリサって言います。さっきまでの姿はこの姿だと流石に目立つから擬態していたの。それよりもお兄さん、いやあなた様の魔力量の多さは一体・・・。」
「このお方は私達の主、ヴィンデル・ロ・ウード様です!」
優一を守るようにリーナとワーグが前に出る。
「あなた様がヴィンデル様・・。噂はかねがね。」
マリサはそう言うと頷く。
ん? 今頷いたのか??分かりにくすぎるわ!!
「この姿だと話しにくいですよね。」
マリサはそう言うと再び女性の姿に変化する。
「先ほどは失礼を致しました。ヴィンデル様の魔力量を推し量るためとはいえあのようなご無礼を・・。」
マリサは頭を下げ謝罪した。
「もういいですよ。それよりもスライム・ロードとは一体?」
優一の質問にマリサは顔を上げ答える。
「スライムは通常は意思を持ちません。しかし極稀に私のように意思を持つスライムが生まれることがあります。それをスライム・ロードといい、私たちは触れた他の生物に擬態することが出来るのです。」
なるほど・・。
しかしこの能力味方であれば色々利用できそうだが敵にするとかなり厄介かもしれないな。
ここで知りえたことむしろ良かったかも知れない。
マリサは申し訳なさそうにこっちを見ている。
恐らく本当に悪気はなかったのだろうな。
さて、この場をどうおさめるか・・。
「そうなのですね。それは貴重なことを知ることが出来ました。」
「そこでそのお礼にと言っては何ですがこの錬成板を頂けませんか?」
優一は笑いながら錬成板を手にする
「あ、そうでしたね!! すっかり忘れておりました!!」
マリサは笑顔を取り戻し答える。
「そちらは金貨五枚になります!!」
「・・・・・・・・・。」
えっ・・。金貨五枚だと??
高すぎる・・・・。
ジルからもらったお金は確か銀貨十枚。
銀貨十枚で金貨一枚だったよな?
全然足らないじゃないか!!
銀貨一枚でも一週間は暮らせるんだぞ・・。
優一の額には今までかいたことがないほどの汗が流れ落ちる。
「も、もうちょっと何とかなりませんか・・?」
「たとえヴィンデル様の頼みだろうとこればっかりは聞けません! これも商売なので」
マリサは首を横に振りきっぱりと断る。
「ただし!!」
ただし???
「さっきほどの上位回復薬を50本作っていただけるなら練成板のお代はいりません!」
「しかも当店自慢のこの魔法紙も何枚かお付けしましょう!!」
マリサは店の奥から何枚かの魔法氏を取り出し机の上に置いた。
「ヴィンデル様、どうしますか??」
「流石に50本というのは・・・。」
リーナ達が心配そうに優一を見つめる。
そんな目で見ないで・・。さっき1本作ったけどそれなりに魔力が減るのを感じた。
50本となると一体どれだけの魔力が・・・。
だがこのチャンスを逃すわけにはいかない。
クソ! やってやろうじゃないか!!
「その話乗りました!!」
「おお! 流石はヴィンデル様です! それでは早速作っちゃいましょう!」
マリサが50本の溶液を持ってくる。
ブオオオン! ブオオオン! あぁー、魔力がなくなっていく・・。
「毎度あり!!!」
笑顔で手を振るマリサを背に、魔力を使い果たし動けなくなった優一はワーグに咥えられながら店を後にした。




