高級武器店を視察します
「ここかぁ…」
じいさんに教えてもらい、王都でいちばん大きいという武器屋「エンドラ」の前で、俺は感嘆の吐息を漏らしていた。
堅牢な石造りの建物にがっしりとした木の扉が据え付けられている。
扉はぴたりと閉ざされ、営業中の札は出ているものの、中の様子は外からはわからない。
「つまり、客を選ぶ店ってことね…」
お店のタイプにはいくつかある。
いちばん多いのは、間口をとにかく広くして、中の様子が見えるようにすることで、誰でも入りやすくする店だ。
このお店はまさにその逆で、あえて威圧的な造りにし、選ばれた客しか入れないというメッセージを明確にしている。
つまり誰にでもきて欲しいわけではなく、金なり身分なりがあり、この威圧感にビビらないぐらいの客しか求めていないということだ。
元の世界でも、高級ブランドの旗艦店なんかはこんな感じだったっけなぁ…。
店によってはスーツに身を固めたガタイのいい兄ちゃんがドアマンとして構えてたりしたのを見たことがある。
要は貧乏人は来るんじゃねぇってことだ。
「ま、さすがに追い出されたりはしないだろうけど…」
勇気を絞ってエンドラの扉を押すと、ギギギ…と重々しい音がして、ゆっくりと開いた。
「…すげぇな」
扉の内側に広がっていたのは、思わず声が漏れるほど壮麗な店内だった。
室内は天井が高く、趣味の良さそうな壺や石像などがさりげなく置かれ、居心地の良い高級感を醸し出している。
石畳の床はチリ一つなく掃き清められ、ほのかに薫きしめられた微かなお香が鼻腔をくすぐった。
贅沢に空間を使い、程よい間隔を空けてところどころに棚が配置されている。
その1つ1つに、豪華な装飾が施された長剣や槍、ハルバード、斧などが整然と並べられていた。
仕立ての良いチュニックのような服を身につけた店員が数名、示し合わせたようにチラリと俺を一瞥する。
さすがにいきなりつまみ出すということまではしないようだが、接客に値しないと判断されたのか、完全に放置扱いだ。
まぁそっちの方が都合がいいんだが、あんまり感じは良くないな。
変に刺激しないように、おのぼりの転生者を装ってあちこちを観察する。
…実際おのぼりの転生者だしね。
この手の高級店は、店内の最も奥に最上級の品を置くことが多い。
しかしあまり奥に行くと本当につまみ出されるかもしれないので、遠くからこっそりと観察をする。
案の定、店のいちばん奥でひときわ厳重に保管されている宝剣がちらりとだけ見えた。
「うーん、めっちゃたかそう…」
ふんだんに宝石があしらわれたその一品は、明らかに実戦向きではない。
めちゃめちゃ金持ちな貴族やら王族クラスの人間が、儀式や趣味で使うような品だ。
手前に視線を戻し、比較的入り口側に配された長剣や短剣を見ても、どれも値札がない。
つまり値段を気にする人間は来ちゃいけませんよ、というこれまた明確なメッセージなのである。
「これは、うちとは競合しないな…」
「エンドラ」は確かに大きな武器屋だが、アレク武器店とは顧客層が違いすぎる。
逆に言うと、ライバルではないので、今のところは別に恐れることもないということだ。
アレク武器店のお客さんがエンドラに行くことは無いし、エンドラのお客さんがアレク武器店に来ることも無い。
とはいえ、最高級店での品揃えはしっかりと目に焼き付けておく。
武器といえど、身に付けるものという意味では服飾品、すなわちファッションに近いものだ。
元いた世界だと、ファッションにおいては、常に高級ブランドが流行の先端を走り、中級や大衆製品はその後を追う。
同じ理屈が通じるかはわからないが、高級店で売れ筋のものは、客層が違うといえど必ず参考にはなるはずなのだ。
どんな国でも、たとえ民主国家でも王族や貴族への憧れは必ずある。
ましてこの国は、まだよくは知らないが中世ヨーロッパに近そうな王政国家だ。
貴人が身につける武器のトレンドをうまく取り入れることは、アレク武器店にとってプラスに働くと思う。
そんな思いでエンドラの品揃えを見直すと、やはり圧倒的に多いのは長剣だ。
貴族や軍人の男性が身につけるであろう、最もスタンダードな武器。
クセがなく扱いやすい長剣は、ファンタジー小説でもかなりポピュラーだが、この異世界でも同じようだ。
中でも、細身で80センチほどのスマートな剣が、ひときわ数多く並べられている。
この剣が、どうやらこの店のいちばんの売れ筋のようだ。
この国は目下戦争状態でもないので、ほどよく扱いやすく、見栄えも悪くないこれぐらいのサイズがいいのだろう。
…と、そろそろ店員の視線が痛くなってきたので、失礼することにしよう。
塩でも撒かれそうなぐらい「さっさと出て行け」オーラをぶつけられはじめたので、俺はしおしおと退散することにした。
「ま、得るものはあったな」
次は、もう一つの中堅武器屋「アスタロス」へと向かうことにした。




