花音と花音
下方で両刃の剣を構えるジル。
そこに三人の、デルタイリュージョンが放たれた。
まずは、綾香が急下降しジルの胸元を目掛け蹴り降ろす。
「青は、進めですわ」
「ぐはっ……」
体勢を崩したジルに、すかさず花音が膝蹴りを喰らわす。
「黄色は注意!」
「うぐっ……」
そして、舞が畳み掛ける。
低い位置からジルの鳩尾への、アッパーカットだ。
「赤は止まれだよ」
「どぁぁ……」
ジルは、泡を吹きながらその場に横たわった。
そして、身体を痙攣させると、姿が変化し始めた。
「様子がおかしいぞ! 皆、離れるんだ」
その尋常じゃないジルの様子に、蓮は三人に注意を促した。
「うっ……うっ……」
徐々に変化していくジルの身体。
それは、若い女性だった。
やがて、その変化したジルはこう言い放つ。
「ありがとう……助かったわ」
その女性は、花音に似ていた。
いや、花音より少し大人に見える。
「驚いたでしょ? 信じてもらえないかも知れないけど、私は滅びの未来からきた花音。歴史を変えようと、未来からやって来たけど、ドジ踏んじゃって……心も身体も、ジルそっくりにされちゃったってわけ」
「滅びの未来? 未来は滅んだのか?」
「ええ、残念ながらジャックナイフに侵略されてしまったわ。だから、未来を変えるため私はやって来たの。でもダメね、私の時代は妄想者がいなくなってしまって、人工的な妄想装置を使用して力をつけたけど、本当の妄想には敵わないみたい」
――ちょっと、大人になった花音は更にグラマラスになって、たまらんな~。よ~し――
「大人の花音、一緒に戦おう! 力を貸してくれ」
未来を救うことより、大人の花音をどうにかしたい一心で、蓮はそう言った。
その後方で、三人が蓮を睨み付ける。
「ていうか待って。未来の花音が、ジルに化けさせられてたってことは、本物は生きているってことよね?」
「舞、そういうことだ。だからこそ未来の大人の花音に……」
「ちょっとお兄様! 未来の私より、今の私を見てよ」
「お兄様~。ガキな花音より、この成長した花音よね? なんなら、好きにしていいわよ~」
「ブフォ――! は、鼻血が。妄想は貯めて置くことが出来ない限りある資源なんだから、むやみに刺激するなよ」
蓮は放出する鼻血を抑えながら、更に、
「と、とにかくだ。話を纏めると、ジャックナイフに未来は、侵略されている。それと、本物のジルは生きているということだ。どのみち、こっちの蓮、すなわち花音の本当の兄貴も助けなきゃだしな……五人で力を合わせれば、何とかなるだろ?」
ここで、どうにかしなければ未来はないと確信した蓮は、花音、大人の花音、舞、綾香にそう述べた。
確固たる自信はなかったが、束になればあるいは? と、思ったからだ。
「大人の花音、ジャックナイフの本拠地は、わかるか?」
「わかるわよ。ただ厳重体制が敷かれているから、近付けるかどうか……」
「やるしかないだろ? ここで、指を加えて待っていても、ジャックナイフにやられるだけだ。力を貸してくれるな? 俺の可愛い、妹達よ」
四人は、力強く頷くと蓮を囲み、もみくちゃにした。
巨乳の波に押され、蓮は思った。
『妹っていいな』
妹達に、ご褒美をもらった蓮は、俄然やる気を出した。
目指すは、ジャックナイフ本拠地総本部。