空から女の子が降ってきた
皆さんはご存知だろうか?
この世界に繋がる、もう一つの類似する世界を。
普通の人間なら気付くことはないが、この類似する世界と、接点を持とうとしている人間がここに現れようとしていた。
彼の名前は『藤堂 蓮』。至って普通の高校三年生だ。
独りっ子だった彼には夢があった。
『俺にも、可愛い妹がいたらなぁ』
日々そんなことを思いながら、二次元の女の子に理想の妹像を重ねていた。
そんなある日、お気に入りのアニメのDVDを携え、友人宅でアニメ評論会を開こうと道を歩いていると、突然黒い雲が目の前に現れた。
好奇心旺盛な蓮は、恐れることなくその黒い雲に近付いた。
蓮がその黒い雲に、左手を伸ばすと空間に亀裂が入り、突風が襲った。
「な、なんなんだ? これは……」
突風がやむと、人間の足らしきものが、空間の切れ間から覗く。
「わ、ちょ、ちょっと……」
蓮がそう言う頃には、その人間らしき足は、膝辺りまで露になっていた。
慌て背負っていたリュックにDVDをしまい込むと、蓮はその足を両手で抱え込んだ。
その足はフワリとして、綿のように重さを感じない。
蓮は抱え込んだ足を、空間の切れ間から引っ張り出すように、後方に体重を掛ける。
途端に、足は重さを感じるようになり、空間の切れ間から現れた人間を抱えた――――かのように思えたが、支えきれず蓮はその人間を抱えたまま、地面に横たわった。
「いててて……」
その衝撃から覚めると、蓮に覆い被さるように女の子が寝息を立てる。
程よく育った胸に、柔らかな太もも。
更には、ぽってりとした柔らかそうな唇、肩まであるしなやかな青い髪。
突然、空間の切れ間から現れたその女の子は、信じられないことに今まさに、蓮の胸の中にいた。
その現実を受け止める間もなく、女の子は蓮の目の前で、その大きな瞳を開けた。
エメラルドグリーンに染まったその瞳は、蓮の心をくすぐった。
「う……うん……ん?……お兄様……?」
その女の子の問いに一瞬目眩を覚えながら、蓮はようやく現実を受け止めた。
「お、お兄様? 君は一体誰?」
蓮がそう言うと女の子は、はにかみながら言い添えた。
「……ごめんなさい」
密着していた身体は蓮から離れ、女の子は立ち上がった。
今まで、密着していてわからなかったが、特注にだと思われる青いメイド服を纏っている。
――これはコスプレか? それにしても、アニメから出てきたように可愛い容姿だ――
蓮がそんなこと考えていると、女の子はこう述べた。
「お兄様によく似ていたので……つい。やはり、噂通りもう一つの世界があったのね」
「もう一つの世界?」
蓮は興味を抱き、女の子に聞き返した。
「うん。この世界に類似した世界から、私は来たの。今私のいる世界は、悪の組織『ジャックナイフ』に乗っ取られ、破滅に向かっているわ。私は命からがら追っ手から逃げるように、この『時の狭間』に逃げ込んだからいいけど、今頃お兄様は……」
「ちょ、ちょっと待って。意味がわかんないんだけど……」
にわかに信じがたい話に、蓮は疑いを抱き始めた。
――これは、新手の詐欺か? だとしたら、用心しなくては。……しかし、可愛い――
あれこれ妄想していると、女の子のはそれを悟ったかのように肩を落とした。
「……信じてもらえないよね……いいわ、私一人でジャックナイフと戦うわ……」
女の子は、瞳を潤ませその場を立ち去ろうとした。
「ま、待って! 信じるよ!」
――やべぇ、面倒なこと言っちまった――
後悔する間もなく、女の子はこう言った。
「本当に~。やった~。やっぱり、私のお兄様とそっくり~」
「でも、俺には戦うことなんて、出来ないよ……」
蓮が、女の子の期待を裏切るような言葉を発すると、女の子はニコっと笑った。
――やっぱり騙されてる? しかし、可愛い――
「お兄様は、私に色んなコスプレの妄想をしてくれればいいの。それが、私の力になるわ。妄想者にはバリアが張られるから、安心して」
「妄想が力に?」
「うん。試しに、何か妄想してよ」
「わ、わかった……ん~……」
蓮は思い付く限りの妄想を思い浮かべた。
すると、女の子はキラキラと光に包まれ、今まで纏っていた青いメイド服が溶けていった。
光が消えると、目の前には、キャビンアテンダント姿の女の子が立っていた。
「な、どうやったの、これ?」
あまりの驚きに、蓮は声を張り上げた。
「お客様、機内ではお静かに……どう? 信じてくれた?」
「信じるも何もないよ。……わかった、協力するよ」
「えへ。良かった~。お兄様ってば、優しい~。自己紹介がまだだったね。私の名前は、花音宜しくね。こう見えても、まだ十六歳だよ」
花音は、ほっとしたのか、無邪気な笑顔を見せながら、すくすくと育った胸を強調する。
「あっ、俺、蓮。藤堂 蓮。宜しく」
「お兄様も、蓮という名前なの? 私のお兄様と同じ~、感激ですぅ。ねぇ、お兄様って呼んでいい?」
「いいも何も、さっきから、俺のことお兄様って呼んでんじゃん」
「テヘっ。そうだね」
花音はペロッと舌を出し、おどけてみせる。
――も、萌え――
蓮は夢にまで見た、妹が出来たことに胸を踊らせた。
しかも、アニメやアイドル顔負けの可愛さだ。
蓮と花音が、和やかな雰囲気に包まれていると、花音が出てきた空間の狭間から、何者かがやって来た。
「花音よ! こんな、とこに逃げ込んでいたのか? 手間掛けさせやがって、今度こそ息の根を止めてやる」
空間の狭間から突如現れた全身黒ずくめの男は、そう言い放った。
「お兄様! コイツはジャックナイフの一員『バルズ』よ。私戦うわ。お願い……もっともっと妄想して!」
蓮は言われるがまま、妄想を繰り出した。
妄想だけなら、この十八年間欠かすことなく行ってきた、言わばライフスタイルだ。
任せろと言わんばかりに、蓮はあれやこれやの妄想を繰り広げる。
――俺が乗客だったら……あんなことや、こんなことだってしちゃうかも――
蓮の妄想が花音に届き、ピンクのオーラが花音を包む。
「バルズ! 覚悟なさい! アテンションプリーズ。機内食は如何ですかぁ?」
いつの間にか右手に現れた機内食を、花音は力いっぱいバルズの口元に放り込んだ。
「ぐはっ、まさか妄想の力を再び手に入れたというのか?」
バルズは、ケチャップと血で染まった顔面を覆いながら、花音を警戒した。
「……くっ。こうなっては不利だ。一旦引くか……」
バルズは、花音におののき空間の狭間に逃げ込んだ。
「待ちなさいよ」
花音は、バルズを追おうとするが、既に空間は塞がれた後だった。
「逃がしちゃったかぁ……」
蓮は花音の戦いぶりに終始見とれて、言葉を失っていた。
「お兄様、お兄様ってばぁ!」
「……ん、何?」
花音の言葉にようやく我に返り、蓮は妄想の世界から現実の世界に戻ってきた。
「お兄様の妄想は、天下一品よ。これなら、ジャックナイフにも負けないよ」
「そ、そうか?」
蓮は褒められているのか、貶されているのかよくわからなかった。
ただ一つ言えることは、可愛い妹が出来たと言うことだ。
いよいよ新作が始まりました。
因みに、花音にさせたいコスプレも大募集です。