キンキン族と縁を切る!
私は結局、あのあと家には戻らなかった。
というか戻りにくかった。
全部が全部私が悪くはないとはいえ、じいちゃんの最後のお別れの儀で、ああも派手に暴れてしまった手前、あの家には帰りにくいものがった。
何よりもあの強烈なキンキン声など、二度と聞きたくなかった。
ここにさえいれば、あの声を聞かなくて済むことは確かだ。
あのキンキン声と無関係でいられるだけで、こんなに心地いい思いができる今はホントに幸せだ。
ただ、いつまでもおばあちゃんの世話になるわけにもいかないであろう。
それにもし仮にこの先おばあちゃんと一緒に暮らすとしても、おばあちゃんの家も笹畑学区にあるので、学校まで曜子と離れるということはできないであろう。
曜子はかつて、ルール?を破ったことことを覚えてますでしょうか?
普通は下級生が上級生の教室がある上のフロアまで、曜子はさも当たり前のように図々しく階段を上ったあの事件だ。
今まで、本来なら誰もやらなかったそれを曜子は平然とやってのけたことは、上級生たちの誰もが批難囂々だったのもまた事実だ。
がしかしだ…。
そんな曜子の行動を先生たちは…。
「いや、それはただ単に大多数の子は行く用事がないだけであって、
別に絶対的に下級生の子が階段上がって上級生の教室まで行ってはいけないなんてルールはないよ。」
とのことだった。
だから曜子は、その件に関しては一切お咎めなしだったのだ。
曜子がやらかしたその意事件以降は、下級生も上のフロアまで上がってくることが増えてきたのだ。
当然あのあと曜子はもう遠慮なく、上のフロアには当たり前のように来るようになってきた。
だから、自分の教室ですら、学校での安息地ではなくなってしまったのだ。
普通の小学生なら、たいていは同い年同士で遊ぶのがふつうである。
が、曜子はすでに学年中のほとんどの子から嫌われてるため、だれも曜子のことを相手にしてくれるような同い年の子はいない。
たまに要領が悪く、曜子につかまってしまう子もいるが、その子だって曜子のことは嫌いだったりするのは表情見ればわかる。したがってその子だって、毎日曜子のことを相手にしているわけではない。
そして、結局誰からも相手にされない曜子が、最終的にいくところは私がいるところなのである。
多分、身内である私だけは絶対に自分のことを裏切らないとでも思っているのであろう。
その根拠のない地震はどこから来るんだろう?
私はもう、何度も曜子のことは全力で拒否しているというのに、追い払っても追い払っても来るのだ。
そして最悪なことに林間学校まで、追いかけてきたのだ。
さすがに学年行事である林間学校までは顔出されないだろうと思っていたのに、それすら邪魔されたのだ。
せめて林間学校の間ぐらいはあの忌々しいキンキン声など聞きたくなかったのに。
そんなささやかな願いですらかなわなかったのは、本当にショックでしかなかった。
どちらにしても曜子からは逃れられないのは、確定しているのである。
そんな時だった。
ピーンポーン。
いきなりインターフォンが鳴った。
「星子ちゃん。」
「なに?おばあちゃん?」
「お友達きた」
訪ねてきたのが曜子じゃなくてよかったと思う反面、だれだろう?と思ったら。
「栄太…。」
「余、最近見ないけど、ここにいると聞いたから」
この夏休みで初めて会う同級生だった。
私たちはそのまま一緒に宿題をやることになった。
まぁ、栄太のことだから、毎年恒例のこと。
夏休みの宿題とかの面倒事は毎回私を当てにしてくるのだ。
一緒にやるとかいって、ほとんど私の丸写し。
まぁ栄太は私にいろんな情報をくれたり、普段から私を助けてくれたりしてくれるから、そうだったとしてもあまり文句は言わずにいるのも現実。
何よりも他の子はどうであれ、栄太だけは私を裏切らないでいてくれている義理もあるのだ。
「いやーまじでたいへんだったなー。」
「えー栄太の来てたの?」
「まぁ一応な。」
まさか、じいちゃんの葬儀に栄太も来てたとは…。
「てか、お前のばぁちゃんとんでもない奴だったなー。」
「え?」
さすがの栄太も、やっぱり私の実のおばあちゃんはあのキンキン響子だと思っているらしい。
まぁ栄太になら、実は違うんだといいたいところだけど、そのことに関してはおばあちゃんとの堅い約束で、大人になるまではこのことはおばあちゃんと私の二人だけの秘密なのでここでは反論はできない。
「俺、ようやくわかったぜ。お前の父ちゃんも母ちゃんも低めのダミ声なのに、なんで曜子だけがあんなキンキン声かということが…。」
確かにうちは父も母も二人そろってテンションだけは高いがダミ声だ。
父は男だから、声が低いのはうなずけるが、母はホントに肝っ玉母さんな感じで女にしては声は低すぎたりする。
ちなみに母方の祖母もうるさいぐらいなダミ声である。
そう、だから私本人もあの曜子のかん高すぎるキンキン声はどこから来たものか?こんな家族でだれに似たら、ああなるのかは響子が現れるまではなぞだった。
「それにあの顔、ホント曜子そっくりだったよな。あれはさすがにたまげたわー。」
「まさか私も身内に曜子が二人もいるとはと思えてさ、あの時は絶望的だったよー。」
「ああまぁなー。であのおばさんどうなったよ?」
「よくわからないけど、もうこの先関わらなくてもいいらしいよ。じいちゃんも生前、あの人には嫌気がさしていて別れたらしいから。」
「よかったなー。」
「まぁあるとすれば、あの人本人の葬式ぐらいは出るぐらいとかで…。」
「まぁそれならな。」
そこへ鍵が開く音がした。
「栄太、あの人の話はおばあちゃんの前ではしないでくれるかな?」
「ああわかってる…」
ドアが開く音がした。
おばあちゃんが買い物から帰ってきた。
「あ、おかえ……」
もう、二度と会いたくもない奴が姿を現し、満面の笑みでほほ笑んでいる。
「おねえちゃん!!」
おばあちゃんが帰ってきたと思ったら、曜子だった。
その曜子の後ろで
「(ごめん星子ちゃん…)」
と言わんばかりなゼスチャーをしている。
「お姉ちゃんなんで、ずっと帰ってこないの!?ようこ心配しちゃった~~。」
ほんっと曜子は全く持って悪気はないのだろうけど、ほんっと余計なお世話である。
私は何でもいいから、曜子とは関わりたくないのだ。
曜子はそんな私の気持ちなど全くわかってないのだ。
そこが一番の問題なのである。
「お姉ちゃん。もう帰ろ。」
「…。」
「大丈夫、曜子がいるよー。お父さんもお母さんもいるしさー。きっと帰ったら楽しいよー。」
「…」
お前がいるから、帰りたくないんだよ!とすごく嫌そうな顔してたら…
「いつまでもおばあちゃんの家にいたら、おばあちゃんも困っちゃうよ。」
「…。」
そりゃいつまでもここにいたらおばあちゃんも疲れちゃうだろう…。
でもそれでも帰りたくないのだ。
「駄目だよーおねえちゃんー。いつまでも甘えてちゃー。晴子おばあちゃんは曜子たちの本当のおばあちゃんじゃないんだからねー。」
と曜子が言った瞬間だった。
私の中で何かが切れた。
「……って…。」
「え?」
曜子が不思議そうに顔を近づけてくる。
「なぁに?」
いつも通りの曜子のノリで、曜子は顔を近づけてくる。
「お姉ちゃん相変わらず声が小さすぎて聞こえなーい。きゃははははーーー。」
こんな深刻な空気を漂わせているが、曜子は遠慮なく不愉快にも大声で笑っていた。
…もう……限界だ…。
「出てけーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
私はもう曜子に負けないぐらいな大きな声でさけんだ。
ホントは防音処置もたいしてないアパートでは叫んではいけないことはわかっている。
でも曜子の非常識すぎるでかい声には、今は負けてられないのだ!
「え?」
「お前の顔なんか見たくもないんだよっ!!さっさとでてけーーーーーっ!!」
「え?おねえちゃんどうしたの?ねぇおねえちゃんったらー」
私は曜子に何を言われようが、必死で曜子を玄関口まで追いやった。
「やめてっ!お姉ちゃん落ち着いてっ!」
「うるさい!でてけっ!!」
ついに玄関まで追いやって、
「曜子、くつはいてない…」
ドアを開けて、なんとか曜子を外においだした。
そして…。
「ほらよっ」
曜子の靴も外に放り投げて、急いでドアを閉め鍵までかけた。
それで終わったと思ったらまた大間違いだった。
どんどんどんどんどん
ドアをたたく音がする。
いつもの曜子の力なら、ここまで強くはたたけないはずだが、こんな時に限って強烈にドアの音が響く。
「おねえちゃん!!」
どんどんどんどんどん!
「ひどいよーーーーーっ!!」
どんどんどんどんどん
「せっかく曜子が迎えに来たのにーーーーーーっ!!」
どんどんどんどんどん!
曜子がこのままおとなしく引き下がることはなかった。
ドアの音と曜子の強烈なキンキン声の騒音はもはや、昼間とはいえアパート中は騒音でしかなかった。
ここがいくら、うちの不動産であるアパートの一つとはいえ、いくらここがおばあちゃんが管理するアパートとはいえ、ここまで騒ぎ立てるとなると迷惑でしかない。
「おい…どうするんだ?これ?」
どうするんだって?どうしようもない。
曜子がこうなってしまってはまともにとめられる者はいないぐらいだ。
「帰ってっ!!」
「…え?」
「迷惑なのよっ!もう帰ってっ!!」
私はもう最後の人声を振り絞った。
そして…
「うぇーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!!」
ああお約束だ…。
最終的にはこうなるんだよな。
毎回泣いて、周りに同情を買おうとしているのかどうか知らんけど、こんなバカでかい声を放っておけるほど世間は甘くない。
「うるっせぇんだよっ!いいかげんにしろよっ!!誰だよっ!!さっきから!!クッソ迷惑なんだよっ!!」
という声が上の方から聞こえてきた。
さすがにアパートの住民もお怒りモードになっていた。
どうしよう…。
もう限界だ…。
「ごめんね星子ちゃん…。私が行くよ…。」
「でも…。」
「だいじょうぶ。あの子連れて帰るだけだから…。」
おばあちゃんは申し訳なさそうに外に出て行った。
ホント曜子はめんどくさい奴である。
私は腰を抜かして、そのまま座り込んでしまった。
「星子…?」
「もう…イヤ……。」
なんで私にはこんなめんどくさいことが付きまとうの?
なんで曜子のせいで私まで人から嫌われないといけないの!?
私、何も悪くないのに…
私、努力してるのに…
その時、じいちゃんからもらったお守りがひょっこり出ていた…。
「じいちゃん…」
ごめん。じいちゃん。もう私限界だわ…。
初めてお守りを握りしめてしまった。
あれ?
握りしめてみて気が付いたのだが、なんかお金のような固いものが中に入っているような感触がした。
「なにこれ?」
中を見るとピカピカに磨かれた10円玉が3枚入っていた。
よく見ると3枚とも私が生まれた昭和59年のものだった。
あと小さなビニール袋に入っていた。
中には合計3千円とじいちゃんからの手紙が入っていた。
星子へ
これを読んでるということは私はすでに星子のそばにいられなくなったときだろうか?
そして相当困っているようだな。
ならば、この資金だけで役に立てるかどうかはわからないが逃げてほしい。
以下のところに連絡するか、もしくは下記の住所まで行くかしてほしい。
………
誰の連絡先かわからないが、連絡先が書いてあった。
そして一番最後に
あと、この3枚の十円玉は一応お守りの本体だったらしく、ずっと大事に持っていてほしいとのことだった。
「星子…これ…」
「私、ここに行ってみるよ。」
私は早速、そこに書いてあった連絡先に電話してみた。
坂東を見る限り、少なくとも完全にこの辺りではなく、近くても隣学区の明治里学区の番号辺りだった。
なるほど、だから3千円の援助金だったわけだね。
明治里学区なら、歩いてでも行けるし遠くてもバス一本で行けるぐらいだ。
それなら余裕で移動できるってことだ。
早速かけてはみたが、さすがに昼には誰も出なかったので、夜になってからかけてみた。
この時は栄太もちょっと謎を残したままだったので不満そうだったが、私の救いの道ができたことは一緒に喜んでくれた。やっぱり栄太はいい奴だ。
「あの…」
やっとつながった。
「まさか、星子?」
電話の向こうで女性の声がした。
「あの…」
というか誰なんだろう?
「久しぶりね。と言ってもこの間、お葬式の時にもいたはずだけど…覚えてる?」
え?だれだろう?
まさか、全然声の雰囲気違うけど響子とかいうばあさんじゃないよね?
「もう、思い出してよー。私、風子よ。あなたのお母さんの妹の風子。覚えてる?」
「あーーー」
もうあまりにも懐かしすぎて、声も出なくなっていた。
そして、お葬式の時はあまりに風子さんが空気すぎて、いたことすら全然気が付いてなかった。
「ここにかけてきたってことは、だいたい察しは着いたよ。」
「え?」
「まさかこんなに早く、こうなるとはね。もっと大きくなってからかと思っていたけど……、いいよ。うち来る?」
「いいのですか?」
「うん、大丈夫!姉さんには文句言わせないよ。」
もう、この時の風子さんが頼もしくて素敵だった。
晴子おばあちゃんも、じいちゃんから生前いろいろ聞いていたらしくて、この件にはすごく賛成してくれた。
明日にはさっそく私の家に行って、各季節ごとの服とか着替えとか勉強用具とか必要な荷物は全部段ボールにまとめて送ると言ってくれた。
「ありがとう」
ホントにありがとう。
晴子おばあちゃんにも風子さんにも本当に感謝だ。
そして、この夏休みに私はキンキン一族ともおさらばした。
私は風子おばさんの養子になり、
名前を白土星子と改め、隣学区の明治里小学校へと転校することになった。
そう、あの笹畑小5年1組には二度と戻らなかったというあの件は、まさにこのことだったのだ。




