二話 使命
キョウカにスパイ組織に勧誘を受けるマイとヒビキ。
彼女の実力を信じられない二人にキョウカは決闘を申し込む。
さて、決闘の行方は、、、?
「「「Ledy go!」」」
マイの目配せでヒビキがキョウカの後ろに回り込んだ。
「余所見は禁物よ!」
ヒビキは勝ち誇ったように笑うが、キョウカは黙りこくったままである。
「何…。何なの…?ちっ!」
ヒビキが舌打ちをしたかと思うとキョウカと一気に間合いを詰め、ナイフを彼女の首筋に突き立てる。
デロデロデロ
彼女の中から銀色の液体が漏れ出した。
「うわっ!何なのこれ!偽物⁉」
流石のヒビキも慌てふためいた。マイがあたりを見回す。
しかし流氷の上にキョウカの影はない。
その時、上から笑い声が響く。二人は声のする方向をみて驚愕した。
高さ200mのレモト丘。
丘といっても実は流氷で、巨大すぎるあまり、その地から動かないので自分たちで名を付けた。
マイたちも危険すぎて一回しか上ったことのない丘。
そのレモト丘の頂上に、キョウカがいる!
「そんな!この丘を20秒足らずで登るなんて、不可能よ!」
マイが叫ぶ。
キョウカが200m上から微笑み返してきた。
「そんなの、私でも不可能だわ。それができたのは、これのおかげ。」
そういってキョウカは銃のようなものを取り出す。
「それは⁉」
「これは、私たちのスパイ組織があみだした、スパイ道具。通称WireRope。ロープを発射し、先についている銛を固いところに刺して固定する。そして引き金を引くとリールが巻き取られて銛を刺した所まで体を運ぶことができる。」
ヒビキが憎らし気にキョウカを睨む。
「道具を使っていいなんて、きいてないわ!ならばこっちも!」
そういうと自分の靴を少しいじり、レモト丘の側面に突き刺した。
「ヒビキ!それは控えた方が…」
マイの忠告を聞く間もなく、瞬く間にレモト丘に亀裂が入っていく。
「⁉」
キョウカは慌てて下に飛び降りてきた。飛び降りたと同時に恐ろしい轟音。そしてレモト丘が小さな雹となり崩れていく。
「何をしたの⁉」
「貴方が道具を使ったから、こっちも使わせてもらったまで。私たちのシューズはこの突起部分からとても強い音波、つまり超音波を発することができる。その超音波は人には聞こえない代わりに、なんでも破壊する。さっきのレモト丘とか、大きな生物も、氷の粒や細胞を壊して殺す。それより…あのレモト丘から飛び降りて、かすり傷だけなんて…。私でも骨折したのに。」
マイが軽く溜息をつく。
「彼女の実力は本物…。それにしてもヒビキ。こんなに大きな目印となるものを壊すなんて…。北極調査団が迷子になりそう。」
北極調査団の存在を知っている…。やはり私の目に狂いはなかった。
「そう!素晴らしいわ!そのような道具を自ら開発していたなんて。ようやく本気を出せそう!」
キョウカが誇らしく。
本気…。
マイとヒビキは少しすごんだ。と同時に爆弾らしきものが飛んできた。
「「はっ⁉」」
間一髪でかわしたそれは勢いよく煙を吹き出し、彼女たちを取り巻いた。
「マイ!キョウカは煙に紛れて攻撃してくるつもりよ!」
「ヒビキ!これは…どちらにとっても好都合!」
そういうとマイはゴーグルを、ヒビキは底に一対のタイヤがついたスプレーボトルのようなものを取り出し、ボトルの横についているスイッチを押した。
キュルルル
機械音がしたかと思うと、タイヤが回転しだした。地面に置くとスプレーを噴射しながら走り出した。
「よし!探して!」
マイの合図でその場から散る二人。
暫くして、そろそろ視界も開けるかと思った直前、ゴーグルをしたマイと耳に手を当てていたヒビキが同時に叫んだ。
「見えた!」「聞こえた!」
二人の視線の先にはコホコホと小さく咳をしているキョウカがいた。しかも限られた視界で向こうからマイたちのことは見えていないらしい。
二人で一気に間合いを詰めた瞬間、煙の中のキョウカが笑った…。
そして二人は同時にその場に崩れ落ちた。
パチパチパチ
火の粉が散る音で、ヒビキは目覚めた。隣を向くとマイがいて、まだ起きていなかった。それよりもヒビキは、懐かしいような暖かさを感じた。
ずっと包まれていたいこの感触を振りほどき、起き上ってみて理解した。
これは小屋だ。そして確かベッドとかいう名前だったか。ベッドに寝かされていた。少し離れたところに薪がくべられた暖炉がある。火の粉の散る音とはこのことだったのだろう。
「あら、目覚めたのね。」
その声のほうを振り向くと、キョウカが椅子に座り、ヒビキに向かって微笑んでいた。
「ここは…!」
ヒビキの声でマイの目がうっすら開いて、同じようにキョロキョロと辺りを見回した。
キョウカが椅子から立ち上がる。
「ここは私たちのスパイ組織が建設したシェルター。さっき戦った所からは2㎞くらい離れているわ。」
「貴方に連れてこられているってことは私達…」
マイの声が震えた。
「負けたってこと!!!?」
ヒビキが叫んだ。
「そう。貴方達が見えたり、聞こえたりしたのは、スパイ道具で作った幻。そして私は貴方達の後ろに回り込み、気絶させた。」
『そんなことまで...。』
「予想以上に貴方達は強かった。粉を使って煙幕を私に浴びせようとしたところまでは素晴らしかった。ただ、二度も偽物に騙される詰めの甘さはいただけないわ。」
キョウカの顔つきが恐ろしく感じられた。
『シャチにも、イカックにも、雹アザラシにも、ホッキョクグマにすら負けることがなかったのに…。』
『地や経験の利も私たちにあったはず。なのにものの数分で敗北させられた。マイ、この人只者じゃない!』
『わかっているわ。スパイっていうのは信憑性高いよね。』
少し黙っていたあと、マイが疑るような目つきでいった。
「わかった。貴方がスパイということはある程度は信用するわ。」
「ありがとう。どう?私達のスパイ組織に入りたくなった?」
キョウカが圧すように聞いてくる。
「その、あなたの言うスパイ組織は何をする組織なの?」
ヒビキが問う。
「まあ、当然の質問ね。一言で言えば、世界の均衡を保つ組織よ。あらゆる国の機密情報を盗み出し、怪しいことがあればその国が実行に移す前に叩く。」
キョウカが答える。
「それは...良い事なの?」
ヒビキは疑問に思った。
「確かに、あなたの組織は凄いことをしてるんだって思う。でもそれは、正しい事なの?」
キョウカは少し黙っていたが、やがて口を開き、
「あなたの言う正義は、一般的なものね。法に触れること無く多くの人々から称賛の言葉をかけられ尊敬される、ただしいこと。でも、正義はそれだけではない。まあ、別にALLは世界平和そのものが目的ではないし、正義を執行しているつもりでもないけれど。」
と答えた。
「...そう。貴方達の組織については大体理解したわ。少し考える時間をくれる?」
今まで黙って聞いていたマイが口を開いた。
「勿論。」
マイとヒビキは心の中で再び相談する。
『どう、ヒビキ?』
『さあね…。それに私はまだ納得してない。』
『これが人間の考え方の相違なのよ。私は概ね理解した。』
『...分かった。マイが言うのなら、信じてもいい...。それよりもあんな凄い人が沢山いるところで、私達ついて行けるかな。』
『うーん...。どうしようか...。』
「大丈夫。私が教えるからには、ついて行けるようにしてあげる。」
キョウカの返答にマイとヒビキは固まった。
「私たちの声が聞こえるの⁉」
「声…。へえ。貴方達はテレパシーを使えるのかしら?」
キョウカが興味深そうに聞く。マイとヒビキは頷いた。
昔から、物心ついた時から私達はテレパシーを使うことができた。何故かはわからないけれど。
でもそれは当然のことだと思っていた。だから彼女にテレパシーを送っても反応しなかった時は驚いた。
「スパイとなれば、相手の気持ちも読み取れなければならないの。」
キョウカは鼻高々に答えた。
「でもスパイって命の危険もあるのよね?」
マイが質問すると、キョウカは
「ええ、勿論よ。だから、死ぬ覚悟は持っておかなければいけない。それと、人を殺す覚悟もね。」
ヒビキはキョウカの真剣な表情に何故か悲し気な雰囲気を感じた。それと同時に二人の心は決まっていた。
「「私、ALLに入ります。」」
二人には何故かこれが自分たちの使命であると直感していた。それに今の生活を続けていても、同じことの繰り返しで面白くはない。
「本当に、私のスパイ組織に入ってくれるのね?」
キョウカは少し信じられないらしく、疑わしいと言わんばかりに再度問う。
二人で頷く。途端にキョウカの顔つきがガラッと変わった。
「本当⁉嬉しい!弟子が欲しかったの!これからよろしくね!」
「は、はあ....。」
『え、こんなノリで大丈夫なの⁉』
『さ、さあね....。』
戸惑いを隠せない二人を置いて、キョウカは手首に付いた腕時計のようなものに声をかけた。
「こちらコードネームキョウカ。本部応答願う。」
『こちらALL本部、どうぞ。』
「無事マイとヒビキを保護した。至急ヘリを頼む。」
『了解。至急ヘリコプターを送ります。』
暫くして、三人の目の前にヘリが到着した。
「荷物はまとめた?ヘリに乗って。」
ヘリに乗ることをキョウカが促すと、二人の顔が曇り、そして呟いた。
「「あの....。」」
「ん?どうしたの?」
マイとヒビキはキョウカを睨み据えていった。
「「絶対に、戻ってこれますよね?」」
強い口調で言われたキョウカは少し驚いたが、すぐに微笑んだ。
「ええ。半年に一度になってしまうけれど、ちゃんと戻ってこれるわよ。」
マイとヒビキは安心したようにヘリに乗り込んだ。
『マイちゃん、へりこぷたーって今までに見たことあったっけ。なんか、知ってる気がする』
『奇遇ね。私もそれは思っていた。見たことないはずなのに....。』
テレパシーで話しているうち、2人は眠ってしまった。
そんな2人を見てキョウカは心の中で語り掛ける。
『ついに。見つけました。忘れもしない6年前。師範....。見ていらっしゃいますか??』




