一話 舞と響
自分たちはなぜここにいるのか。両親はどこへ行ったのか。
何故、テレパシーを使用できるのか。
これは、北極に生きる11歳の二人の少女を取り巻く、あるスパイ組織のお話。
「寒い…」
その子が話しかける。話しかけられたもう一人の子は
「そうだね。でも、逃げ出してこれて、良かった。」
とうつろな表情で答えた。
二人は洞窟の中にいた。外は猛吹雪。防寒対策も十分とは言えない。食糧備蓄も全く無い。
なぜここにいるのかすらも分からぬまま、身を寄せ合っていた二人だが、次第に意識が遠くなっていった…。
自分たちは何者なのか。なぜここにいるのか。不思議に思っていた時期も、何年か前に過ぎ去った。
「おはよう、ヒビキ。今日は狩りに出る日よ。」
“ヒビキ”は眠そうに体を起こした。
「“マイ”、わかってる。今日はイッカクだっけ。たまにはビタミンも取らなきゃね。」
スープを朝食として食べ、洞窟の外へと出た。
キュイン
高い機械音が澄んだ空気に響く。
「やった!マイみて!うまく仕留めたわ!」
氷に横たわるイッカクを見つめ興奮するヒビキにマイは苦笑した。
「いつものことでしょ。」
そして背負っていたリュックからロープを取り出そうとした。その時だった。
パチパチパチ
突如手を叩く音がした。マイは後ろを振り返ると同時にジャンプして隣の氷へと移った。
「御見事。」
先ほどまでマイが居た氷はぱっくりと真っ二つに割れていた。何者かが、破壊したようである。
その何者かは白い防寒服のフードと白いマフラーで顔は見えないが、声ながらに女。
「あなた、誰?」
ヒビキが女に問う。女は防寒服とマフラーをとった。すらっとした体型があらわになる。
「「っ―!」」
しかしその瞬間ヒビキとマイは硬直した。
なんだろう。この記憶。脳みそに直接響く。この人は―見たこともない。赤の他人のはずなのに、何故かこの人を知っているような気がしてならない。
黒い服を着た女だった。茶髪がかった黒いロングヘアーは肩下20センチはある。でも何より気になるのが―
「そのマスクを外して。」
顔に上半分だけ隠した仮面をつけ、不敵な笑みを浮かべる女にマイとヒビキはナイフを構える。
「あなた、何者?!」
再びマイが問う。今度は目に殺気を宿している。そんなマイを見てクスクスと声を出す女。
「驚かせてしまって申し訳ないわ。私はキョウカ。ある組織に属する者。」
キョウカは先ほどの狩りで真っ赤になったナイフを構えたままのマイたちを一瞥する。そして唇を緩ませた。
「驚く程攻撃的…。昔のあ―。」
「貴方が所属している組織って、何?」
呟きを飲み込み、
「簡単に言うと情報捜査官、所謂スパイ。」
とヒビキの質問に答える。
「なぜ私達の所に?」
「貴方達を、スカウトしに来たの。」
「スカウト?」
「そう。こんな北極に少女二人きりで生き残るなんて…。普通は絶対に無理。素晴らしいわ。是非私達のスパイ組織に入ってほしいの。」
マイとヒビキの表情が更に険しくなった。
「それを、私達が信じると思って?」
マイの言葉に微笑むキョウカ。
「無論、そういうと思っていたわ。じゃあ、こういうのはどうかしら?私と戦いましょう。二人がかりで良いわ。もし私が勝ったらその戦闘能力の高さから、スパイだと認めてくれるかしら。」
「いいね!たのしそう!」
キョウカの提案にヒビキが無邪気にはしゃぐ。さっきとの変わりようにマイは苦笑した。しかしヒビキが頭につけていたリボン型のヘアピンを取った事で深くため息をつく。
「本当は一般人と戦う気はないけれど、あのヒビキがリボンを取るなんてね…。仕方ないわ、決闘しましょう。」
キョウカは彼女たちを見て再び微笑んだ。
「貴方達はちゃんと本気で来ることね。じゃあ…。」
「「「Ledy go!」」」




