ノークリッドからの使者
「フリッツ、王の容態はどうだった?」
貴賓室に戻ると、開口一番エレノアがそう話しかけてきた。
待っていた二人には心配をかけてしまったが、サーニャの対抗呪文で応急処置を行ったこと。そして根本治療は神樹の葉を用いなければ難しく、手に入れるためにノークリッドへ赴かなければならないことを待っていた二人に伝えた。
「ノークリッドか。何事もなく入国を認められるといいのだが……」
話を聞いたエレノアは、難しい表情でそう呟いた。
「そういえば外から来る人を拒んでるんだっけ」
この大陸に来る船の中で、バウンス船長がそう言っていた気がする。彼らは海賊だからというのもあったと思うが、冒険者が入国することも難しいのだろうか?
「ダンテさん、その辺りのことって分かるでしょうか?」
「確かにノークリッドは外から人が入ってくることに厳しくはあります。しかし目的さえはっきりしていれば、入国すること自体は可能だと思います。ただ移動は制限されると思いますので、目的の地へたどり着けるかは何とも言い難いですな……」
「そうですか……」
シエラ王を治療する為に神樹の葉が必要だと、正直に言ってみるか?
いや、神樹の存在は今や歴史書の中くらいしか語られない存在。たとえ自然を崇拝するノークリッドの人たちでも、知っている前提で話を進めるのは危険だ。
それに、もし知らなかったたら警戒心を持たれる可能性もあるからなぁ。
「なにか適当な理由をつけて入国するのはダメですかね……?」
俺が困っていると思ったのか、クロエがそんな風に提案してくれる。
「それも考えてみたけど、移動も制限されるらしいからね。神樹があるのはノークリッドの奥地だし、入国できたとしてもたどり着くのは難しいかも……」
「そ、そうですよね……」
「あっ、いや! クロエの提案は嬉しかったからね!」
しょんぼりしてしまったクロエを慰めつつも、何かいい方法はないか考える。できればノークリッドの人たちからも理解を得て、協力してもらいたいんだけど。
「そう簡単にはいかないよなぁ」
いっそのこと国境を強行突破し、一気に神樹の下まで向かうのはどうだろうか?
後々かなり面倒なことになりそうだけど、シエラ王の命がかかっているのだ。クロエの加速魔法を使えば、追手があったとしても振り切れる可能性が高い。
かなり印象は悪いが、最悪この手で行くしか――。
「失礼します!」
覚悟を決めみんなに提案しようとした瞬間、部屋に一人の兵士が入ってきた。
「何だ、王の容態に変化があったのか?」
「いえ、その……ノークリッドから使者の方が来られています」
「ノークリッドから? 来訪の目的は?」
「先日の情報共有について、改めてお礼を述べたいと」
「……分かった。ひとまずこちらに案内してくれ」
「かしこまりました」
ダンテさんの指示を受けて、兵士の人が部屋を出ていく。突然のことでいまいち理解が追いついていないのだが、ひとまず疑問に思ったことを聞いてみる。
「あの、『先日の情報共有』っていうのは? あ、もちろん答えられないことだったら無理に言ってもらわなくてもいいんですが……」
「いえ、大丈夫です。実は疫病の原因を王が突き止めた際、ノークリッドの方にも情報共有のため使者を送っていたのです。ただその件についてはすでに返礼をもらっていたので、どうして再び使者を送ってきたのかいまいち意図が読めないのです」
確かにそれは少し妙だ。だけど、これは考え方によっては好機かもしれない。
「ダンテさん、自分たちも使者の方に会わせてもらうことは出来るでしょうか?」
「ふむ……使者の方に事情を説明すれば、もしかしたら協力して頂けるかもしれまんな。分かりました。そういうことであれば、皆さんをシエラ国の関係者として会談の場に同席できるよう取り計らいましょう」
こうしてダンテさんの協力もあり、俺たちは思いがけずノークリッドの人と話せる機会を得た。これもシエラ王が情報共有を行っていたおかげだと思うと、何としても話し合いを成功させ神樹への活路を見出さなければならない。
※
「こちらです」
部屋の外から声が聞こえたかと思うと、間を置かず貴賓室の扉が開かれた。そこには先ほど報告に来た兵士の人と、ノークリッドからの使者と思われる人物が二人。
一人は長身の男性。鎖帷子を着込み、立ち居振る舞いにも一切の隙が感じられない。いかにも歴戦の戦士と言った風で、恐らくこちらが護衛の人だろう。
そして、もう一人――。
「急な来訪にもかかわらず、ご対応頂き誠に感謝致します。またこの大陸に蔓延る恐ろしき病の原因につきまして、聡明なるシエラ王が原因を究明してくださいましたこと、同じくこの大陸に住む者として感謝の念に堪えません」
使者としてダンテさんにそう挨拶したのは、まだ幼く見える少女だった。どこか神秘的な雰囲気を感じるのは、その身に纏っている独特な衣装だけが理由ではない。
天鵝絨のように滑らかで白い肌と、翠石のような深い緑の瞳。そして窓から差し込む陽の光をうけて、微かな光を放つ銀の髪が何よりも目を惹いた。
「国を離れることが出来ない女王セリカに代わり、ノークリッドの巫女であるこのユーリがお礼申し上げます」
どうやら彼女はユーリという名前のようだ。そして気になる言葉がもう一つ。
『巫女』――彼女が名乗った聞きなれない身分に、思わず聞き返しそうになってしまう。ただこの場での俺たちは、あくまでシエラ王国の関係者の一人にすぎない。
ある程度話し合いが進むまでは、うかつな発言はするべきじゃないだろう。
「ねぇティル」
なので、隣にいる博識の相棒に小声で尋ねようとしたのだが――。
「あの子は……」
ティルは俺の言葉なんて聞こえていないかのように、ユーリと名乗った少女のことを意味ありげな視線で見つめていたのだった。
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