進むべき道と、立ち上がる勇気
まず解決すべきは食料問題だ。今のままだと、せっかく回復した町の人も栄養が足りず再び倒れてしまう。だけど新しく作っている時間もない。なら――。
「バウンス船長。ここから北大陸に戻るのって、どれくらいかかりますか?」
「ん? 霧も晴れたし来た時よりは早く戻れるが、それがどうした?」
来た時にかかった日数は十三日。であれば、十一日か十二日程度で戻れそうか。
「お願いがあります。一度北大陸まで戻ってもらえないでしょうか?」
「あぁん!? いや、戻るのは大丈夫だけどよ……」
戸惑うのも無理はない。東大陸に来たばかりなのに、直ぐに戻れと言っているのだ。正直、怒鳴られてもおかしくないようなことを頼んでいる自覚はある。
それでも、今は迷っている時ではない。
「北大陸に戻って、エリュシカ女王にシエラへの食料支援をお願いして欲しいんです。可能な限りで構わないので」
今は他大陸から輸入していた保存食で賄っているようだが、いずれは限界がくる。
浄化魔法を使えばシエラの食料も食べられるようにはなるだろうが、それを全ての町でやるのも現実的ではない。なら今も王都で食べられている保存食と同じく、他大陸で作られた食料に頼ってしまうのが良いのではないかと考えたのだ。
これでもし上手くいったとしても、後々問題が出てくるかもしれない。だけど今は出来るだけ多くの人を救えるように動こう。後悔だけはしないように。
「では、私から陛下に一筆書こう。なに、マリアガーデン滞在中に国内の食料事情もおおかた把握してある。無理のない程度の提案をしてみるさ」
俺の無茶な案に乗ってくれるのか、話を聞いたエレノアがそう申し出てくれた。
「それは助かるけど……本当にいいの?」
「構わないさ。ついでにバルディゴ王にも書いておこう。あの方も懐が広いお方だ。可能であれば手を貸してくれるだろう。ルカ、紙と筆はあるだろうか?」
「あ、うん! ちょっと待ってね」
ルカが紙と筆を持ってくると、エレノアは直ぐに王たちへの手紙を書き始めた。
「ありがとうエレノア」
「これでも王族だからな。使える力は使うに限るさ」
そう答える間も手紙を書く手は止まることなく、あっという間に二つの手紙が完成した。エレノアはそれを丸めて紐で綴じると、バウンス船長へと手渡した。
これで少しは希望が見えたけど、問題が解決できるかは微妙なところだ。
「両方の国が支援してくれたとしても、足りるかな……」
「厳しいだろうな。両国とも食料に余裕はあるが、他国への支援となると直ぐに動かせる量は限られてくるだろう。国内で急な飢饉が起こらないとも限らんしな」
「やっぱりそうだよね……」
もちろんその可能性も考えてはいたが、二国の協力が得られたらもしかしたらという期待もあった。だけどその考えは甘かったのかもしれない。
「で、では微力ながらわたくしも書かせて頂きます!」
しかし気落ちする俺を気遣ってくれたのか、クロエがそう申し出てくれた。
「えっ、もしかしてブレーメン王に?」
「はい。わたくし自身はエレノア様のように国の事情には明るくはないのですが、叔父上であれば適切に対応してくれると思いますので」
確かにブレーメン王であれば協力してもらえる可能性は高い。むしろ王はクロエを溺愛していたから、無理をしないかの方が心配になってくるくらいだ。
「だ、大丈夫かな……」
「ご心配なさらずとも、叔父上はいざとなったらとても頼れるお方です!」
そこについては心配してないんだけど、まあわざわざ訂正するほどのことでもないか。今はブレーメンが支援してくれる可能性が出来たという事が重要だ。
俺がそんなことを考えている間にも、クロエは手紙を書き終えそれを船長へと託した。あとは無事に王様たちへ届き、良い返事がもらえることを祈るしかない。
「じゃあ、俺たちは出航の準備をしてくるぜ」
話がまとまり、そう言って外へ出ようとする船長を俺は慌てて引き留める。
「あ、待って船長! 北大陸に戻るまでの食料はどれくらい必要そうですか?」
さっき行きよりは早く戻れると言っていたけど、十二日分は必要だろうか?
「あぁ? 七日分でかまわねぇよ。この町もまだ食料が必要なんだろ?」
「七日!? それはいくらなんでも少なすぎじゃ……」
「そんな心配すんなって。足りなくなったら釣りでもするさ、ガハハハ!」
自慢の顎鬚を撫で付けながら、そう豪快に笑う船長。本音を言えばかなり心配なんだけど、海の恐ろしさを知っている彼が甘い見積もりを出すとも思えなかった。
「本当に、大丈夫なんですね?」
「任せときな。大事な手紙も預かってんだ、きっちり届けてやるさ」
「分かりました。よろしくお願いします」
ここまで言われてしまったら、俺もその覚悟を受け入れるしかなかった。それにまだ短い付き合いではあるものの、彼ならやり遂げてくれるという信頼感があった。
これで食料面の問題は様子を見るとして、次は他の町のことを考えないと。
「ノリスさん。住民の意識がないところまで症状が悪化している町って、ここ以外にあとどれくらいあるか分かりますか?」
「この町以外だと、全部で七カ所ですね」
「すいません、その七カ所の場所を全部教えてもらっていいですか?」
「あ、はい! 少々お待ちを」
そう言ってノリスさんは腰に下げた袋から、一枚の羊皮紙を取り出した。それはシエラ王国だけに焦点を当てた地図で、かなり細かい道まで網羅されいている。
「ここと、ここと……それからここもですね」
地図を机の上に広げると、ノリスさんはその上に×印をつけていく。
見たところ、七カ所全てがこの町から王都へ向かう道すがらにある。少し道を逸れなければならない場所はあるが、それでも大幅な寄り道にはならないはずだ。
「よし、これなら……」
やりようはある。後はこれをやり遂げるために、どうしても彼女の力が必要だ。
「サーニャ」
「……え?」
顔を上げたサーニャの瞳には、まだ薄っすらと涙が浮かんでいた。これから俺が言うことは、もしかしたら彼女を追い詰めてしまうかもしれない。
だけど――。
「行こう。君にしか助けられない人がまだいるんだ。たから力を貸して欲しい」
「で、でも……」
「シエラ王だってまだ助からないと決まった訳じゃない。実際に病状を見ればティルの考えも変わるかもしれないし、浄化魔法以外にも治療する手はあるかもしれない」
俺だって理解してる、これはあくまで希望的な観測だって。だけど一度ティルが無理だと判断したものを、『それでも』と僅かな希望を求めた彼女ならきっと――。
「……わたし、行きます」
もう一度立ち上がってくれると、信じていた。
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