幕間
ようやく……病床から復帰しました……
フリッツたちがセントシュタットを離れてから数日が経過した頃、大魔導士ガザックのもとに宮廷魔術師筆頭であるメディナが訪れていた。
「お加減は如何でしょうか、ガザック様?」
「通常魔法での傷は既に癒えておる。じゃが問題は……」
「闇の魔法、ですか」
「うむ」
メディナはガザックの体にあるどす黒い痣のようなものを見て目をしかめた。
「その傷、誰から受けたもので?」
「お主にも予想がついているのではないか?」
「では、やはりオリアス様が?」
「そうじゃ。あの馬鹿たれが、闇の魔法になんぞ手を出しおって……」
そう言いつつガザックは深いため息を吐き出す。
「しかし未だに信じられません。あのオリアス様が聖地を裏切るなど」
「……ふむ。フリッツたちには黙っておったが、ワシも少し思うところがある」
「と、言われますと?」
「もしオリアスが本気でワシを殺そうとしたなら、ワシが生きているはずがないのじゃよ」
「なっ……!」
ガザックが放った一言に、メディナは二の句が継げなかった。
「弟子ではあるが、オリアスの実力はワシと同等のレベルまで上がっておった。総合的に見れば上回っていたと言っても良い。そこから魔族のみが行使できる闇の魔法の力まで得たのじゃ。トドメをさすことも容易じゃったろうて」
メディナ自身、オリアスの実力は十分に理解していた。幼い頃より神童と呼ばれ、歴史を紐解いても彼の才能に迫る人物がどれだけいたかと考える程である。
だがガザックとて魔剣に認められた訳ではないが、聖地から大魔道士の名前を与えられた傑物。そんな人物が簡単に敗れるなどメディナは想像出来なかった。
「もし仮にオリアス様がそこまでの実力を備えていたとして、ガザック様を敢えて逃したとしたら何かお考えがあるのではないでしょうか?」
だから、仮定の話としてメディナはガザックに問いかけることにした。
「あの阿呆の考えることなぞ分からんわい。じゃが……」
聖地で対峙した際のオリアスの表情が、ガザックの脳裏に甦る。常に冷静で表情を変えぬ、自身の一番弟子があの時浮かべていたのは――。
「(何かを受け入れ、覚悟した者の眼じゃった。あやつめ……何を考えておる?)」
「ガザック様?」
「いや、ワシも冷静にならんといかんな。今すべきことを、出来ることを行わねば」
「と、言いますと?」
「ダンタリオンが使っていた聖地からの転移門の様子をな……。潰したとはいえ、急いでおったから万が一があるといかん」
「……なるほど。ならば微力ではありますが、このメディナがお供させて頂きます」
「一国の宮廷魔術師長を供になど、贅沢じゃのう。本来なら断りたいところじゃが」
「何を仰いますか! ガザック様に護衛もつけなかったとあらば、それこそセントシュタットの恥でございます!」
「真面目じゃのう……では、参るか」
長年愛用していた杖をとり、聖地の印が入ったローブを纏うガザック。
今は敵の手に陥ちてはいるが、その誇りを失ったわけではない。必ずや聖地を、そしてそこにいる聖女を奪還するという確固たる意志がそこには在った。
例え自らの愛弟子ともう一度戦うことになろうとも。
一年も空いてしまい、誠に申し訳ございませんでした。
体と相談してほどほどのペースで更新していけたらと思います。




