出立
マリアガーデン行きが決まってから三日後、準備を終えた俺たちは出国のためセントシュタット城門前に集まった。
「申し訳ございません。本来であれば、もっとちゃんとした形でお見送りしたかったのですが……」
「いえ、今は復興が最優先ですから。ヘインズさんが来てくれただけで十分です」
「そう言って頂けると助かります」
ヘインズさんはいつもの鎧姿ではなく、半袖の動きやすい服装だ。復興作業の合間に時間を作って来てくれたのようで、なんだか申し訳なく思ってしまう。
「復興までどれくらいかかりそうですか?」
「完全にとなると、少なく見積もっても数年はかかりましょう。通例であれば世界会議はこの国で行いますが、今回ばかりは他の国での開催になるかもしれません」
「数年、ですか。先は長いですね」
「えぇ、ですが我々兵士が踏ん張らねばなりますまい。少しでも早く国民が安心して暮らせる街を取り戻さなければ」
そう答えるヘインズさんの瞳からは、確固たる意志が感じられた。こういう人が国を支えているからこそ、セントシュタットは世界一の大国になれたのかもしれない。
「なら、自分たちも与えられた仕事をしないといけませんね。分不相応にも魔導士の後継者になってしまいましたから」
「はっはっは、ご謙遜召されるな。短い間でしたが、私は貴方のような人であって良かったと心から思いましたぞ!」
「それ、わざと言ってます?」
「いえいえ、本心ですとも!」
こんな軽口を交わせるくらい親しくなった人と別れるのは、いつだって寂しい。だけど、またこうして笑いあう為にも行かなければならない。
「では、行ってきます」
「ご武運を」
握手を交わし、馬車に乗り込む。中には先に乗り込んだみんなが待っていた。
「挨拶は済んだ?」
「あぁ。行こう」
ティルに答えて、みんなもそれに頷く。目指すはマリアガーデンだが、補給もあるし所々でこれまで訪れた場所に立ち寄ることもあるだろう。
「出してください」
御者の人が鞭をいれ、馬が走り出す。
荷台から見えるセントシュタット城がだんだんと小さくなっていき、数時間も走ると完全に見えなくなった。さて、最初の補給はどこで取るべきか……。
「フリッツ様、少し宜しいでしょうか?」
「ん、なにクロエ?」
「叔父上に報告がてら、最初はブレーメンで補給を行っても宜しいでしょうか?」
「あぁ、それは良いかもしれないね。セントシュタット王からも知らせはいってるはずだけど、王様もクロエのこと心配してるだろうし」
「そうだな。元々はブレーメンからの援軍という形で向かった訳だし、報告の義務はあるだろう」
「あ、有難うございます!」
「良かったですね。クロエちゃん!」
俺とエレノアの同意を得て、クロエの表情がぱっと明るくなる。話を聞いていたサーニャもまるで自分のことのように喜んでいた。
「よし、なら話は決まりだな。御者さん、お願いできますか?」
「へい、お話は聞こえてました。自分としましても、ブレーメンに戻れるのはありがたいので」
この御者さんにもセントシュタットへ入国する際、ずいぶんと無理をしてもらった。できる限りお礼をしたいところだけど……。
「フリッツ様、この方へのお礼はブレーメンに戻ってからわたくしの方で叔父上に相談致します。世界的な危機を救ったのです。十分な報酬が用意されるでしょう」
考えていることを察したのか、クロエが小声で耳打ちしてくれる。
「それじゃあ、お願いしても良いかな?」
「はい、わたくしにお任せください」
にこりと笑ってクロエが離れる。顔が近寄っていたせいかもしれないが、依然と比べ彼女の顔に精悍さが増したように見えた。女の子には不適当な表現かもしれないが、あれだけ大きな戦いを経験すると嫌でも成長に繋がったのかもしれない。
クロエは基礎がすでに出来上がっていたし、加速魔法を習得した際のことを考えると吸収力も抜群だ。足りていなかったのは、実戦経験だけだったからな。
「フ、フリッツ様? そんなに見つめられると、その、困ってしまいます……」
「えっ……あぁ、ごめん!」
いかんいかん、ついマジマジと見つめてしまったようだ。
「少しだけ休むよ。何かあったら起こして」
最初の補給も決まり魔物もしばらく出てこないだろう。三者三様+一魔剣の視線を受けながらも、誤魔化すように目をつむる。
行きは三日で来たが、帰りは急ぐ必要もないので五日はくらいの行程になるだろう。まだ先は長いことだし、眠れる時に眠っておくことにしよう。




