次の目的地
「さて、どうしたもんかな……」
王との謁見の後、今後の目的地を決めるため部屋に戻り頭を悩ませる。
サーニャとクロエにも来てもらって先ほどから考えてはいるが、地図を見て初めて分かる広大過ぎる世界。勇者を探すにしても、どこから探したものか。
「フリッツ、少しいいか?」
「何か案がある、エレノア?」
「もし行く宛が無ければ、一度マリアガーデンに行くのはどうだろうか?」
「そういえば、エレノアはマリアガーデン出身だったね」
「ああ。女王陛下とも面識があるし、国内で勇者に関する情報があれば集めやすいと思うのだが……」
「マリアガーデンは北大陸だし、手近なところから探していくのはいい案かもしれない。どうだかな、ティル?」
「ま、良いんじゃない。それに道すがらペスタの村もあるみたいだし」
「えっ!?」
ティルの言葉を聞いて、思わずといった感じにサーニャが声を上げた。
言われてみればペスタから大きな山脈を越えた先がマリアガーデンだ。シエラ王国領なのに村の両隣が別の国なんて、今さらながら本当に特殊な立地だ。村を出てから何だかんだ時間も経っているし、一度戻ってみるのもアリかもしれない。
「せっかくだからペスタに寄って行こうか、サーニャ」
「で、でもフリッツさんには勇者様を探すという使命がありますし……。お気持ちは嬉しいのですが、わたしの都合で寄ってもらうのは」
「いや、俺も久しぶりに村のみんなに会っておきたいな。タイガたちが仕事をちゃんとやっているかも気になるし」
「で、ですが……」
やはりというか、サーニャは遠慮気味か。この優しさは彼女の魅力だけど、もう少しわがままを言ってもらいたい気もする。
仕方ない……そう考えながら視線をティルに向けると、彼女はため息を一つ吐いて彼女に近づいた。
「サーニャ。確かに勇者を探すことは大切な使命かもしれないけど、それが全てにおいて優先しなければならないことじゃないわ。貴女たちはニンゲンよ。体も心も、ずっと張りつめていては壊れてしまう」
「は、はい……」
「本当の故郷ではないけれど、あそこは貴女が育った村。たまにはみんなに顔を見せてあげなさい。村のみんなもきっとそう思ってるわ」
「は、はい! ありがとうござます!」
ティルの説得によって、ようやくサーニャが笑顔を浮かべた。本当は俺がこういう言葉をかけられたら良いんだけど、やはり女の子の扱いはティルが上手すぎる。
「あ、そういえばクロエは大丈夫かな? ごめん、何か勝手に話を進めちゃって……」
「いえ、わたくしはお供させて頂いている身。みなさまの目的地へと着いて行きます。ところで、そのペスタという村はサーニャ様の故郷なのでしょうか?」
「あぁ。俺も死にそうになっていたところを村の人に助けてもらって、すごくお世話になったんだ。だからみんな元気にしてるか気になっちゃってさ」
「そうでしたか。ならば是非参りましょう! お二人の大切な場所とあれば、わたくしにとっても大切な場所です!」
なんだろう。俺の故郷ってわけじゃないけど、ここまで言ってもらえるとすごく嬉しくなる。それだけペスタの村は、特別な場所になっていたということだろう。
「ふふ、これは決まりかな」
一連の流れを見て、マリアガーデン行きを提案したエレノアも満足そうだ。よし、これで次の目的地は決定したな。
「よし、じゃあ次の目的地はマリアガーデンだ! 支度を整えて、三日後を目安に出発しよう!」
※
「サーニャ殿から聞いたぞ。マリアガーデンに行くそうじゃの」
目的地が決まった翌日、俺は師匠のお見舞いも兼ねて今後の予定を伝えにきた。しかし治療のため今朝がた訪れたサーニャから既に大体の事は聞いたらしい。
「うん、エレノアがマリアガーデンの出身でね。女王様とも面識があるって言うから、情報収集はやり易いかなって」
「ええのぅ。マリアガーデンは女性国家。エレノアちゃんも綺麗じゃし、かわええ子がいっぱいおるんじゃろうな」
「そんなこと言える余裕があるなら、少しは安心して良いのかな?」
「何を言うか。女の子は浪漫じゃ……たとえどれだけ体が傷ついておろうと、その興味が尽きることはない」
「はいはい」
ま、こういうところも師匠の強さなんだろうな。
先日のダンタリオンとの戦いは本当に圧巻だった。まだまだ俺はこの人に追いつくことは出来ないと、当たり前だがそう思わされた。
「なあ、師匠」
「なんじゃ?」
「俺、師匠みたいに強くなれるかな?」
「まあ、なれるじゃろ」
「えっ、うそ?」
予想外の回答に、思わず素っ頓狂な声で返してしまう。手負いの状態であれだけ化け物じみた強さを誇る師匠にように、どうしたってなれるイメージが持てなかった。
「わしの強さなんて、しょせん年の功じゃ。鍛錬さえ欠かさなければ、いずれは到達できる領域。ただお前には魔力が無限に溢れ出すという唯一無二の素質がある」
確かにまだ制御はしきれないけど、この体質はティルとの相性抜群だ。
「わしとはモノが違うのじゃよ。その才能、無駄にするでないぞ?」
「うん……。とは言っても、制御をどう勉強していくかが課題かな」
「かっかっか、なら故郷の魔法学院にもう一度通ったらどうじゃ? 学長にはワシから頼んでやっても良いぞ?」
「そう言えば師匠に初めて会ったのは、学院の特別講義だったなぁ」
学長の知り合いとは聞いていたけど、あの時はここまですごい人だとは知らなかった。師匠の弟子になったのも、俺の才能を唯一買ってくれていた友人が頼んでくれたからだし。結局そいつや幼馴染みにも黙って故郷を出て来ちゃったしなぁ。
「はぁ……」
「なんじゃ、突然ため息なぞ吐いて」
「い、いや何でもないよ。学院は興味あるけど、海の向こうだし直ぐには無理かな。マリアガーデンとは方角も正反対だしね」
とにかく今はマリアガーデンが先だ。
魔力の制御はティルに話を聞きながら、毎日練習するようにはしよう。そしていつか故郷に帰る時には、せめてもう少し立派になっておきたいものだ。




