魔将ダンタリオン
「会議中失礼いたします! 悪魔です! 悪魔が攻めて参りました!」
「なに! 数は!?」
「それが……1体であります」
「バカな、単身で攻めてきたというのか!?」
――たった1体?
一瞬疑問に思うも、冷静になれば直ぐに異常な事態であることに気付く。その一体が特に問題のない個体であれば、伝令がここまで慌てて駆け込んでくるはずがないのだ。対応した将校もそう考えたのだろう、直ぐに次の問いを発する。
「それで、被害の数は?」
「既に300名以上の死傷者が出ております。現在は援軍に来て頂いたクロエ殿を筆頭に何とか食い止めておりますが、このままでは……」
「フリッツ!」
「ああ!」
エレノアの呼びかけに短く応える。
失敗した。クロエの性格を考えれば周囲に危険が迫った際、真っ先に飛び出してしまうことは想像がついたはずだ。
だがゆっくり後悔もしてられない。少しでもはやく駆け付けないと、クロエの身が危ない。ティルにも視線で合図を送るが、返ってきたのは静止の一言だった。
「待って。フリッツは良いけど、エレノアは別のところに行ってもらいたいの」
「別のところですか?」
「えぇ。ここの兵士たちと城の裏手に回ってちょうだい」
「……なるほど、ティル殿は正面の敵が陽動であると考えておられるのですね」
「話が早くて助かるわ。それに正面から来ているのがもしアタシの考えているヤツだったら、いくら師団長クラスでも勝負にならない。最悪の場合、城を放棄して逃げてもらうことになるかもしれないど……第一師団長、大丈夫かしら?」
「……承知しました。我々は全力を持って裏門を固め、万が一に備え王にも進言致しましょう。ヘインズ、準備を整えておいてくれ」
「承知!」
方針が決まり慌ただしく動き出すエレノアとセントシュタットの将校たち。後は……サーニャをどうするか。
「ティル、サーニャについてなんだけど……」
「あの悪魔が前にいる可能性を考えると、ここに残ってヘインズに護衛についてもらった方が安全かもしれないわね。それでも危険度は大きく変わらないでしょうけど」
「分かった。サーニャ、そういうことだからオレたちが戻るまでヘインズさんと一緒にいてくれるかい?」
「……」
「サーニャ?」
「……わたし、フリッツさんと一緒に行きます」
「サーニャ、それは――」
「お願いします! みんなが戦っているのに、わたしだけ守られるだけのお荷物になりたくないんです! それに、まだ信じられないですけどわたしは聖女様の血を引いているんですよね? なら、戦う責任があると思います」
どうする? 今もクロエが戦っているのだから迷っている時間はない。ティルは危険度に大きな違いは無いと言っていたが……守りきれるのか、強大な敵を相手に?
「サーニャ、それで良いのね?」
だが躊躇するオレの代わりに、ティルが確認の意味を込めてサーニャに問いかけた。
「はい、わたしも戦います。クロエさんがケガしていたら治してあげたいですし、それに……何よりもフリッツさんに無事でいて欲しいですから」
……オレは馬鹿だ。ここまで想ってくれる人に対して、こんなにも臆病になっていたのだから。大丈夫だ、例えどんな敵が相手であったとしても、守ってみせる。必ず。
「行こう」
「……はいっ!」
言葉はそれだけで充分だった。そして待っていたかのようにティルが剣の形となり手に収まる。クロエ、直ぐにいくから無茶だけはしないでいてくれ――そう祈らずにはいられなかった。
そんなオレの祈りが届いたのか、前線まで戻ってくるとクロエはまだ倒れるをことなく戦い続けていた。というよりも、
「くそっ、こちらに降りてこい!」
悪魔はクロエを敵として認識していなかった。しかし遠目から見ても兵士たちは執拗に狙われ続け、伝令で聞いた以上に被害が広がっていた。
「クロエ!」
「っ! フリッツ様!」
オレの呼びかけに反応すると、クロエは素早くこちらまで後退してくる。
「申し訳ありません……直ぐにでも伝えに行こうと思ったのですが、あまりに被害が大きくこの場を離れることができませんでした……」
「いや、本当に無事で良かった。ケガはしてない?」
「わたくしの方は大丈夫です。ですが、兵士の方たちが……ごめんなさい、何も、守れていないです、わたし……」
「大丈夫。本当に良く頑張ったね、クロエ」
泣きそうになっているクロエを軽く抱きしめる。いくら勇者を目指しているからって、まだ14歳の女の子だ。戦場で折れずに戦っただけでも、それは勇気ある者の行動としては十分だった。
「サーニャ、念のためクロエを診てあげてくれるかい? オレとティルはアイツを……」
視線のはるか先、縦横無尽に暴れまわる悪魔に目を向ける。
そいつは幾つもの顔を持っていた。比喩ではなく、頭部が多くの仮面で埋め尽くされていたのだ。貴族が身に着けるような背広を纏っているが、胴体と下半身の間に黒い空間ができており、そこからいくつもの目が覗き込んでいる。背中には悪魔特有の羽根を生やし、何より特徴的なのは大きな本のを大事そうに抱えているといった点だ。
(はぁ……サイアクね)
オレが悪魔を視認すると同時に、本当に最悪といった感じのティルの思念が伝わってきた。
「もしかして、アイツが?」
(えぇ。幾度も繰り返してきた大戦の中で、勇者パーティーたちが唯一仕留めきれなかった。その狡猾さと残忍さで下級悪魔から魔将にまで成り上がった百の顔を持つ悪魔。名前は――)
そこまで言うとティルは人間の姿に戻り、悪魔に向かって吼えた。
「そこまでだ、ダンタリオン!」
ここから2章の盛り上がり部分になってくる……はずなんですが、よく考えたら章タイトルっぽいことやってない気がしますねぇ。




