最前線
馬車が走り出すと、俺はすぐさま正面に向かって剣を構えた。
加速魔法がかかっているためスピードは速く、立っているのさえやっとの状態だ。それでも何とか踏ん張って、道を切り開かねばならない。
「ふぅーーーーー」
大きく息を吐き、足に力を入れる。魔物たちとの距離が縮まり、だんだんとその姿がはっきり見えてきた。さっきは50と見積もったが、100はいるかもしれない。
『そろそろよ。射程に入ったら合図するから、思いっきり振って』
「分かった」
そうだ。今は格好は気にしなくていい。
とにかくありったけの力を込めて剣を振るう。それだけでいい。
自分が出来ることをする。
そうやって魔力タンクとして生きてきたんだ。いまもきっと、出来るはず。
『今よ!』
「せやああぁぁーーーっ!!」
ティルの合図を受け全力で剣を振り下ろす。すると魔獣を倒した時と同じくらい大きな斬撃が放たれ、一直線に魔物の大群へと向かっていった。
だがその直後、一気に体から魔力が抜けていく感覚に襲われ体が傾く。
「くっ……」
『無尽蔵とはいえ、いつもより多めに魔力を吸ったからちょっと体が追いついてないかもしれないわね。でも、見なさい』
「え……」
先ほど放った斬撃が多くの魔物たちを薙ぎ払い、次々に消滅させていった。そして、その先で戦っていた兵士たちがいる町の入り口までの道が開いた。
向こうもこちらに気付いたのか、旗を振って合図を送ってくれている。
「突っ切るぜ!」
御者の人が手綱を操り、馬車はさらに加速する。
一方で俺たちの存在に気付いた上空のガーゴイル部隊は、キィキィという不気味な鳴き声を上げながら一斉にこちらに向かってきた。
間近で見ると、そのスピードは思ったよりも早い。
「エレノア、クロエ、頼む!」
「任せろ!」
「はい!」
二人が馬車の両脇から弓を構え、ガーゴイルに向けて発射する。
エレノアはさすが軍人というだけあって、弓の扱いも大したものだった。セントシュタット兵が当てるのに苦労していたガーゴイルにも、正確に弓を射かけている。
そしてクロエの方も、自信がないと言っていた割には精度の高い射撃を行っていた。 魔法も使え、武芸の才能にも秀でている。やっぱり彼女は大した器だ。
「二人に負けてられないな」
さっきの斬撃で一度は割れた魔物のたちの群れが、また元に戻ろうとしている。セントシュタット兵もなんとか道を開こうとしているみたいだが、長い戦いで疲弊しているせいか思うようにはいっていない。
やはり、こちらからもう一度道を開くしかないか。
「ティル、もう一撃いく!」
『さっきのと同じ威力は期待しないようにね。吸っていた分はあれで全部使い切ったから』
「その分、回数振ればいいってことだろ?」
『ま、間違っちゃいないわね』
「上等!」
剣を再び握り直し、続けざまに斬撃を放っていく。その度に魔物たちが消し飛び、徐々に町を守るセントシュタット兵が近づいてくる。
そんな中で、俺は次の一手を考えていた。
もしこのまま町へ一直線に向かってしまえば、せっかく援軍が来たことで上がったセントシュタット兵たちの士気が下がってしまうかもしれない。
しかし事前の打ち合わせでは町に一直線と言ってあるし、何より御者の人とサーニャは安全な場所に移したいという思いがあった。
(戦況は……?)
さっきまで押され気味だったが、徐々にセントシュタット軍が押し返しているように見える。今の戦況を維持できれば、この戦いについては勝つことが出来そうだ。
あとはいかに士気を下げずに、馬車を町まで移動させ、かつ戦闘に勝利するか。
「フリッツ、どうする? 一度セントシュタット兵と合流するか?」
「いや。エレノアたちは打ち合わせ通り、このまま町まで向かって欲しい」
「お前はどうするつもりだ?」
「それはね……」
足りない頭で考えたけど、三つの条件を満たすのは難しかった。だから――。
「はっ!」
俺は思い切って馬車から飛び降りる。そして思惑通り、ちょうどセントシュタット兵が戦っているあたりに着地することに成功する。
……足がめっちゃ痛いけど、ひとまず今は考えないことにして。
「フリッツ!?」
遠くでエレノアの驚く声が聞こえたが、さすが加速魔法のかかった馬車、あっという間に離れていく。これなら街までも直ぐにつく頃が出来るだろう。
それよりも、だ。
「き、貴公……援軍か?」
一人のセントシュタット兵が声をかけてきた。
胸の勲章を見るに、おそらくこの戦いの指揮をとっている人だと思う。適当に飛び降りたのだけど、士気に影響のある人のところに降りることが出来たのは幸いだ。
「えぇ、ブレーメンから援軍に来ました」
「しかし、単独とは……先ほどの馬車は?」
「あれにも仲間が乗っている心配しないでください。でも、とりあえずここは俺が」
「まさか一人で立ち向かわれるつもりか!? あの数相手にどうやって……?」
「それはですね」
兵士の人と話ながらも、ティルに魔力を受け渡していく。そして多くの人に見えるよう剣を天に掲げると、そのままありったけの魔力を込めて一気に振り下した。
「せぇい!」
一閃――それだけで数十の魔物たちを巻き込み、切り裂いた。そして矢継ぎ早に、別の群れに向けて二撃三撃と放っていく。魔物たちは中位以下の魔物で構成されていたのか、斬撃の射線上には何も残らず全てを消し飛ばした。
「おぉ、なんて強さだ……。この戦い、勝てるぞ!」
「勝てる……勝てるんだ!」
「行くぞ! 俺たちも続くんだ!」
そしてこういう分かり易い強さが、戦場で士気をあげるのにもっとも効果的だ。俺は過去に様々な冒険に魔力タンクとして帯同し、それを学んだ。
だからちょっとばかり芝居っぽくなったけど、どうやら効果的だったようだ。
「貴公は一体……?」
「すいません自己紹介が遅れて。俺はフリッツ・クーベル。救援要請に応え、ブレーメンから派遣された者です」
「おぉ……無事にブレーメンへとたどり着いてくれたか。申し遅れました、私はヘインズ・クラッド。セントシュタット第二師団長です。此度の援軍、感謝致します」
「いえ、俺はやれることをやっただけです。それより敵の増援は来るでしょうか?」
「……ほぼ間違いなく来るでしょうな。今までがそうでした」
「間違いなく、ですか」
なんとなく予想はしていた。
これだけ中位の魔物が群れを成して人を、それも一国家を襲うなんてことは早々ない。あるとすれば、魔物たちの後ろにはさらに上位の存在が控えている場合だろう。
「背後にいるのは上位の魔物……しかも悪魔種でしょうか?」
「我々もその存在を疑っています。姿をみせないので、確信はないのですが……」
言われて戦場に視線を向けると、どうやら大勢は決したようだった。士気の上がったセントシュタット兵が、魔物の群れを押し返し完全に戦況が逆転したのだ。
それを不利と悟ったのか、魔物たちは一斉に引き返していく。
この素早い判断……高い知能を持った悪魔種特有の行動だ。知能のもたない魔物であれば、こういった統率の取れた動きは取れない。
それだけに、上位の悪魔が背後にいるとなるとかなり厄介になる。
「追撃はしますか?」
「いえ、我が軍も満身創痍の状態であることに変わりありません。一度町に戻り、態勢を立て直すを立て直す必要がありましょう」
「分かりました。では、俺も町に向かった仲間と合流しに行きます」
「では町までご案内いたしましょう。皆の者、引き上げるぞ!」
「「おぉーー!!」」
ヘインズさんの号令一下、兵士たちは勝鬨をあげながら撤退していく。
しかし周囲を見る限り、負傷していないものは誰もいない状態だった。さらに魔物たちが引き上げて分かったが、この戦いでかなりの犠牲者が出たようだ。
あと来るのが一日遅れていたら……そう考えると、思わず背筋がゾッとした。
だが、これで終わったわけではない。
上位の悪魔が控えているとなると、明日はもっと大軍勢がくる可能性がある。そうなると、例えティルがいようとも決して油断できない。
分かっていたことではあるけど、かなり厳しい状況だな……。
とにかく今は町で現状を確認してから、足りない物の把握と明日からの作戦を……考え始めたらやることが多すぎてきりがない。それでも――。
「やるしかない、か」
自分から志願してこの戦場に来たのだ。中途半端なことは出来ない。それに、ある程度ならどうにか出来る力を持っているのだ。
「頑張らなきゃな」
城下町を町を目指しながら、俺は自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
あとがきだから言いますが文章力と語彙力が崩壊している回。
いつも崩壊してないかと言われれば、かなり怪しい部分もありますが。
でもとにかくストーリー進行優先でエタらないように行きたいです。




