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夢と褒美

タイトルを『魔力タンクと蔑まれたオレが口の悪い魔剣を拾ったら、何故か最強の魔剣士になっていた』から『魔力タンクと蔑まれた魔法使い、魔力で強くなる魔剣を拾う』に改題致しました。


理由としまして「主人公そんな最強じゃないじゃん!」っていうのと「魔剣そんなに口悪くないじゃん!」っていうセルフツッコミが自分の中で発生したからです。

 不思議な夢を見ていた。何故夢だと思ったのかというと、あまりに現実感のない状況だったからだ。


 場所は恐らくどこかの城の中だ。だけどそこに煌びやかさは一切存在せず、まるで城ごと深い闇の中に沈んでしまったかのような暗さだ。


 そんな場所で、俺の体は半透明に透けて浮いていたのだ。これを夢だと言わず、なんと呼べば良いだろうか?


 状況が分からず周囲をうかがっていると、予想外の人物を視界にとらえた。それはティル……なんだけど、俺の知っている彼女とずいぶん雰囲気が違っていた。


 その表情には何の感情も浮かんでおらず、ただただ呆然と佇んでいた。


 そして彼女の傍らには、見知らぬ一人の男性が横たわっていた。だがその人はピクリとも動かず、あまり考えたくはないが既に亡くなっているように感じられた。


「本当に、バカなヤツ」


 突然、ティルがポツリと呟きを漏らした。自分に放たれた言葉かと思い焦ったが、どうやらそうではないらしい。彼女の視線は、横たわる男性に向けられていた。


 (あ……)


 次の瞬間、俺は信じられないものを光景を目にした。泣いていたのだ――あのティルが。もちろん彼女にも感情はあるし、涙を流すことだってあるのかもしれない。


 でもその表情はあまりにも悲痛で、俺の知っているティルからは想像もつかない姿だった。そして、そんな彼女を見てようもなく胸が苦しくなった。


 やがて、視界がだんだんとぼやけていく。どうやら、目覚めの時が近いのかもしれない。だけど、もしかしたらこの夢は――……。



「……ん」


 深い深い眠りの底から、意識がゆっくりと浮上してくるのが分かる。やがてそれは脳にまで到達し、起きろという指令に従いようやく目が覚める。


「……ここは?」


 天井を見るに、おそらく先日通されたバルディゴ城内の貴賓室だと思う。ここに寝かされているということは、俺は奇跡的に生き延びたのか。


「ん?」


 そこで、ようやく体に乗っている微かな重さに気付く。


 見ればティルが、俺のお腹の辺りに頭をのせて眠っていた。幸い彼女の寝顔は、夢の中とは違いとても安らかなものだった。


「んん……」


 俺が動いたせいか、ティルがわずかに身じろぎ美しい銀髪がさらりと揺れる。少し戸惑ったが、俺はその形の良い頭をそっと撫でた。


 ――もしかしたら、心配して側に居てくれたのかもしれない。


 もちろん勘違いである可能性も高いが、夢の中で見たあの悲痛な顔を思い出したらこうしたくなったのである。まあ怒られたら、素直に謝ろう。


「ごめんな……心配させて」


「……だったら死なないように努力なさい」


「ティルっ! 起きてたの!?」


「ついさっきね。まったく、イヤな夢を見たわ」


 そう言いながらティルは「うぅーん」と伸びをした。


「ま、でも今回は完全にアタシの責任ね。ごめんなさい」


「ど、どうしてティルが謝るんだよ?」


 怪我をしたのは一撃でトドメをさせなかった自分の責任だ。


「アタシが魔獣なら40の力で大丈夫だって言ったから。でも実際は足りなかった。そのせいでアンタに大怪我を負わせてしまった」


「でもそれは40以上出せなかった俺が悪い。ティルは出せる力を全て出しきってくれたんだろう?」


「それは、そうだけど……」


「なら、それは俺の責任だ。マリクのように100の力を出せなかった俺の」


 マリクならきっとティルの力を限界まで引き出して、一撃で仕留められたはずだ。そう考えると、やっぱりまだ自分は足手まといのフリッツなんだと実感してしまう。


「アイツだって最初から100の力が出せた訳じゃないわ。だからフリッツが気にする必要はない」


 ティルはそう言ってくれたが、やはり自分の中では割り切れない。だから――


「いつかきっと、ティルに恥じない魔法使いになってみせるよ」


 自分に言い聞かせるように、そう宣言する。


「……そ。ただ、これだけはお願い」


「ん、なに?」


「……もう二度とあんなムチャしないで」


「分かった、約束する」


 それは俺に言った言葉なのか、それとも夢の中で見た男性へ向けたものなのか。今はまだ、それを知る術はなかった。



「フリッツ! 良かった……目が覚めて……本当に……」


「フリッツさん……もう、本当にいつも無茶ばっかり……」


 ティルとの会話の後まもなくして、エレノアとサーニャが部屋にやってきた。


 二人とも俺の顔を見るなり泣き出してしまい、本当に心配をかけてしまったと改めて反省しなければならないと思った。


 特にエレノアは責任を感じていたようで、抱きつかれながら大号泣された。


 いつも冷静な彼女の珍しい姿に面食らったが、それだけ心配してくれたんだと嬉しさもあった。やがて涙もおさまると、エレノアは少し恥ずかしそうにこう言った。


「国を救ってくれた英雄をもてなしたいと王も仰せだが、今は治療に専念した方が良いだろう。傷が癒えるまでは私が全面サポートするから、何でも言ってくれ」


 俺はその申し出を、有り難く受けることにした。


 と言っても、寝てるばかりだとリハビリにもならない。今回の戦いで実力不足を感じた俺は、思い切って剣の稽古をつけてくれないかとお願いすることにしたのだ。


 その後どうなったかって? それはもう、すごく怒られた。


 最初は「ダメだ、安静にしていろ!」と断られたが、何でもしてくれるって言ったよね?(正確には「何でも言ってくれ」だけど)と迫ると渋々頷いてくれた。


 魔獣討伐から十日ほど経つと、ようやく歩けるようになりエレノアの稽古が始まった。最初の数日は、自分の実力の無さを改めて確認する結果になってしまった。


 それでもエレノアが根気強く付き合ってくれたおかげで、怪我が完治する頃にはバルディゴ流剣術の基本の型は習得することができた。


 そして遂に、バルディゴ王宮へ向かい魔獣討伐を正式に報告する時が来た。


「よくぞ参った、救国の英雄よ! 此度のそなたの働き、まさに大魔導師マリク様の後継者にふさわしいものであった!」


 玉座の間にて行われた祝賀会にて、王から最大限の賛辞が送られた。その言葉を皮切りに、広間に参列した人たちからの割れんばかりの拍手が起こる。


「この功績から、そなたに何か褒美をと考えている。何か望むものはあるか?」


「えーっと……」


 どうしよう、全然考えてなかった。でもそうか、褒美か……。いちおう国を救ったと思われてるなら、多少無茶な要望でも通るかもしれない。


 だったら――。


「民間ギルドと王国ギルドの間にある格差を、是正しては頂けませんでしょうか?」


 ミケルを始め民間ギルドに所属する冒険者は、誰もが王国付きギルドとの力関係に不満を持っている。今はまだ大きな問題は起きていないが、この先も不満がたまり続けるといずれ大きな軋轢を生みかねない。


 俺も民間ギルドに所属するものとして、この問題はやめに解消しておきたかった。


「……その件か」


 しかし、王の反応はあまり芳しくない。さすがに欲張り過ぎただろうか?


「いや、安心してくれフリッツ。それについては、既に考えておる。今は民間ギルドを国で買い取り、王国付きと合併させ国営で運用する形で話が進めておる」


 だが予想に反して、王は具体的な案を例に対策を進めていると説明してくれた。この内容であれば、確かに格差はなくなり軋轢も生まれないだろう。


 ここまで準備が進んでいるなら、さっきはどうしてあんな反応だったんだろう?


「……実はその二つの区分けを作ったのは前の大臣でな。あまり身内の恥は晒したくないのだが、その大臣が二つのギルド間で浮いた金を着服していたんだよ」


 俺の気持ちを表情から読み取ったのか、王は観念したようにそう言った。


「えっ! ということはつまり……」


「実際に王国付きと民間で、差はあまり無かったってことだ。ただ、情報操作は上手くやってたみたいでな。民間の不満は、全て王国付きに向けられていた訳だ」


 冒険者たちは、長年その大臣に踊らされてたってことか。なんて悪質な。


「それで、その大臣は……?」


「財産を全部没収して、身ぐるみ剥いだ状態で国外追放にした。本当は縛り首にしてやりたかったがな。アイツめ……オレの傭兵まで勝手に追い出しやがって……」


 どうやら個人的にも恨みがあるらしい……ん、傭兵?


「王様、その傭兵ってもしかしてタイガという名前だったり……」


「ん? フリッツ、お主タイガのことを知っているのか?」


「知っているも何も……」


 俺は山賊に身をやつし、今はペスタ村で働いていることを王に伝えた。


「なんと! まさかタイガの奴もペスタ村にいると申すのか。うぅむ、何という巡りあわせだ。それにしてもアイツほどの男が盗賊をやっていたとは……」


 反応を見る限り、王の信頼もそこそこあったようだ。それなら――。


「褒美の話に戻りますが、タイガの国外追放を取り消してやってもらえないでしょうか? この国でのことも本人は冤罪だと言ってましたし、盗賊はやっていましたが村人にも許され更生もしています」


「もちろんだ! 元々は我が臣下の不始末……頼まれるまでもなく、国外追放は取り消そう。タイガが望むのであれば、再び私の下で働いて欲しいとさえ思う」


 俺のお願いを、王は快く受け入れてくれた。うん、これで丸く収まった――。


「あ」


「ん、どうしたフリッツ?」 


 そういえば肝心なことを忘れていた。


「いえ……タイガたちがバルディゴに戻ってくるとなったら、ペスタ村の警備はどうしたものかと思いまして」


「シエラ領であれば、シエラ王国の辺境警備隊はいないのか?」


「サーニャの話によると、少し前からとつぜん来なくなってしまったようです」


「ふむ……ならばこうしよう。一度ペスタに遣いをやって、タイガたちに今後どうするかを聞いてみよう。もしタイガたちがバルディゴに戻ってくるようなら、私がシエラ王に辺境警備隊をペスタに送るよう打診しよう」


「有り難うございます、王。寛大な措置に感謝致します」


「うむ。しかしそなた、人のことばかりで自分の欲を全く言わんな、もっと個人的な望みはないのか?」


「あっ……えーっと……」


 どうしよう、全く思いつかない……。


「謙虚なのは美徳だが、もう少し欲に正直になっても良いのだぞ? まあこの国はいつでもそなたの味方になる。そのことだけは忘れないでくれ」


「はい!」


「よし! では堅い話はしまいにして、そろそろ宴を始めようぞ! みな、杯を持て! 英雄の帰還を共に祝おうぞ!」


 こうして宴は始まり、集まった人たちはあるいは歌い、あるいは踊り、みな久しぶりに魔獣の影におびえることなく心ゆくまで飲み明かした。


 そして、それは明け方近くまで続くことになった。

前書きにも書きましたがタイトルを改題致しました。混乱させてしまい申し訳ございません。

今回も読んで頂いた方、ブックマークして頂いた方、有難うございます!

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