兵士の在り方
マーケットまで来ると、そこには想像以上の人であふれかえっていた。
「す、すごい人ですね……」
「目が回りそうです……」
初めて訪れるクロエとユーリはもちろん驚いていたが、俺もこの人だかりは予想外だ。前も賑わいがあったことは間違いないが、ここまでではなかった。
「世界会議の影響かな?」
「まあ、そうだろうな。この国では見ない身なりの者も多い」
俺の疑問に答えつつも、エレノアはさりげなく道行く人の服装を確認していた。
確かに、バルディゴではあまり見ない服装の人が多い。俺は言われないと気付けなかったが、エレノアはさすがの観察眼だ。
「だが、こういった時に紛れて良からぬ輩が入国してくる」
「あぁ、うん。確かに」
エレノアの言葉に同意しながら、昔この国で起こったある出来事を思い出していた。
それは俺が冒険者ギルドに登録して間もない頃。バルディゴ王の発案で、武闘大会が開催されることになったのだ。商品も豪華なものが用意され、バルディゴには武闘大会に参加するため多くの人が訪れた。
だが参加者に扮して盗賊が入国しており、武闘大会の場で国王を襲撃する事件があったのだ。
もちろんその盗賊は、とある兵士の活躍によりあっという間に捕縛された。……まあ、エレノアのことなんだけどね。
「いやぁーあの時のエレノアの反応、すごかったなぁ」
実は俺も観客として見ていたのだが、あれは見事なものだった。
「ふ、今のフリッツならあれくらいは出来るさ。もし何か起こった時は期待しているぞ」
「あはは……。でも世界会議なら流石に他の国の正規兵もいるし、問題を起こそうとする奴なんていないでしょ」
「そうだといいのだがな……」
まあエレノアの心配もわかるけど、さすがに今回は大丈夫だろう。
※
そう思っていたんだけどなぁ……。
「おい、早く謝れと言っているだろう!」
「いえですから、先ほどから申し訳なかったと言っているじゃありませんか」
もうすぐ目的の店にたどり着こうかという時になって、少し前から何やら言い争う声が聞こえてきた。あまりの剣幕に道行く人も足を止め、何事かと周囲を伺っている。
「そんなものは謝罪とは言わん! お前たち平民と違い、私は貴族だぞ! 謝るなら地面に頭をこすり付けて詫びろ!」
「そ、そんな……」
遠目から見た感じ、高圧的な青年が気弱そうな中年の男性を怒鳴りつけているようだ。
「あの、何かあったんですか?」
「あぁ、あれかい? さっきあの二人がぶつかったんだよ。それでおじさんの方が謝ったんだけど、若い子が謝り方に納得できないって怒っていてね」
事情が分からず近くにあった露店の女性店主に尋ねてみると、そんな答えが返ってきた。
「この人込みじゃ、多少ぶつかるくらい仕方ないのにねぇ。お互いあやまりゃ済む話じゃないかい。アンタもそう思わないかい?」
「そうですね……」
「だろう? 本当なら止めに入りたいところだけど、貴族って言ってたからねぇ。外国のお偉いさんだったら、下手に機嫌損ねて世界会議に影響出ても困るし……どうしたもんかねぇ」
なるほど。確かに周囲にいる他の人たちも、どこか歯がゆそうにしながらも仲裁に入る様子はない。もし貴族というのが本当なら、下手に介入すれば国際問題になりかねない。
普通の人だと間に入りづらい状況だな。まあ、あの青年が本当に貴族はどうかは分からないけど。
「ん?」
「どうしたフリッツ?」
「あの貴族の男の服……どこかで見覚えが……」
エレノアに反応しつつも、自分がどこで服を見たか記憶を遡らせる。しかし外国の服なんて、故郷のエルドリアのものくらいしか……。
「あ!」
「何か思い当たったのか?」
「あれ、エルドリア魔法師団の正装だ」
「なに?」
うん、間違いなくそうだ。
学生時代に卒業生の魔法師団が実技指導をしにきたことがあるが、その時ちょうどあの服を着ていた。
「つまり、あれがエルドリアの正規兵という訳か? 冗談だろう……」
信じられないというようにエレノアが顔を引きつらせている。まあ気持ちは分かる。
バルディゴでは、兵士たちは厳しい規律に従って行動している。いつでも民に信頼される兵であれ、というが王の方針だからだ。そこで兵士として働いていた彼女からしたら、目の前の青年の行動は受け入れ難いだろう。ただ俺としては――。
「エルドリアならああいう兵がいても不思議じゃないんだよなぁ……」
というのが正直な感想だった。それを聞いて、エレノアはさらに首をひねる。
「どういうことだ?」
「エレノアは、魔法使いはほぼ血筋で能力が決まるのは知ってる?」
「あぁ。だから鍛錬すれば成長できる戦士と違って、血筋を大事にしているのだろう?」
「うん。まあそれが原因で結構面倒くさいことになっていてね――」
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