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兵士の在り方

 マーケットまで来ると、そこには想像以上の人であふれかえっていた。


「す、すごい人ですね……」


「目が回りそうです……」


 初めて訪れるクロエとユーリはもちろん驚いていたが、俺もこの人だかりは予想外だ。前も賑わいがあったことは間違いないが、ここまでではなかった。


「世界会議の影響かな?」


「まあ、そうだろうな。この国では見ない身なりの者も多い」


 俺の疑問に答えつつも、エレノアはさりげなく道行く人の服装を確認していた。


 確かに、バルディゴではあまり見ない服装の人が多い。俺は言われないと気付けなかったが、エレノアはさすがの観察眼だ。


「だが、こういった時に紛れて良からぬ輩が入国してくる」


「あぁ、うん。確かに」


 エレノアの言葉に同意しながら、昔この国で起こったある出来事を思い出していた。


 それは俺が冒険者ギルドに登録して間もない頃。バルディゴ王の発案で、武闘大会が開催されることになったのだ。商品も豪華なものが用意され、バルディゴには武闘大会に参加するため多くの人が訪れた。


 だが参加者に扮して盗賊が入国しており、武闘大会の場で国王を襲撃する事件があったのだ。


 もちろんその盗賊は、とある兵士の活躍によりあっという間に捕縛された。……まあ、エレノアのことなんだけどね。


「いやぁーあの時のエレノアの反応、すごかったなぁ」


 実は俺も観客として見ていたのだが、あれは見事なものだった。


「ふ、今のフリッツならあれくらいは出来るさ。もし何か起こった時は期待しているぞ」


「あはは……。でも世界会議なら流石に他の国の正規兵もいるし、問題を起こそうとする奴なんていないでしょ」


「そうだといいのだがな……」


 まあエレノアの心配もわかるけど、さすがに今回は大丈夫だろう。



 そう思っていたんだけどなぁ……。


「おい、早く謝れと言っているだろう!」


「いえですから、先ほどから申し訳なかったと言っているじゃありませんか」


 もうすぐ目的の店にたどり着こうかという時になって、少し前から何やら言い争う声が聞こえてきた。あまりの剣幕に道行く人も足を止め、何事かと周囲を伺っている。


「そんなものは謝罪とは言わん! お前たち平民と違い、私は貴族だぞ! 謝るなら地面に頭をこすり付けて詫びろ!」


「そ、そんな……」


 遠目から見た感じ、高圧的な青年が気弱そうな中年の男性を怒鳴りつけているようだ。


「あの、何かあったんですか?」


「あぁ、あれかい? さっきあの二人がぶつかったんだよ。それでおじさんの方が謝ったんだけど、若い子が謝り方に納得できないって怒っていてね」


 事情が分からず近くにあった露店の女性店主に尋ねてみると、そんな答えが返ってきた。


「この人込みじゃ、多少ぶつかるくらい仕方ないのにねぇ。お互いあやまりゃ済む話じゃないかい。アンタもそう思わないかい?」


「そうですね……」


「だろう? 本当なら止めに入りたいところだけど、貴族って言ってたからねぇ。外国のお偉いさんだったら、下手に機嫌損ねて世界会議に影響出ても困るし……どうしたもんかねぇ」


 なるほど。確かに周囲にいる他の人たちも、どこか歯がゆそうにしながらも仲裁に入る様子はない。もし貴族というのが本当なら、下手に介入すれば国際問題になりかねない。


 普通の人だと間に入りづらい状況だな。まあ、あの青年が本当に貴族はどうかは分からないけど。


「ん?」


「どうしたフリッツ?」


「あの貴族の男の服……どこかで見覚えが……」


 エレノアに反応しつつも、自分がどこで服を見たか記憶を遡らせる。しかし外国の服なんて、故郷のエルドリアのものくらいしか……。


「あ!」


「何か思い当たったのか?」


「あれ、エルドリア魔法師団の正装だ」


「なに?」


 うん、間違いなくそうだ。


 学生時代に卒業生の魔法師団が実技指導をしにきたことがあるが、その時ちょうどあの服を着ていた。


「つまり、あれがエルドリアの正規兵という訳か? 冗談だろう……」


 信じられないというようにエレノアが顔を引きつらせている。まあ気持ちは分かる。


 バルディゴでは、兵士たちは厳しい規律に従って行動している。いつでも民に信頼される兵であれ、というが王の方針だからだ。そこで兵士として働いていた彼女からしたら、目の前の青年の行動は受け入れ難いだろう。ただ俺としては――。


「エルドリアならああいう兵がいても不思議じゃないんだよなぁ……」


 というのが正直な感想だった。それを聞いて、エレノアはさらに首をひねる。


「どういうことだ?」

 

「エレノアは、魔法使いはほぼ血筋で能力が決まるのは知ってる?」


「あぁ。だから鍛錬すれば成長できる戦士と違って、血筋を大事にしているのだろう?」


「うん。まあそれが原因で結構面倒くさいことになっていてね――」

読んでいただきありがとうございます!


少しでも「面白いかも」「続きが気になるかも」と感じましたら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】から評価して下さると幸いです。


少しでも皆さんに面白いと思って貰える物語を作れればと思います。応援宜しくお願い致します。

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[一言] 青年は血筋が優れている?
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