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好奇心は吸血鬼をも殺す  作者: はちゃち
第4幕「城塞都市ベギンハイト」
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[45]第二迎賓館

 至誠とミグが地上へ戻る。


 その時はまだ意識のあったリッチェだったが、直後に意識が朦朧(もうろう)としはじめ、少しして意識を失った。


 ミグが確認すると、今すぐ命に関わるような状態ではないようだ。

 しかし精密な検査ができる状況ではない。今は少しでも早く、安静にできる場所を確保する必要がある。


 現状、ラザネラ教の教会堂が最有力候補だ。ラザネラ教会が今後どのような行動に出るか分からないが、つい先ほどまで戦場だったこの場所よりも良いのは明白だ。


 ミグとロロベニカの目的は一致し、すぐに行動に移す。


 怨人(えんじん)の降下と街中での戦闘によって、王国軍兵士が集結しつつあった。その中に騎兵隊がいたため、ロロベニカはすぐに屋根から降りて馬を借用する手筈を進める。


 その間にミグは負傷した騎士のケガを診るが、3人とも命に関わるケガはなかった。ムニファスは頭部を打っていたが、脳にダメージはなく、軽い脳震盪が起きていたようだ。実際、ミグの応急処置を行うとすぐに意識ははっきりとしはじめ、騎士として動ける程度に回復した。


 残り2人の騎士は全身の打撲と骨折により、すぐに戦線復帰は難しそうだ。だが2人とも骨折は片腕のみであり、複雑骨折もしていない。彼らは、少ない手数の中で怨人(えんじん)によるダメージを上手くコントロールしていたようだ。


 ミグが応急処置を行い、一時的に痛みを緩和してやると、自力で屋根から降りられ、ロロベニカの用意した馬に騎乗し、自力で帰投できた。


 ミグは馬を借り受け、至誠の体を使ってリッチェを抱き込むように支えつつ馬を操る。同時にスティアの体を使って、もう1頭の馬を先導させる。


 現場処理は王国軍兵士に引き継がせ、一行は急いで教会堂に向けて再び走り出した。



  *



 ルーフテラスに到着すると、開口一番にヴァルルーツが出迎えてくれる。


「よくぞご無事で――!」


 そう喜び声を上げながら至誠とリッチェに抱擁する。

 そしてヴァルルーツは、至誠の耳元に顔を近づけ、ぼそりとミグへ報告する。


「騎士団が怨姫(エンキ)と思しき個体を発見したようです」


『うん、こっちでも視認した。ただ、怨姫(エンキ)は撤収したみたい。今は様子見』


 ヴァルルーツは理解を示すように軽く頷くと「それと――」と報告を続ける。


「変な格好をした……頭から大きな白い布を被ったような、異質な人物を目撃しました。まだ、何かあるかもしれません」


『……分かった。王子はリッチェをお願いしていい?』


 ヴァルルーツは小さく頷き、ムニファスに抱えられていたリッチェを受け取る。


 その間にミラティク司祭が近づいてくる。


「無事に合流できたようで何よりでございます。消耗の具合はいかがですか?」


 ミラティク司祭としては、可能ならばもう一度ミグによる攻撃を行いたい様子だ。今後の第3波、第4波を警戒してのことだろう。


「『そちらの騎士と共に、飛行型怨人を4体討伐しました。その際かなり消耗したため、これ以上、大規模な術式行使は困難かと』」


「分かりました」


 ミグが至誠の体を使って答える。


 実際にはもう何発か撃てるだけの余力がミグには残されている。

 しかしこれ以上の消耗は避けねばならない。


 ラザネラ教会が絶対的な味方というわけではない。

 怨姫(エンキ)は逃げたようだが、本当に逃げ出したのかは分からない。知性があるならば、そう思わせるための罠という可能性もある。


 いざと言うときの余力は残しておかなければならない――と、ミグは判断した。


「『それに、今はこの子の治療を優先させていただければと思います。どうにも、良くない感じがしますので』」


 ミグがリッチェへ視線を誘導しながら語ると、ミラティク司祭は「手配しましょう」と同意する。


「ムニファス――お客人を第二迎賓館へ案内して差し上げなさい」


「ハッ!」


「また、しばらくはそのまま連絡要員として残り、必要に応じてお客人を手伝うように。追加の人員は、情勢を見て適宜(てきぎ)判断します」


「了解!」


 そう判断するミラティク司祭を尻目に、ミグは全く引き下がらなかったか――と、安堵と警戒を同時に感じる。


 結局、ミラティク司祭の底知れない不気味さは解消していない。彼があまりにも自分たちへ友好的すぎるのが気がかりだ――と、改めてミグが勘繰(かんぐ)っていると、ムニファスが「こちらへどうぞ」と至誠たち一行を案内する。



  *



 ミグたち一行は教会堂を出ると、すぐ近くにある豪華な建物へと案内される。


 ここが第二迎賓館なのだろう。教会堂と同じような建築様式と装飾が施されているが、流石にこちらの方が格落ちのようだ。とはいえ民間の建物とは比較にならないほどに荘厳さで、社会的地位の高い人物が宿泊するための建物であることがうかがえる。


 ミグは罠を警戒しているが、今のところそれらしき反応はない。


 それは迎賓館の中に入っても同じで、少々強めに索敵術式や罠を探る術式を行使するが、変な術式が仕込まれている様子は見られなかった。


 ――あるのは外部からの攻撃に対する簡易的な防衛機構と、火災等の防止、経年劣化を抑える術式。……あとはせいぜい日常生活用途か。


 とはいえ、それらは一般的な魔法や鬼道による術式だ。もしかすると彁依物(アーティファクト)が仕込まれていて、ミグが発見できていないだけかもしれない。


 可能性だけを考えればキリがないが、それでも思考を停止して後から悔やむのだけは避けねばならないだろう。


 ――少なくとも……バラギアは空間系の彁依物(アーティファクト)を所持しているはず。


 至誠が教会と交渉している際、バラギアとその一味は突然近くに現れた。


 あれは空間系の彁依物(アーティファクト)を使用したと考えれば()に落ちる。実際、レスティア皇国にもその手の空間系彁依物(アーティファクト)の使い手は何人かいる。それぞれ条件や特異性、代償が異なるが、いずれも『奇襲』において極めて優秀な彁依物(アーティファクト)だ。


 バラギア一味は直接室内には現れなかった。


 一度廊下に現れたところを見るに、彁依物(アーティファクト)に何からしらの条件か制約があるのだろう。例えば空間を直接繋げるのではなく、扉など、何かしらの媒体を利用しなくてはならないといったパターンが考えられる。


 ――罠を仕掛けておいた方がいいんだろうけど……誤爆して教会との関係に致命的な亀裂が入るのは避けないと……。


 少なくとも、今はバラギア一味とラザネラ教会の両方を敵に回すのは避けねばならない。


「こちらの迎賓館はご自由にお使いください。本来であれば他の護衛の騎士や使用人をつけるのですが、有事につき後ほど改めて手配させていただきます。何卒ご容赦(ようしゃ)ください」


 玄関口を通りエントランスに入った一行は騎士ムニファスからそう説明を受ける。


「『主寝室はどちらになりますか?』」


 ミグが至誠の体を使いムニファスへ問いかける。


「ご案内いたします。こちらへ」


 エントランスを上がり二階の最奥の部屋へと案内される。

 そこは一辺が9メートルほどある正方形の間取りをした寝室だ。


 ――これ、何十畳に相当するんだろう……50畳くらいかな?


 と、至誠はテレビや雑誌で見た超高級ホテルのような寝室を見渡す。床にひかれた巨大な絨毯(じゅうたん)は精巧な図柄をしており、調度品はどれも最高級に近い物なのだろう。扉や壁、天井の彫刻や図柄も精巧で、シャンデリアらしき照明もこれでもかと言わんばかりに豪勢だ。


 そして部屋の中心にある天蓋付きのベッドの横幅は広く、ゆうに5人くらいは寝られそうなサイズをしている。


 もしこれが旅行に来ての宿泊であれば最高の思い出となるだろうが、今はそのような状況でもない。


『王子、リッチェをここに』


 ヴァルルーツは抱えていたリッチェを優しくベッドの上に降ろす。


『さて。リッチェの状態を確認しないといけないけど……その前に――』


 ミグは検査と治療に取りかかる前に済ませておくべきことがないか思慮を巡らせる。


「では自分は、今の内に建物の間取りを確認してきましょう」


 静寂が忍び寄る中で、口を開いたのはヴァルルーツ王子だった。


「『頼みます。それと――』」


 ミグは様々な彁依物(アーティファクト)を思い出しながら言葉を続ける。


「『念のため、扉はすべて開けておいてください。玄関扉も完全に閉まらないようにストッパーを。それから鏡の類いは全て撤去し、動かせない場合は映らないよう念入りに鏡面をふさいでください。それと、浴室がある場合、浴槽から水を抜いておいてください』」


「それは……」


「『バラギア――ここのラザネラ教会とは別勢力が空間移動系のアーティファクトを所持している可能性があります。発動条件になり得そうな物は事前に対処しておく必要があります』」


「わ、分かりました」


「『ムニファスさんも、扉は閉めないようにお願いします』」


「あっ、は、はい。かしこまりました」


 扉や鏡、水面は空間移動系のアーティファクトで媒体としてよく使われるものだ。


 相手のアーティファクトの情報がない以上、気休め程度でも対策は講じるべきだろう――と、ミグは考える。


 とはいえ、レスティア皇国にいる空間移動系のアーティファクトの使い手の中には、扉を作り出したり、壁や地面をすり抜けたりできる者もいる。そういう相手に対しては四六時中警戒する以外に対処が難しい。


「それでは騎士ムニファス様、案内をお願いしてもよろしいでしょうか」


 ヴァルルーツがそう言ってムニファスを連れて部屋を出たことで、室内にはミグとリッチェ、至誠そして操られたままのスティアだけが残っている。


 ヴァルルーツが気を利かせてラザネラ教の騎士を引き離したのは、至誠にも理解できた。


「ミグさん、またしばらく僕の体を使う必要がありますか?」

『しばらくは大丈夫だよ。治療はこっちの体を使うから』


 そう言ってスティアは天蓋(てんがい)の幕を下ろし、中の様子が見えないようにしていく。


「非常時にあまりこだわるべきじゃないんだろうけど、リッチェも年頃の女の子だからね」


 天幕の中では、ミグがスティアの体を使い、リッチェの服を脱がせている。それが薄らとしたシルエットから分かる。


「なら、自分も部屋を出てますね」


 至誠はそう配慮を示すが、それに待ったをかけたのはミグだ。


『いや……保安上、今はあまり離れない方が助かるかな。その上で悪いんだけど、あまり見ないであげてもらえると助かるよ』


「分かりました。ではこっちで座って待ってます」


 そう言って至誠は、室内にある調度品の中から部屋のすみにある小さなテーブルに近づく。いや、正確には化粧台だ。小さな台座にはアンティーク調の三面鏡が――今はたたまれた状態だが――設置されている。


 化粧をするわけではないが、今はちょうどいい。それに、高級な家具だからか、小さな椅子の割に座り心地はとてもいい。


 そう感じていると、ミグは申し訳なさそうに『悪いね、手持ち無沙汰にさせて』とこぼす。


「いえ。今はリッチェさんを優先してあげてください」

『そう言ってもらえると助かるよ』


 ミグの口調からは気疲れが感じられる。

 至誠としてはミグにも休んでほしいが、現状でそれを提案したとしても受け入れられる状況ではないだろう。


 そのことに気を揉んでいると、ミグが『そういえば――』と再び口を開く。


『ニコラ・テスラについてだけど、まだ覚えてる?』


「はい、(おおむ)ね」


『例えば、似顔絵を描いてって言われたら描けるくらいには覚えてる?』


「覚えてはいます。ただ絵心は……上手く描けるかは自信はありませんが」


『そこは大丈夫。描くのはその手の専門家がいるから気にしなくていいよ』


 モンタージュ写真や似顔絵を描く警察官の様なものか――と、至誠が理解している間に、ミグの言葉が続く。


『顔立ちや服装、会話内容といった超越者の情報はとても貴重だからね。情報源は多いに越したことはない。できれば至誠の方でも可能な限り覚えておいて欲しい。超越者の情報は貴重(きちょう)だからね』


「分かりました」


 ミグは一呼吸を置き、体を支配するスティアへ語りかける。


『……さて、騎士スティア。君には悪いと思ってるけど、今しばらく体を借りるよ』





 至誠は背もたれに寄りかかりながら、長い長い一日を振り返る。


 だがこの都市で目を覚ましまだ4時間程しか経っておらず、何ならこの世界で目を覚ましてまだ18時間ほどしか経過していないことに気がつく。


 ――そうか、まだ一日も経ってないのか……。


 その事実に、至誠はため息ににも似た大きな深呼吸を行った。


 ――大丈夫。僕はここに居る。


 無限に広がる宇宙の中で自我が間違いなくここにあることを認識する。自己を認識し肯定できている。SF映画のように、もし仮に自分が『加々良至誠の記憶と人格』だけが複製された存在だとしても、自分がここに居るという事実は揺るがない。たとえオリジナルだろうが、クローンだろうが、コピーだろうが、自我を持っているこの自分は、まさに加々良至誠なのだから。


 ――問題ない。今はそれで。


 偉人の言葉を借りるならば「我思う故に我あり」と、そうやって至誠は自分のメンタルを整え、今思考すべきことについて頭を切り替える。


 ――まずはこの世界の知識……技術や常識、情勢、歴史、あらゆる情報をもっと把握しないと。それも、早急に。


 不浄之地(ふじょうのち)では、偶然にも至誠の知る知識が役に立った。


 だがこの都市で至誠はほとんど何もできていない。ミグに発破をかけて自分の望む方向へ誘導しただけだ。後は全てミグに丸投げ、おんぶに抱っこだった。


 スティアを懐柔(かいじゅう)する作戦は失敗したし、ラザネラ教会との交渉は成功とも失敗とも言えない段階で中断された。ミラティク司祭との駆け引きでは、おそらく手のひらの上で転がされただけだった。


 ――無力。


 至誠は無力感を抱いている。


 喧嘩や暴力沙汰は得意ではない。この世界にある魔法も鬼道も使えない。それで頭脳でも負けては何も残らない。


 だが(うれ)いたところでなにも変わらない。今は配られた手札でできることを一歩ずつ、確実にやっていくしかない。一発逆転のホームランを狙ったところで、たいていはうまくいかない。時間だけを浪費して足踏みするのが関の山だ。


 当面必要なのは、ミグの庇護下にある間に知識を吸収することだ。


 無知は致命傷になりかねない。


 今後ラザネラ教会との関わりが否応でも増えるだろう。宗教絡みの知識や常識は特に急いで覚えなくてはならない。


 同時に、レスティア皇国に関する情報も欲しい。


 ミグが『絶対的な味方』とは限らないからだ。


 昨晩リネーシャたちとの会話、不浄之地(ふじょうのち)でのミグたちとのやり取り。それを見聞きした限り、彼女たちのことは肯定的にとらえている。出会って間もないが、吊り橋効果も相まって、信頼したいと思える程度には好印象だ。


 だが、至誠は昨晩の出来事を改めて思い返す。


 彁依物(アーティファクト)。それは魔法でも説明できない超常現象を引き起こし、モノによっては世界が亡びかねない脅威であり災害の種だ。


 ――そんな彁依物(アーティファクト)を、部屋の片隅に無造作に置いておくだろうか?


 昨日、至誠が目を覚ますと迎賓室へ案内され、至誠はしばらく一人だった。そこに日本刀の形をした彁依物(アーティファクト)が無造作に壁に立てかけられていた。


 執事のスワヴェルディは、それが不手際(ふてぎわ)だったと()びてくれた。


 ――あり得るだろうか? そんな不手際が。


 加々良至誠という未知の人物は、リネーシャにとって好奇の対象だ。ならば彁依物(アーティファクト)による精神汚染の影響がどれほど及ぶのか試されていた――と考える方が()に落ちる。


 影響が出てすぐにスワヴェルディが声をかけてきたのも、タイミングが良すぎる。


 リネーシャは世界最強の吸血鬼だという。エルミリディナは不老不死で死ぬこともなく彁依物(アーティファクト)の影響も受けないという。スワヴェルディは、有事に際して最前線に赴き死線を軽々くぐり抜けるだけの優秀さを見せている。


 昨晩の言動から総合的に類推すると、おそらくこの3人が突出した力を持っている。


 そして至誠が彼女たちと食事をした時、右手にリネーシャ、左手にエルミリディナ、そして背後にはスワヴェルディがいた。


 つまり、警戒されていたということだ。

 加々良至誠という人型彁依物ヒトガタアーティファクトに。


 もし至誠が何らかの超常現象を引き起こせた場合、災害の原因となる力を持っていた場合、敵対する意志があった場合、おそらくリネーシャたちの対応は全く違うモノになっただろう。


 すべては杞憂(きゆう)かもしれない。


 しかし可能性の話として、レスティア皇国に着いた途端(とたん)、監禁され自由が奪われる可能性だってある。それがあり得ない保証など、どこにもない。


 とはいえ現時点における彼女たちの印象は肯定的だ。命を救ってもらったし、美味しい食事もごちそうになった。一宿一飯(いっしゅくいっぱん)の恩がある。


 だからと言って思考放棄はよくない。

 盲信もするべきではない。


 ――そもそも、彼女たちに対して好印象を受けていることがすでに彁依物(アーティファクト)の影響かもしれないし……。


 精神が汚染されるような彁依物(アーティファクト)があった。ならば洗脳やマインドコントロールするような彁依物(アーティファクト)だって存在するかもしれない。少なくとも流血鬼の力をもってすれば、1人や2人の肉体を操るなんて朝飯前なのだから。


 可能性の話を並べていけばキリがない。


 重要なのはそこから取捨選択することだ。

 自分の意志で決断を下すことだ。


 そのためには知識がいる。

 情報がいる。


 無知では取捨選択ができない。選択ができないと、あるいは間違った選択をしてしまうと、その先にあるのは身の破滅だ。


 ――そう考えると、この状況はむしろ好機かもしれない。


 レスティア皇国側の人間から得られる「レスティア皇国の情報」には(かたよ)りがあるはずだ。もっと中立や反対意見も知っておく必要がある。もちろん、完全に中立で客観的な意見など存在しない。だからこそ多くのサンプルが必要になる。判断するために多くの知識がいる。


 ならば『レスティア皇国を国の外から調べられる現状』は、むしろ好機と捉えた方がいい――と、至誠は思うものの、ミグとの関係が悪化して体の自由を完全に奪われてしまっては詰みだ。


 ミグは思考までは読めないようだが、感情は読み取れる。すなわちレスティア皇国に対する警戒心をできるだけ悟られないようにする必要がある。


 ――まぁ思案が読めないってのが嘘だった場合は意味がないけど……。


 と、再度ゆっくりとため息に近い深呼吸をして、至誠はゆっくりと机に顔を伏せた。


 まだレスティア皇国が危ない国だと決まったわけではない。慎重に、早合点しないように、それでいて可能な限り満遍なく情報と知識を集めていく必要がある。


 そんな考えを巡らせていると、疲労感の溜まった心身は次第に至誠の意識をまどろませていく。


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