[4]彁依物《アーティファクト》
「危ないですよ」
「――っ!?」
突然、耳元で囁かれる男性の声。
至誠は肩をビクつかせ、心臓が止まりそうなほど息を飲み、そして日本刀へと伸ばす手を止めた。
至誠が振り返ると、一歩引き、深くお辞儀をする男性がいた。
スーツあるいは礼服に近しい黒い服装したこの男性こそが、テサロの言っていたスワヴェルディという人物だろうと至誠は察する。
加えて彼の声を聞くのは初めてではない。至誠が目が覚めたとき、リネーシャと会話していた男性であることにも気がついた。
だがそれよりも――と、至誠は急いで口を開く。
「す、すみません……勝手に――」
至誠がそう謝罪を口にしたのと同時、至誠の心の奥底から湧き出る『日本刀を手にしたい』という衝動は嘘のようにかき消えた。
至誠が戸惑いを覚えていると、その間にスワヴェルディが名乗る。
「スワヴェルディ・ネロフィと申します。どうぞ、スワヴェルディと。ご入り用の際は何なりとお申し付けください」
「あっ、はい。ありがとうございます。僕は加々良至誠です。テサロさんから、こちらでは苗字ではあまり呼ばないと聞いたので、僕のことも至誠で大丈夫です」
「かしこまりました、シセイ様。まずはこちらの手違いにより長らくお待たせしてしまいました点、深くお詫びいたします」
そう言ってスワヴェルディは改めて深々と頭を下げる。
「い、いえ、大丈夫です。気にしてません」
「寛大なお言葉、痛み入ります。それではどうぞこちらへ。お飲み物と食前のスープをご用意いたしました」
――いつの間に……?
そんな疑問を抱く間に、スワヴェルディは円卓に座るよう促してくる。
スワヴェルディは声の印象の通り、20代半ばほどの容姿にスラッとした長身だ。金髪のセミロングが緩やかになびく様は落ち着きを感じさせ、その容姿をひと言にまとめるならば、イケメンと言ってしまって差し支えない。
イケメン執事とか紫乃の大好物だろうなぁ――なんて妹の趣味が脳裏をよぎる間に、至誠は円卓の前まで戻ってくる。するとスワヴェルディが椅子を引いてくれるので、至誠は好意に甘え腰を下ろした。
円卓の隣には、いつの間にやらワゴンがある。そして円卓の上には一枚のスープ皿とキッチンポットらしき食器が準備される。
銀色をしたスープ皿もキッチンポットも至誠の知識とそれほど違いはなく、手前に置かれたスプーンの形状も日本のものとさして変わらない。最も違うのは、豪華さを感じさせる模様が彫り込まれていることだろう。
「こちらはセラフ鳥とセージの鶏だしスープでございます。栄養価が高く、それでいて胃腸への負担の少ないものをご用意いたしました。お口に合わなければ調整いたしますので、どうぞ気兼ねなくお申し付けください」
至誠の目の前に白磁の食器が置かれる。そこには澄んだ琥珀色のスープが注がれていた。
スープの湯気はいい香りを運んでくる。鶏だしの香ばしさに、ハーブの温かみのある芳香が絡み合っている。その香りは至誠の胃を優しく刺激し、小さく腹の音が体内に響く。
スプーンですくってみると、スープは驚くほど澄んでいる。
一見するとコンソメスープのようにも見えるが、風合いは全く異なるようだ。
「――っ!」
至誠は食欲と不安と好奇心が入り乱れながらスプーンで口に運ぶ。すると、舌の上で旨味が踊り出したかのような美味しさに、思わず舌鼓をうつ。
「とても美味しいです」
気がついたときにはそう口にしていた。グルメレポーターのように語彙力があればよかったのだが、至誠はただただ心境と吐露するに終わった。
「それはようございました。まもなくメインディッシュが届きます。それまでのひとときをスープと共にお楽しみ下さいませ」
そう返すスワヴェルディもまた、表情を綻ばせていた。
*
至誠がスープをひとしきり味わう。
まだ飲めそうだったが、この後メインディッシュが別にあるらしく、スワヴェルディにはそちらを勧められた。
スワヴェルディは食器を片付けた後、視線を日本刀へ向け「ところで――」と、問いかけてきた。
「先ほどあちらに興味をお持ちのようでしたが――」
「あの、すみません。日本刀に、その、勝手に触れようとしてしまって……」
改めてそう謝罪すると「いえ、お気になさらず」と柔らかい物腰で答え、聞きたいことは別にあるようで言葉を続ける。
「よろしければ、なぜ『あれ』に興味を持たれたのか伺ってもよろしいでしょうか? 例えば『手にしたいという衝動に駆られた』など――」
至誠は、ハッと先ほどの光景が蘇る。
確かに、なぜこんなところに日本刀があるのかとに興味を抱いた。しかしだからと言って、勝手にそれを手にしてみようというのは浅慮がすぎる。
至誠は書架の本ですら触るのを躊躇った。にもかかわらず、危険物である日本刀には無遠慮に手を伸ばし触れようとしていた。
それでは行動に一貫性がない。
思い返してみると、自分が自分でなくなったような、不思議な感覚の衝動だった。その衝動に突き動かされるまま、気がついたら手を伸ばしていた。
「確かに――スワヴェルディさんの言うような感覚が、少なからずありました」
「その感覚は、現在も続いていらっしゃいますか?」
「い、いえ……今はまったく」
「ならば問題ございません。むしろ彁依物の管理が不十分だった点、私どもの責任でございます。ご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございません」
頭を下げるスワヴェルディに「い、いえ、そんな――」と頭を上げるように促しつつ、至誠は話題を変えるために問いかける。
「あ、えっと。その『アーティファクト』とは……何でしょうか? 『古代の出土品』といった意味で合ってますか?」
「語源としてはその通りでございますが、現代ではもう少し幅広い意味で使われます。一言で言い表しますと、『彁依物』それが彁依物です」
「『存在しえないはずの現象に依存した超常的な特異存在』……?」
「例えば、魔法や鬼道では説明ができない超常の力を持つ物体や、明らかに生き物として破綻しているにも関わらず生きている非現実的な生物、論理的には全く成り立たないにもかかわらず発生している事象――など、彁依物に定義される存在は多岐にわたります」
「……?」
説明してもらったもののいまいち意味が分からず、至誠は首を傾げた。至誠の紛うことなき心境と吐露すると、全く意味が分からない――となる。
「どうやら彁依物そのものを全くご存じないようですね」
どうやら心境が顔に出ていたらしく、至誠は「は、はい……」と苦笑いを浮かべ肯定した。
「『アーティファクト』という単語そのものは聞いたことがあります。ですが、その、『存在しないはずの力』とかそういうのは……。正直、よく分かりません」
「それでは、あちらの彁依物を例に具体的に説明いたしましょう」
そう告げ、スワヴェルディは日本刀の方へと腕を向ける。すると日本刀が床から離れ宙に浮かんだかと思えば、彼の方へ飛んでくる。まるで強力な磁力で吸い寄せられたかのようなそれは、至誠が目を丸くする頃には彼の手中に収まっていた。
「――!!?」
何が起こったのか分からず唖然とする至誠をよそに、スワヴェルディは日本刀の柄に手をかけると、鞘から刀身を抜いた。
「例えば、こちらは管理番号774番――識別名では『累積血刀』と呼ばれる彁依物になります。通常の打ち物であれば斬るだけの武具でしかありませんが、これには通常ではあり得ない『特異性』を有しています」
「特異性……」
「ひとつは、先ほどシセイ様が影響を受けた精神汚染です」
「――えっ!?」
物騒な単語が聞こえてきた。
聞き間違えかと思い目を白黒させるが、その間にスワヴェルディの説明は続く。
「累積血刀の精神汚染はいくつかの段階に分かれており、第1段階は所持欲求です。刀が誰にも所有されていない場合、刀を目視した人物を対象に『この刀を持ちたい、手に入れたい』といった欲求を誘発させます」
先ほど至誠が感じた不自然な心理状態がこれに当たると解説され、今になって非常に恐ろしく感じた。
「第2段階に移行すると使ってみたいという衝動に駆られます。物や植物での試し切りから始まり、第3段階にて動物への殺生を経て、第4段階にて殺人衝動へと至ります」
「えッ……」
「このような精神汚染は、通常、魔法や鬼道で再現することができません。どのような仕組みか、なぜこのような力を秘めているのか、それらは未だ解明されていないのです。我々は、このように未知の力を秘めた代物を、彁依物という総称し呼んでいます」
「で、では僕もその精神汚染というのに――」
「いえ、ご安心下さい。第1段階では他人からの声かけ程度で簡単に脱却でき、かつ第3段階以内であれば後遺症は残らないことが分かっています」
「そ……そう、なんですね」
わずかな安堵を抱きつつも、よく分かっていないというのが正直なところだ。至誠の中にある常識がストッパーとなっていると表現した方が正確かもしれない。
「こちらの精神汚染は、複数人に対し同時に発生しないことが確認されています。また、誰かに所有されている間は他者の精神へ影響が及ぶことはございません。しばらくは私が『所有』しておきますので、ご安心下さい」
「はい。……あ、でも、そうなるとスワヴェルディさんが――」
いきなり斬りかかられるのは怖い――と顔に書いてあったらしく、スワヴェルディは丁寧に補足してくれる。
「私は精神汚染に対して強い耐性を持っていますのでこの程度の彁依物の影響を受けることはありません。どうぞ、ご安心ください」
突拍子もなく説明について行けない部分は多い。正直、内心では首を傾げながら、至誠は「は、はい……」と納得しておくことにした。
「他にも『血液を吸収し、その累積量で切れ味が変わる、自己修復する』等の特異性もございますが――それよりも、ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「えっと、はい……僕に分かることでしたら」
「先ほど累積血刀のことを『ニホン刀』と表現していましたが、こちらはどのような意味の言葉でしょうか?」
「その、特異性とか、存在しない現象というのは聞いたことがありませんが……外見は『日本刀』という刀の形状によく似ていると思います。日本というは僕の生まれ育った国の名前なんですが……ご存じでは、ないですか?」
スワヴェルディは「なるほど」とつぶやき、軽く自分の顎を指先で触れつつ記憶を手繰る仕草を見せる。
「私の知る限り、現代においても歴史上においても『ニホン』という国家は存じ上げません」
余計なことは考えないようにしていた至誠だったが、そのセリフで大きく心が揺さぶられる。
彼は日本を知らない。
そして至誠も、彼らの国名を知らない。
――本当にここはいったい、どこなんだ……?
「至誠様の知る『ニホン刀』は、先ほど私が話したような特異性は存在せず、完全なる打ち物――ただの刃物であると考えて差し支えないでしょうか?」
至誠は、動揺する心を必死に抑えつつ「はい」と肯定する。
「同形状の彁依物は他にもいくつか存在します。しかし、これらはいつどこで誰がどのようにして造り出した代物か分かっていません」
スワヴェルディは日本刀の柄巻を指先でなぞりながら言葉を続ける。
「外見を模して武具が製作された事例はございますが、オリジナルの出自については未だ判明しておりません。そのため、もしシセイ様の祖国で作られた武具であれば非常に興味深い話です。この話、ぜひとも詳しく――」
スワヴェルディの言葉は、なぜか途中でフェードアウトしていった。
と同時に、彼の視線は至誠から外れ、扉の方へ向けられる。
何かあるのかと至誠もつられてそちらへ振り向くと同時にガチャリと扉が開かれ、緑色の髪をした至誠と同年代くらいの女性が部屋に入ってきた。いや、ただの緑色をした髪ではない。光の反射加減で赤や青、紫も垣間見えるさまは『玉虫色』と表現するのが一番適切だ。
そんな玉虫色の髪をした女性の身長は160㎝ほどで、豊満な胸元が服の上からでも分かる。深いローブに身を包んでいるが、デザインはテサロとよく似ていて、手にしている杖までそっくりだ。
彼女はどうやは緊張しているようで、表情は硬いまま至誠の方を一瞥する。しかしすぐに視線を外し、すぐに脇へと避けて頭を下げる。
そして、次に部屋に入ってきたのはリネーシャだった。
赤漆のような長い髪をなびかせ、背丈から一見すると小学生のように見える。しかしその服は厳めしい黒い軍服で、赤と金のアクセントカラーが入っている。棘の生えた黒い円環が、まるで王冠のように頭上にあるが、ただの冠とは違い、重力に反して宙に浮いていた。
「スープは問題なく飲めたようだな。体調に問題はないか?」
リネーシャは至誠が円卓に座っていることに気がつくと、楽しそうに声をかけてくる。
「は、はい。おかげさまで……」
至誠が思わずかしこまったのは――もちろん、ほぼ初対面の相手にいきなり馴れ馴れしい言動で接するのはあり得ないという理由もあるが――リネーシャと共に入ってきた女性も、執事のスワヴェルディも深々と頭を下げていたからだ。
「スワヴェルディ、首尾はどうだ?」
「こちらの不手際によりシセイ様をお待たせしたあげく、管理体制の不備によりシセイ様が774番の影響を受ける事態となり、深く謝罪をさせていただいております」
「そうか」
そんな会話の間、至誠はスワヴェルディに視線を移し、再度リネーシャへと戻した。
が、一瞬目を離した隙に、リネーシャの姿が消えた。
「すまなかったな。配下の失態を詫びよう」
「――!」
そう告げるリネーシャは、気がつけば至誠の隣の席に座っている。まるで瞬間移動でもしたかのようだ。
――い、いつのまに……!?
至誠の内心はとんでもなく狼狽し、目を白黒させる。
しかしそれは至誠だけのようで、他の人たちは特にこれと言ったリアクションはない。
――これって普通のこと、なのか……?
と、至誠は内心で疑問符を山のように積み上げながらも、頑張って平静を装い、今は返事することを優先した。
「い、いえ。大丈夫です。気にしていません」
「それは良かった。スープはどうだ? 問題なく飲めたか?」
「あ、はい。とても美味しかったです」
平静を装っている間に内心も落ち着きを取り戻しつつあり、至誠は何とか会話を続けることができた。
至誠が再び視線を扉の方へ向けると、リネーシャと一緒に入ってきた女性が2台の配膳車を運び込んでいた。
配膳車はひとりでに動き、円卓の近くへと運ばれてきて自動で止まる。至誠にはまるでレストランなどで見る猫型の配膳ロボットのような動きに思えた。しかしそこにモーターらしき部品は付いていない。駆動音もしない。にもかかわらず、自立して動いている。
――いったいどうやって……。
と感じつつ、近くにいる女性がそれを配膳車を遠隔で動かしているような印象を受けた。
――まさか、これも魔法で……?
などと非現実的な思考がよぎる。
そんなバカな――と、いつもだったら思っただろう。しかしテサロによる飛翔魔法、彁依物による精神汚染、日本が存在しないという情報、それらを加味したとき、常識というフィルターが機能不全に陥り、簡単には一蹴できなくなっていた。
だが、ひとつ確実なことがある。台車には、食欲をそそる美味しそうな肉料理が乗っていると言うことだ。まだその姿は見て取れないが、漂ってくる香りが至誠の鼻腔を刺激する。
「――っ」
がっつくのも急かすのも憚られると思い自重して何も言わなかったが、至誠の思考は非現実要素から一気に現実的な食欲へと塗り変わっていく。
「ご苦労様です」
スワヴェルディが事務的な口調で玉虫色の髪をした女性に告げる。
その女性は緊張した面持ちをさらに強張らせ、へりくだるように頭を下げる。
「他にやるべきことがありましたら何なりと」
彼女の言葉を受けて、スワヴェルディは「では――」と次の指示を与える。
「味の細かい調整はこちらで行いますので、リッチェは配膳をしてください」
「はい――!」
リッチェと呼ばれた玉虫色の髪をした女性は、少し不慣れな様子を見せながらもテキパキと動き始める。
その様子に視線が言っていると、隣から「さて――」とリネーシャが再び口を開くので振り返る。
「名は『シセイ』で良かったか?」
「はい。苗字は加々良ですが、こちらではあまり苗字で呼ばないと聞きいたので——至誠で構いません」
「分かった。私のこともリネーシャと呼んでいい」
「分かりました、リネーシャ、さん」
一瞬さん付けで言葉に詰まったのは、敬称に何をつければいいか迷ったからだ。年齢的には「ちゃん付け」でもおかしくないように思える。だが、どうもリネーシャは非常に立場が高いの少女のようだ。
リネーシャがどのような立場か分からないが、少なくとも執事を持ち、年配のテサロも敬意を払っていたことを考えると、至誠も下手に子供扱いしない方がいいだろう——と結論づける。
そんな逡巡の間に、リネーシャが先に口を開く。
「無事に治療が済んで何よりだ。だが……不安、焦燥、猜疑心――今シセイの心中は穏やかとは言えまい?」
「そ、それは――」
「なに、気にすることはない。突然、見ず知らずの者たちに囲まれれば当然の反応だ。だが、これは言っておこう」
リネーシャは体を至誠の方へ向け、言葉を続ける。
「シセイ、我々に君を害する意図は全くない」
リネーシャのまっすぐな視線は、至誠の直感ではそれが本心であるかのように感じられた。
とはいえ――と、リネーシャは苦笑しながら語る。
「この言葉だけで信用することは難しかろう」
と、肩をすくめる。
「だが1つの事実として、シセイを発見してからおよそひと月――もし君を害するつもりであれば意識のない間にいくらでも機会はあった。その点において、もしシセイが信用の一歩目を踏み出してくれたならば、針に糸を通すような作業を続けた医療班も報われよう」
至誠はとっさに言葉が返せず窮する。
思考放棄で盲信するのは良くないが、しかし実際に彼女たちは至誠を助けてくれた。命を救ってくれた。
――それは間違いない。
もちろんマッチポンプの可能性を疑えば、現状、それを否定できない。恩を売るにはマッチポンプは実に都合がいい。
――でも、もしマッチポンプだとして、それで彼女たちに何のメリットが?
それにマッチポンプにしては遠回り過ぎる気がした。
それよりも、善意で至誠で治療してくれた、助けてくれたと考える方がしっくりくる――そう感じ、至誠はリネーシャを見据え口を開く。
「確かに……まだ、かなり戸惑っています。自分がここに居る理由も、心当たりもありません……ですが――」
現状、もし仮に彼女たちに裏や悪意があった場合は為す術がない。地の利も、人数も、明らかに至誠ひとりでは覆すことは困難だ。
けどもし、本当に善意で助けてくれていた場合はきちんと言葉に出して感謝を伝えるべきだろう――と至誠は感じた。
至誠が現状を何も分かっていないように、彼女たちも至誠が信用に足る相手か見極めるのはこれからのはずだ。
ならば友好的に接し良好な関係を築きつつ、自分の身に何が起こったのか情報を集めるのが、現状でできる唯一の選択肢だ――と至誠は考え至る。
「まずは助けていただいたこと、治療していただけたことには感謝しています。ありがとうございます」
「なに、気にすることはない。このくらい安いものだ」
言葉とは裏腹に、表情を綻ばせるリネーシャ。
彼女たちが信用できるか、それはまだ分からない。
しかし至誠は、信用できる相手だといいな――と思うことはできた。
そうこうしている間に、美味しそうな香りを漂わせた料理が円卓の上に並べられていく。
至誠が配膳するリッチェへ目を向けると、ちょうど、前屈みになった彼女のたわわな胸元がすぐ目の前にあった。至誠は脊髄反射的に目をそらし、目の前に並べられていく食事へと視線を落とした。
だがメインディッシュが何か分からない。香りから肉料理であることは分かるが、銀のクロッシュで覆われていて直接見ることができない。
そんなクロッシュの乗った皿が、至誠の前、リネーシャの前、そしてまだ誰も座っていない席へと順番に並べられていく。
食事は5人分ある。
――あれ? 1人分多い?
今室内にいるのは、至誠、リネーシャ、スワヴェルディ、リッチェの4人だ。
そんな疑問を抱いていると、再び迎賓室の扉が開かれ、さらに人が入ってきた。




