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第二十四話 ちぐはぐな世界とメイド服

 ギルドが開閉する時間は、実は季節によって異なっているらしい。なるべく日の出からすぐに開け、日が沈んだら閉める。そういうサイクルになっているとのことだ。

 つまりはこれから少しずつギルドが開く時間は早くなっていく、ということである。

 とはいえそれはギルドに限らず、大抵の店においても同じことが言えるらしい。そうでないのは、一部例外的な店――例えばソフィーの店のようなところ――のみである。


「そういうところは、何処でも変わらないんだなぁ……」


 ふと思い出されるのは、村に住み暮らしていた頃のことだ。もっともあの頃ほど、顕著ではないだろうけれども。あの頃は日の出の少し前に起き、日が昇るころには働き出していた。

 まあ代わりというように、日が沈む頃には寝始めていたけれども。夜間の灯りはただではなく、そこに無駄を割けるほど裕福な村ではなかったのだ。

 かつての世界であれば、ああいうのを、昔ながらの生活、などというのだろう。

 もっとも単純にそういってしまうには、あそこは色々な意味でちぐはぐであったけれども。

 ――いや。ちぐはぐだというのであれば、それはこの世界そのものに言えることか。

 それは例えば……というか、その象徴的な存在が、時計だ。

 時計というのは、何もこの街にしか存在しないわけではない。むしろ、何処にでもあると言って良いだろう。それは何処の国でも、町でも、村でも関係なく……それこそ、以前僕達が住んでいた村にまで存在していた。

 けれども、それはただそこにあるだけなのだ。現在の時刻を示し、鐘の音で知らせる。それで以って皆は時間を知り――それだけなのだ。時間を知ったからといってそれが何に使われるでもなく、そこから何かに発展するということもない。

 皆が行動の基準にするのは、日の出と入りだけなのである。つまりは、時計は存在しているだけで、本当に何の意味もないのだ。それこそが、ちぐはぐな理由であった。

 そして当然ながら、そうなってしまっているのにもまた理由がある。時計というものは、異世界人が取り込んだものなのだ。まあ時間の単位などをもたらしたのが異世界人という時点で、言うまでもないことかもしれないけれども。

 それはかつての世界では当たり前に存在しているものであった。だから当たり前のように設置した。それも、文字通りに世界規模で。時計がない場所など、それこそ未開の地にあるような、村とすらも認められていないような場所ぐらいだろう。

 しかし彼らにとっては当たり前のものでも、この世界にとってはただの異物でしかない。そこに住む人たちにとっては、言うまでも無く。

 ならば当然それに対して異論が出たのかと言えば……実際のところは、出なかった、というのが事実である。何故ならば、この世界ではそんなことは当たり前だからだ。

 力を、権力を持つものが、自分達のやりたいようにやる。それが端的に述べた、この世界の縮図だ。勿論そこには様々な思惑やらが絡まってはいるものの、下々の人間にとっては関係のないことである。

 つまりは時計に関してすらも、また良く分からないことをやりだした、という、そういった認識でしかなかったのだ。

 だから時計に対して誰からも何処からも反論は発生せず、だから彼らは勘違いした。時計というものが受け入れられたのだ、と。事実は、ただの奇怪なオブジェが一つ増えた、程度でしかなかったのに。

 僕がそれに気付いたのは、記憶が蘇ってから……要するにほんの数日前のことだ。

 いや、実は以前から気にはなっていたのである。何故皆時計を使用しないのだろうか、と。僕にとってはそれが当たり前であり……けれども、どうやらそれは前世の記憶が影響を及ぼしていたからだったらしい。

 改めて考えてみれば、よく分かる。他の皆は時計を使わなかったのではなく、使えなかったのだ。何故ならば、誰もその使い方を知らなかったから。

 異世界人は、それが当たり前だから使えないなどという発想そのものがなかった。むしろ分からないならば聞いてくるだろうと考えていたようではあるけれども……そんなもの、聞きに行くわけがない。

 だって、使わなくても問題はないのだ。他の人が使っていれば問題あるだろうけれども、誰も使っていないのならばその使い道を知る必要自体がない。そのことに誰も気付かず、指摘できなかったのが、現在もこれらがただのオブジェでしかない理由である。

 誰かにただ与えられたものは意味が無い。それを必要と考え、そこに至るからこそ意味がある。つまりは、そういうことなのだろう。

 そんなこともあり、この世界には異世界人のいた形跡、残した痕跡が割と転がっていたりする。何がしたかったのかは分かるけれども、それはさすがに無理だろうと思えるようなものや、そもそも何がしたいのか分からないようなものまで様々であり、目にする機会も多い。

 ただし時計を筆頭とし、それがいい影響を与えたかどうかは、また話が別だ。もっとも不思議と悪い影響を与えることは無く、世界的な影響を与えたものもあるためか、異世界人そのものに対しては割と好意的ではあるようだけれども。

 この世界の人々は、大らかなのか、適当なのか、それら全てを受け入れているようだけれども……それらのことを知っている側からすれば、酷くこの世界はちぐはぐに見えて仕方が無いのである。

 まあ、結局のところ何が言いたいのかというと――


「何故メイド服が出てきたし……」

「……? もしかしてトウマさん、この服のことを知っているんですか?」


 そう言って首を傾げ、スカートを摘んでいるのはアイリスだ。ただしその身を包んでいるのはメイド服である。

 ついでに言うならばここは歴としたギルド本部であり、怪しげな店ではない。しかしそう思えても不思議ではないレベルで、他の職員も皆同様のメイド服を着ていた。

 まるで意味が分からない。

 昨日までは皆普通にギルドから支給されるらしい制服を着ていたはずだけれども……一体何があったのか。


「あったと言いますか……運び込まれたと言うべきでしょうか」

「いや本当にどういうことなのかと」

「と言われましても、実は私が来た時には既に終わっていましたから、私も又聞きでしかないのですが――」


 何でも昨日とあるトラブルから南の迷宮から出られなくなっていたパーティーが今朝方帰還し、戦利品としてそれらを持ち帰ってきたらしい。

 基本的に迷宮内で夜を過ごすことは認められてはいないものの、何が起こるか分からないのが迷宮だ。帰りたくても帰れない場合というものは確実に存在する。勿論故意にやった場合はペナルティが課せられることもあるそうだけれども、その人達はそうではないと判断されたとのことだ。

 それでその服だけれども……何でも鑑定ではいまいちよく分からなかったらしい。けれどもそれじゃあギルドの沽券に関わるからということで、こうして身を以ってその効果を確かめている真っ最中、とのことである。

 何故そうなったし。


「何故と言われましても、ギルドマスター代行……のような人が決めたことですから、としか言いようがないのですが。それよりも、冥土服、ですか? 物騒な名前ですが……それがこの服の名前なんですか?」

「うん、ちょっと発音のアクセントが違うかな。というか、鑑定で名前すらも分からなかったの?」

「はい。分かったのは服であること、ぐらいです」

「んー……確かに僕はそれについて知ってはいるけれども、多分アイリス達が知りたいようなことは知らない、かな?」


 言いながらこっそり鑑定を使用してみるも、確かに見事にアンノウンの文字が画面を躍っていた。これは偽装を施されている証であり、鑑定の上位のスキルか鑑定スキルそのもののレベルを上げなければ見破ることは出来ない、というものだ。

 魔導具にスキルのレベルはないので、幾ら使ってもギルドでは不可能だろう。僕も上げてはおらず、上位スキルはまだ手に入れていない。つまり現時点では、その正体を知る術はない、ということだ。

 しかしそんな状態だというのに、よくアイリス達は着る気になったものである。もしかしたら、碌でもない効果があるかもしれないのに。

 まあその可能性があるからこそ、彼女達が身体が張っている、ということなのかもしれないけれども。


「……ちなみに、トウマさんが知っているこの服に関することとは、どういうものですか?」

「僕も聞いたことがあるレベルだから、多くは知らないけど……その服はメイド……つまり、奉公人……使用人、かな? まあ、そういう人達が着るための服だってことぐらいかな? ただ、僕が知ってるそれは普通の服のはずだから、鑑定で分からない、ってことはないとは思うけど」

「そうですか……」


 ただ、口には出せずとも、予想ぐらいならば出来ないことはない。

 偽装が掛けられているのは……十中八九意味など無いだろう。要するに、単なる悪戯だ。こんなものが存在している時点で、ほぼ間違いないと思われる。

 おそらくは、異世界人の仕業だろう。彼らは稀に……いや、ちょくちょく、かな? こういうことをやらかすのだ。時に偶発的に、時に恣意的に。

 まあ、それが迷宮から出てきた意味は分からないけれども……多分害はないだろうから放っておくに限る。

 それに――


「……? どうかしましたか?」

「いや……そういう服を着たアイリスってのも、新鮮だな、って思って」

「そ、そう……ですか……?」


 そう言って視線を逸らしたのは、照れているからだろうか。

 うん、まったく以って悪くはない。意味は分からないことに違いはなく……或いは、そもそも意味なんて、最初からないのもしれないけれども。

 まったく、この世界ではこんなことが稀に起こるから困る。いや本当に困っているわけではないけれども。

 まあ、とりあえずは、眼福ということで、ありがとうございますと、何処の誰かは分からないけれども、これを仕掛けた人物へとお礼でも述べておくとしよう。

 さて、と。


「それで……服装は違うけど、業務内容はいつも通り、ってことでいいんだよね?」

「……そうですね。これはあくまでもついでですから。今日一日このまま過ごして特に問題がなさそうであれば、そのまま洗濯された後どこかに売られることになるかと思います」


 洗濯しない方がある意味高く売れるんじゃないか、とか思ったけれども、さすがに口には出さない。僕自身にそういった趣味はないし、変態扱いされて喜ぶ趣味も、やはりないのである。











「うーむ……拾う神あれば捨てる神あり……は、違うか」


 そもそも本来であれば逆である。

 二度あることは三度あるだと余計なことが起こりそうだし、三度目の正直は何か違う。

 どうしたものかと悩みながら、僕は目の前のそれを眺めていた。

 まあ、どうするも何も、持って帰るしかないのだけれども……さすがに放置するってのもアレだし。

 現在位置は東の迷宮第二階層、その中の一角の行き止まりの部屋だ。あの後いつも通り迷宮にやってきた僕は、いつも通り――というか昨日と同じように迷宮を進み、ここに辿り着いたのである。

 とはいえここに何かがあるから来たわけではなく、ここに来たのは単に虱潰しに迷宮を歩いていた結果だ。隅々にまで歩くことで、ちょうどいい具合に素材も集まるのである。

 そもそもここには昨日も来たばかりであり、幾ら迷宮が不思議でよく分からないところがあるにしても、一日足らずでは早々に変化などはない。


「ない、はずなんだけど……」


 その常識を、目の前のものは否定していた。

 まあ考えてみれば、迷宮に常識などはあってないようなものだけれども。

 それでも、今まではあっても採集ポイントや発掘場所程度であった。いつの間にか地面に採掘可能な植物が生えていたり、壁が他と違うと掘ってみたら鉱物が出てきたりと、そういったことはあるものの――その時点で普通は有り得ない、というツッコミは置いておくとして――


「何でまたメイド服……?」


 そう、そこにあったものとは、メイド服であった。しかも丁寧に折り畳まれている。

 まさか迷宮でメイド服がはやってる、などということではないだろうし、一体どういうことなのだろうか。

 そもそも迷宮では所謂宝物と呼ばれるものが発見されることはあるけれども、それも結局は迷宮のとある特質によるものだ。本来であれば、何もなかった場所に新しく物が出現する、ということは有り得ない。

 植物や鉱石に関しては、それらは迷宮の一部だから、ということで結論が出ている。あくまでもそれっぽい理屈を後付けしただけだけれども、今のところそれ以上に説得力のある説も出てきてはいない。同様に、それを否定するような証拠も。

 或いはこれがその証拠になるのかもしれないけれども……メイド服に否定されるというのもどうなんだろうか。まあどうでもいいけれども。

 どんな説が出てきて、それが肯定されようが否定されようが、僕達冒険者には関係の無い事だ。それが迷宮攻略の手助けにでもなれば別だけれども、そういったことを考えるのはただの知的好奇心による人がほとんどなので、そんなことはないし。

 まあ既にメイド服に関しては前例もあるのだから、ギルドに持っていってから対処法を聞けばいいだろう。ただの服だと判明した場合は、引き取ってもらえない可能性もあるけれども……その時はその時である。


「それじゃ、再開しますか」


 メイド服をアイテム欄へと仕舞い、探索を再開した。











 迷宮の幅というものは、何処も大体同じようなものだと聞いている。

 例えば東の迷宮は洞窟風の迷宮ではあるものの、その通路の幅はほぼ変わることはない。大人三人が横に並び、戦闘には支障がない程度、といったところだろうか。

 そのため、パーティー――複数人で共に迷宮を潜る際の基本的な単位は、六人からとなっている。横に三人が並び、前衛と後衛でそれが二組、というわけだ。

 勿論それよりも少ないパーティーも珍しくはないけれども、逆に多いパーティーは見かけることは無い。それ以上となると、普通はパーティーの数を増やすことになるからだ。

 また、その隊列に関しても、それはあくまでも基本である。状況によって変わることも、ままあることだ。

 特に部屋での戦闘の時は、むしろ基本を守ってる方が珍しい、と言えるだろう。

 ――部屋というのは通称であり、つまりは通常の通路と比べ広い場所のことだ。先ほどメイド服を見つけたのも、この部屋にあたる。

 通路とは異なり部屋の大きさに統一感はなく、大抵の場合はバラバラだ。通路より広いという基本を除き、その大きさに際限は無い。

 何でも中級のとある階層では、各階段へと向かう短い通路を除き、巨大な部屋しかないという話だけれども……まあ、そういうこともある、ということだ。

 行き止まりが部屋であったことからも分かる通り、これがあったからといってその道が正解であるとは限らない。要するに所詮は変則的な通路の一部でしかない、ということなのだろう。

 その部屋での戦闘が通路でのそれと異なるのは、少し考えれば分かることかと思う。通路であれば、前衛が後衛を守るのは難しくないけれども、部屋ではその広さからその難易度は格段に上がる。同様の戦法では通用しないこともある、ということだ。

 だから通常は通路用の隊列と部屋用のそれを分けて考え、戦い方もそれに合わせて変えるのが普通である。どちらの方が得意かは、人やパーティーによって異なるものだけれども――


「ま、ソロにはあまり関係ないことかな」


 踏み込みと同時、眼前の敵を斬り捨てる。

 通路であろうと部屋であろうと、常に周囲を気をつけていなければならないという点では大差ない。部屋も物によってその大きさが変わってくるのだから、ある意味で通路はその縮小版とも取れるし、部屋は通路の拡張版と捉えることも出来る。

 結局のところ、一人の場合は両者に違いなどはないのだ。それでも敢えてどっちが得意かと問われれば、僕は部屋だと答えるだろうけれども。

 動きに制限が少なくなる分、広い方が色々とやりやすいのだ。まあ動き回るということは疲れるということでもあるから、一概に良いところばかりとも言い切れないのだけれども。

 ともあれ。

 東の迷宮第五階層。初めて訪れるそこを、しかし僕は相変わらず蹂躙していた。

 第五階層は第四階層と比べ、魔物の種類は減っている。けれども簡単になったかというとそんなわけは勿論なく、むしろ逆だ。

 減った魔物は第二階層までに出現した魔物三種。つまり、一時的とはいえ僅かに気を抜けていた魔物が、ここでは出現しないのである。それが当たり前ではあるのだけれども、気を抜けない戦闘の連続というものは、存外疲れるものだ。

 とはいえ今までの階層間の難易度上昇に比べると、ここはまだ温いと言われている。まあどちらにせよ、今の僕には関係なかったようだけれども。


 ――アクティブスキル、ソードスキル:ブレイク。


 眼前のそれの全身が爆ぜるのを横目に、素材を勿体無く思いながらも前に出る。出来ればスキルの練習と素材の剥ぎ取り、その両方が可能であればいいのだけれども――


「まあ、今は言っても仕方ないこと、か」


 ――アクティブスキル、アタックスキル:スマッシュ。


 呟きながらも、続けて前方の敵へと刀身を叩き込む。相変わらず何の抵抗も感じさせずにそれは逆側へと抜け、追加で放たれた衝撃が分かたれた肉体をミンチに変えた。

 正直に言ってしまえば、ブレイクとスマッシュを一緒に使うことに意味はない。そもそもスマッシュの剣技版がブレイクと言える時点で、当たり前なのだけれども。

 では何故両方とも一緒に使っているのかというと、スキルを使うのに慣れる為、である。ソードスキル二つをローテするだけでは、慣れるというよりは作業化してしまいそうなので、それを防ぐために混ぜているだけなのだ。

 なので、おそらくもう一つ何らかのソードスキルを覚えたら使うことはなくなるだろう。一応素手でも使用可能なスキルという点では有用性もあるけれども……どちらかと言うならば、そのような状況を作らないようにするために、努力を重ねるべきである。


 ――アクティブスキル、ソードスキル:ワイドスラッシュ。


 そんなことを考えながら、周囲の敵を薙ぎ払う。今ので最後だったのを確認すると、一度だけ大きく息を吐き出した。


「んー……結構慣れてきた、かな?」


 それを確認するように、軽く拳を開閉する。勿論それで分かるようなことではないけれども、何と言うか、気分だ。

 ちなみに具体的に何に慣れてきたのかというと、それは身体能力であり、スキルの使用に、である。武器に関しては……まだちょっと振り回されてる、といったところだろうか。

 まあでも妥当なところだろうと思う。

 身体能力に関しては、そもそも自分の身体なのだから、使っていけばそのうち慣れるというのは当たり前のことだ。スキルに関しても、これはどちらかというと感覚を思い出す、という感じに近いので、多少の時間さえあれば問題はなくなる。

 武器に関しては、今まではそんなことを考える必要がなかったことの弊害だろう。武器が強すぎて振り回される、という経験は早々ないものである。故にこれに慣れるのに最も時間が必要なのは、ある種の必然なのだ。

 まあ、単に才能無いってだけなのかもしれないけれども……その方面については、考えないようにしよう。スキルさえ揃えば、どうとでもなるはずだし。

 本来才能が顕現化したものであるはずのスキルで才能を補うというのはおかしな話だけれども……稀にはそんな者が居てもいいだろう。

 尚、スキルを覚えるのに必要なのは、以前にも言った通り特定の条件を満たすことなので、現在僕がソードスキルを二つしか覚えていないのは才能とは関係がない。それは単にまだ条件を満たしていない――満たす気がないからだ。

 理由は単純で、そんな何でもかんでも覚えていたら、キリがないからである。それに、意味も無い。

 スキルは以前にも言った通り、大雑把に分けるとパッシブとアクティブの二種類に分けることが可能だ。そこからさらに様々なものへと派生していくのだけれども、基本そこから分かれていくのはそれぞれの武器に最適化されたスキルである。

 例えば剣であればソードスキルといった感じだけれども、それもまた割と大雑把だ。刀やレイピアで使用出来るスキルなどもソードスキルに含まれるので、ソードスキルの中でも剣の種類によっては使えない、ということも起こり得る。

 いや厳密に言うならば使えないというわけではないのだけれども……使っても意味が無いレベルの代物へとなってしまうので、使えないと言ってしまっても問題はないだろう。

 ともあれ、そういったわけなので、何でもかんでも取っていたら、そういう使えないスキルも覚えてしまうのである。別に覚えても使わなければいいだけなので、直接的な問題には成りえないのだけれども……ぶっちゃけスキルリストでスキルを確認する際に邪魔なのだ。

 そういったわけで、なるべく余計なものは今は覚えないようにしているのである。

 以前に言った剣を振る回数が足りないというのは、あくまでも覚えようとしているものの必要数に対して、なのだ。無作為に取るのであれば十分達してはいるのだけれども……まあ、取る気がない以上は無意味な話である。

 とはいえある程度経てばそんなことも気にする必要がなくなるのだけれども、未だに感覚が完全に取り戻せたとは言い切れない状態なので、今のうちはまだ気にしておく必要がある、ということだ。

 ちなみにスキルを覚える数の上限だけれども、おそらく存在はしていない。少なくとも限界に達したという話は聞いたことがないので、存在するにしてもかなりのところであり、気にする必要はないレベルだろう。

 仮にソードスキルを全制覇したところで、まったく問題にもならないはずである。五百を超えるそれを制覇するということの方が、別の意味で問題が発生するだろうけれども。どう考えてもその中には一度も使わないようなものもあるだろうし。

 実際のところ、最終的に戦闘に使用するスキルは、おそらく十程度になると思われる。それ以上を使えても、多分邪魔になるはずだ。

 戦闘の際に使える手札は多い方がいいけれども、あまりに多すぎる場合には、逆に迷いが生じてしまう原因にもなりかねない、ということである。

 一応その最終的な候補は幾つか考えてあるので、それに必要のないスキルは取る気がない、ということでもあるのだ。

 ――まあそのせいで、今は三つしか使えない、ということになっているのだけれども。

 もっとも慣れてきたとはいうものの、まだまだ完璧というには程遠い。数を増やすのは、そこに近付いてからでも遅くはないだろう。

 完璧というのは、思考から一瞬のタイムラグもなくスキルを発動できるということであり、どのスキルを使用するかを一瞬の内に判断するということだ。もっとも後者に関しては現在選択できるほどの種類が揃ってないので、あくまでも思考を回しているに過ぎないけれども。

 前者に関しては……かつて述べた通り、スキルというのは基本的にスキルリストから選択して使用するものだ。けれども厳密にはそれは初心者の使い方であり、ある程度慣れたものは別の方法で使用する。

 それが、思考からの直接起動だ。それを使用したいと思うだけで、スキルを発動させることが出来るのである。

 ただしこれにはそれなりの集中力が必要であり、何よりも慣れが必要だ。慣れない内は別のスキルが発動してしまったり、そもそも発動しなかったり、中途半端に発動して暴発したりと、碌なことにならないのである。

 通常時でさえも、そんなことが起こり得るのだ。最もスキルを使用する場面が多く、その重要性が高い戦闘中では、失敗する確率がさらに上がってしまうのは言うまでもないだろう。

 それを乗り越える方法は、ひたすらに試し、慣れるしかないのである。

 さすがに僕はそういった失敗は起こさないけれども、未だ実際に発動するまでには僅かに時間がかかってしまうのだ。今の楽勝モードであればそれでも問題にはならないのだけれども、さすがにもっと厳しくなった時にこれでは、話にならない。

 他のことを考えるのは、せめてこれをどうにかしてからだろう。

 それが終わった後で、まだ他のスキルが覚えられていないような状況であれば、さすがにスキルを覚える方に比重を傾けた方がいいかもしれないけれども……今は一先ず、スキルを使用し続け慣れるのが先決である。

 そのうちレベルも上がるだろうし。

 スキルにもレベルが存在しているというは、これまた以前に述べた通りだけれども、これまた重要なことだ。各スキルのレベル上限は十までだけれども、レベル一のスキルとレベル十のスキルではまったくの別物になることも珍しくはない。

 レベルを上げていけば、基本スキルであっても十分使えるものになっていくのだ。

 まあそうしても最終的にはどっち片方が残ればいい方だろうけれども。

 尚、あと何回使えばレベルが上がるのか、ということはこちら側からは分からない。そこは完全なマスクデータとなっており、レベルが上がったという結果でしか知る術はないのだ。

 だからこそたまにスキルリストから詳細を眺めるこちになるのだけれども――


「まだ無理、か」


 どうやらまだ使い足りないらしい。一応鑑定等に関しても見てみるものの、やはり同様の結果に終わった。

 鑑定といえば、それを始めとするように、スキルの中には明らかに武器とは関係のないものが存在するけれども、それがどこの所属するのかというと、その他、ということになる。

 その他。つまりは、分類されているもの以外のもの、だ。一応はサポートスキルという名前になってはいるのだけれども、そのせいでまったくサポートするスキルではないのに、サポートスキルの分類になっていたりするのである。

 それはどうにかならなかったのか、とは思わなくもないけれども……まあ分かりやすいと考えるしかないだろう。ただし中に詰め込まれているものが分かりやすいかは、また別の話である。


「さて、と」


 それでは、そろそろ歩みを再開しようか。

 第五階層も問題なさそうだとは思ったものの、まだここには来たばかりである。得た情報によれば特に問題となるものはなさそうだけれども……油断は禁物だ。

 気を引き締め直して、歩き出した。

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