第20話 王都決戦――滅びた王国の王は、世界を救う。
残り三日。
敵は一人。
守る人間は――百二十万人。
「無理じゃない?」
ノクス王城。
会議室。
俺の言葉に誰も答えなかった。
「いや、誰か否定してよ」
「無理ではありません」
リゼリア。
「さすが」
「王都ごと消滅させれば、エリシアも――」
「それ守れてないから!」
「では難しいですね」
「諦めるの早い!」
セレスティアが机を叩く。
「遊んでる場合じゃないわ」
「はい」
地図。
王都セレナ。
人口百二十万。
「エリシアの目的は神王権完成」
「うん」
「必要なのは王都にいる人間の生命力」
「なら避難させれば?」
「それが一番確実」
アリシアが立ち上がる。
「今すぐ父上に伝える」
「信じてもらえる?」
「…………」
止まった。
「難しい?」
「私がノクス王を連れて帰って、三日後に王都が滅びますと言うのよ?」
「俺いない方がよくない?」
「たぶん」
「悲しいな」
ガレスが地図を見る。
「それだけではありません」
「何?」
「百二十万人を三日で避難させるのは現実的ではない」
確かに。
「道路が詰まる」
「食料も必要」
「避難先も」
ハイン。
「老人や病人もおります」
「…………」
つまり。
「避難だけじゃ無理」
「はい」
なら。
「エリシアを先に倒す」
イグニスが言った。
「居場所分かる?」
「セレナ王都にいるんでしょう?」
「百二十万人の中から探すの?」
「全部燃やせば――」
「君もリゼリア化してるから!」
「何だそれは!」
「人間を残してエリシアだけ燃やすとかできない?」
「無茶を言うな」
ダメか。
その時。
『双王システム』
【提案】
「提案?」
【王都全域を双王領域に指定することで、生命力徴収への干渉が可能です】
俺とアリシアが同時に表示を見る。
「できるの?」
【条件があります】
嫌な予感。
【始祖王と聖王が王都中心部で同時に王権を展開】
【双方の同意が必要】
「それだけ?」
【展開中、両名は王都から離脱できません】
「つまり」
アリシアが言う。
「エリシアが来ても逃げられない」
【肯定】
「いいじゃん」
「良くないわよ」
「なんで?」
「相手は神王権よ」
「だから?」
「死ぬかもしれない」
「逃げても百二十万人死ぬんだろ?」
「…………」
「なら決まり」
アリシアが俺を見る。
「怖くないの?」
「怖いよ」
「そう見えない」
「めちゃくちゃ怖い」
でも。
俺は一度。
三百年前。
逃げなかった。
アルクとして。
そして。
今回も。
「やるしかないだろ」
◇ ◇ ◇
三日後。
セレナ王国。
王都。
「でか……」
城壁の上から見ても。
街の端が見えない。
人口百二十万。
ノクスの二千倍以上。
「比較すると悲しくなるな」
「陛下」
リゼリアが隣。
「いずれノクスもこれ以上に」
「焦らなくていいよ」
俺たちは正式な外交使節として入国した。
アリシアが先に戻り。
父。
セレナ国王へ説明。
当然。
最初は信じてもらえなかった。
だが。
アリシアの聖王権。
俺の始祖王権。
三百年前の記録。
そして。
エリシアの名前。
国王は最後には信じた。
正確には。
信じるしかなかった。
王都では避難が始まっている。
でも。
まだ九十万人以上残っていた。
「間に合わなかったか」
「予定通りです」
ガレスが答える。
「可能な限り避難させただけでも意味があります」
「うん」
そして。
正午。
俺とアリシアは王都中央広場に立った。
「準備いい?」
「ええ」
「怖い?」
「少し」
「俺も」
「嘘」
「本当」
手を合わせる。
『双王システム』
【始祖王権確認】
【聖王権確認】
【双王領域を展開しますか?】
「「展開」」
黒。
銀。
二つの光が走る。
王都全域。
巨大な結界。
【双王領域――完成】
【領域内人口:913,442】
【生命力保護:有効】
「よし」
これで。
エリシアが何をしようと。
市民の生命力は奪えない。
はずだった。
その瞬間。
鐘。
ゴォォォン――。
一回。
二回。
三回。
「……来る」
空が。
金色に染まった。
『警告』
【高位王権を検出】
【神王権】
空。
一人の女が降りてくる。
白い髪。
金色の瞳。
見た目は三十歳ほど。
「…………」
アリシアが震えた。
「お母……様?」
女が微笑む。
「久しぶりね」
「…………」
「アリシア」
「本当に……」
「ええ」
エリシア。
十八年前に死んだはずの母。
「ずっと見ていたわ」
「どうして……」
「あなたが聖王として覚醒するのを待っていた」
そして。
俺を見る。
「レオン・アークレイ」
「初めまして?」
「いいえ」
女が笑う。
「三百年ぶり」
「俺はアルクじゃない」
「魂は同じ」
「でも俺は俺」
「……そう」
少しだけ。
エリシアの表情が変わった。
「だから失敗したのね」
「何が?」
「あなたを戻したこと」
アリシアが叫ぶ。
「お母様!」
「何?」
「なぜこんなことを!」
「あなたのためよ」
「私の?」
「ええ」
エリシアが両手を広げる。
「死のない世界を作る」
「…………」
「病気も」
「老いも」
「戦争も」
「飢えも」
「すべて私が管理する」
「それが神王権?」
「そう」
「そのために百万人殺すの?」
「殺すのではない」
「じゃあ何?」
「一つになるだけ」
「同じだろ」
俺が言う。
エリシアが俺を見る。
「やはり理解できないのね」
「理解したくない」
「王とは世界を導く存在」
「違う」
「何?」
「少なくとも俺は」
剣を抜く。
「そんな偉いもんじゃない」
王になって。
まだ少し。
分かったことがある。
「家を作ったり」
「畑作ったり」
「金がないって悩んだり」
「国民増えすぎて困ったり」
セレスティアに貧乏と言われたり。
リゼリアを止めたり。
イグニスに牛食わせたり。
「そういう仕事だよ」
「…………」
「世界を支配するとか」
俺には。
重すぎる。
「興味ない」
エリシアの笑顔が消えた。
「なら」
神王権。
発動。
「消えなさい」
世界が。
割れた。
◇ ◇ ◇
『攻撃を検出』
【双王防壁】
黒と銀。
二つの盾。
ドォォォォォン!
「ぐっ!」
「レオン!」
「大丈夫!」
重い。
一撃で結界が軋む。
【双王防壁:82%】
「一発で十八%!?」
「来るわよ!」
二撃目。
「リゼリア!」
「御意!」
黒い光。
エリシアへ。
だが。
消えた。
「何?」
「私の魔法が……」
「無効化された?」
エリシアが笑う。
「魔法は世界法則の一部」
「…………」
「私は法則を書き換えられる」
イグニスが飛ぶ。
「なら物理で殴ればいい!」
「イグニス!」
巨大な竜の爪。
直撃。
――する直前。
「止まりなさい」
イグニスの身体が。
空中で停止した。
「な……!」
「竜も世界の一部」
エリシアが指を動かす。
イグニスが吹き飛ぶ。
「イグニス!」
「死んではおらん!」
「よかった!」
強い。
神喰種より。
もっと厄介。
「どうする?」
アリシアが聞く。
「考えてる!」
「早く!」
「最近みんなそれ言う!」
王権。
魔法。
物理。
全部ダメ。
世界法則を書き換える。
なら。
「システム」
『応答』
「エリシアの神王権も、王権なんだよな?」
『肯定』
「誰が作った?」
『情報制限』
「じゃあ質問変える」
俺は笑った。
「王権って――改変できるよな?」
沈黙。
『可能』
「レオン?」
アリシアが俺を見る。
「前に一回やった」
「何を?」
「王権のルール変更」
神喰種との戦い。
民の生命力を使う仕組みを。
魔晶石へ変えた。
「双王なら?」
『解析』
【始祖王権:王権構造への改変権限】
【聖王権:王権構造への浄化権限】
俺とアリシア。
二人。
「神王権そのものを変えられる?」
『対象への接触が必要』
「接触?」
【神王権中枢へ直接干渉してください】
「どうやって?」
【対象の王権紋へ触れてください】
エリシアの胸。
金色の紋章。
「簡単に言うなよ……」
そこまで行く必要がある。
「アリシア」
「何?」
「俺が近づく」
「無理よ!」
「君は援護」
「でも!」
「信じて」
「…………」
彼女が俺を見る。
「絶対死なない?」
「努力する」
「絶対って言いなさい!」
「絶対死なない!」
「よし」
「そこは信じるんだ」
行く。
「リゼリア!」
「はい!」
「三秒!」
「十分でございます」
リゼリアの魔力。
今までで最大。
「魔法が効かない!」
「承知しております」
「じゃあ何するの?」
「目隠しです」
「え?」
空全体。
真っ黒になった。
「陛下!」
「今です!」
「ありがとう!」
走る。
一秒。
エリシアが反応。
「無意味」
二秒。
身体が重い。
世界法則。
俺を止めようとしている。
「アリシア!」
「聖王権!」
銀色の光。
「法則干渉――解除!」
身体が動く。
三秒。
エリシアの前。
「捕まえた」
俺の手。
彼女の王権紋へ。
「なっ――」
『接触確認』
【神王権中枢へアクセス】
「アリシア!」
「分かってる!」
彼女も俺の肩へ手を置く。
【双王接続】
【始祖王権】
【聖王権】
【神王権への管理者権限を要求】
エリシアが叫ぶ。
「やめなさい!」
「却下!」
「これは私の千二百年よ!」
「長すぎ!」
「私は世界を!」
「勝手に決めるな!」
俺とアリシア。
同時に。
「「神王権――改変!」」
光。
◇ ◇ ◇
『神王権構造を解析』
【生命支配】
【魂魄転移】
【未来干渉】
【法則改変】
全部。
「消せる?」
【可能】
「待ちなさい!」
エリシアが暴れる。
「これを失えば!」
初めて。
恐怖。
「私は死ぬ!」
「…………」
俺の手が止まった。
「レオン!」
「分かってる」
千二百年。
身体を変え。
魂を移し。
生き続けた。
神王権がなくなれば。
寿命が戻る。
「死にたくない?」
俺が聞く。
「当たり前でしょう!」
「なら」
「何?」
「普通に生きればよかった」
「…………」
「他人の命を使わずに」
「人は死ぬ!」
「死ぬよ」
「愛する者も!」
「そうだな」
「ならなぜ!」
「だからって」
俺は彼女を見る。
「他人の人生まで奪っていい理由にはならない」
エリシアが黙る。
「アリシア」
「ええ」
「やろう」
「うん」
「待って!」
俺たちは。
神王権を書き換えた。
【生命支配――削除】
【魂魄強制転移――削除】
【未来強制干渉――削除】
【法則改変――制限】
【神王権】
【失効】
エリシアの金色の瞳から。
光が消えた。
「…………」
身体が落ちる。
俺が抱える。
「レオン!」
「生きてる?」
『生命反応あり』
「よかった」
「なぜ……」
エリシアが俺を見る。
「私を殺さないの……?」
「殺す必要ないから」
「私は……」
「罪は償ってもらう」
「…………」
「千二百年分」
「長いわね……」
「かなり」
彼女が。
初めて。
普通の人間みたいに笑った。
「本当に……」
目を閉じる。
「アルクとは違うのね……」
「だから最初から言ってるだろ」
◇ ◇ ◇
『神王権消滅を確認』
【王都セレナ崩壊――回避】
【第二の王殺し――完全回避】
【死者:0】
「…………」
「ゼロ?」
『死者:0』
俺は座り込んだ。
「よかった……」
アリシアも隣へ座る。
「終わった?」
「たぶん」
「たぶん?」
「こういう時、だいたい何か出るから」
『通知』
「ほら」
「本当ね」
【特殊任務達成】
【三百年戦争――終結】
【王国経験値:50000】
【王国レベル:5→6】
【特殊称号獲得】
【双王の盟友】
【救世の王】
【王権改革者】
「多いな」
さらに。
【世界評価が更新されました】
「世界評価?」
【ノクス王国】
【旧評価:滅びた魔王国】
文字が消える。
【新評価】
【大陸級強国】
【推定軍事力:測定不能】
【古代竜との盟友関係】
【アルディア王国との友好関係】
【セレナ王国との双王盟約】
【神喰種討伐】
【王都セレナ救済】
最後。
【危険評価――最高】
「なんで!?」
アリシアが笑った。
「そりゃそうでしょう」
「俺、誰も殺してないよ?」
「だから怖いのよ」
「何で?」
「十二万の軍勢を呼べる王が」
「うん」
「古代竜を従えて」
「従えてない」
「災厄級魔族を臣下にして」
「それはそう」
「神喰種を倒して」
「うん」
「神王権まで消した」
「…………」
「それなのに」
アリシアが笑う。
「誰も殺さない」
「良いことじゃん」
「他国から見れば」
彼女が立ち上がる。
「何を考えているか一番分からない王よ」
「ひどい」
◇ ◇ ◇
一か月後。
ノクス王国。
「陛下!」
「何!?」
「移住希望者がまた!」
「何人!?」
「八千人です!」
「増えすぎ!」
人口。
【臣民:4,218】
「もう五百人じゃないじゃん!」
街ができていた。
市場。
冒険者ギルド。
鍛冶屋。
宿屋。
農地。
家。
人。
子供。
笑い声。
【都市昇格】
【ノクス王都――成立】
俺は城のバルコニーから街を見る。
「本当に国になったな」
「陛下」
リゼリア。
「何?」
「国庫について報告が」
「嫌な予感」
「セレスティア様がお呼びです」
「様つけるようになったの!?」
「……財務面では」
「仲良くなった?」
「なっておりません」
「そこは即答なんだ」
会議室。
セレスティアが待っていた。
「遅い」
「王なんだけど」
「だから?」
「何でもない」
帳簿。
ドン。
「国庫」
「うん」
【国庫:163,420】
「十五万超えた!」
『特殊任務達成』
【黄金の王国】
【国庫150,000達成】
【交易都市建設権獲得】
【特殊召喚権×1】
「また召喚!?」
リゼリアの顔色が変わる。
「陛下」
「するよ?」
「まだ何も言っておりません!」
「顔に書いてある」
イグニスが入ってくる。
「レオン」
「何?」
「牛がない」
「昨日三十頭仕入れた!」
「食った」
「早いよ!」
「次は?」
「セレスティア!」
「経費削減対象ね」
「我を経費扱いするな!」
騒がしい。
本当に。
騒がしい国になった。
でも。
俺は。
こういう国がいい。
◇ ◇ ◇
さらに三か月後。
大陸各国。
ノクス王国について。
ある共通認識が生まれていた。
十二万の軍勢を召喚する王。
国一つを滅ぼせる魔族。
古代竜。
急成長する経済。
魔晶石鉱山。
アルディア。
セレナ。
二つの大国との同盟。
それでも。
ノクスは。
一度も侵略戦争をしなかった。
だからこそ。
各国の王たちは。
同じ言葉を口にした。
『ノクスには手を出すな』
『あの国だけは――』
『絶対に敵に回すな』
そして。
当の本人。
「レオン陛下!」
「今度は何!?」
「ヴァルガス帝国より使者です!」
「帝国!?」
「皇帝陛下から親書が!」
「嫌な予感しかしない!」
受け取る。
開く。
『ノクス王レオン・アークレイへ』
『我が帝国はノクス王国との戦争を望まない』
「よかった」
続きを読む。
『ゆえに』
「うん」
『皇女との婚姻を提案する』
「…………」
俺は紙を閉じた。
「リゼリア」
「はい」
「断って」
「喜んで」
「早いな」
「陛下の御心を乱す女は不要です」
「そういう意味じゃ――」
『警告』
「今度は何!?」
【ヴァルガス帝国皇女が国境を越えました】
「もう来てるの!?」
【ノクス王国まで推定3時間】
「断る時間ないじゃん!」
そして。
追加表示。
【対象個体を解析】
【ヴァルガス帝国第一皇女】
【特殊能力保有】
【王権反応あり】
「…………」
俺は固まった。
「まだ王権あるの?」
平和になった。
そう思っていた。
でも。
この世界は。
どうやら。
俺を休ませてくれるつもりはないらしい。
滅びた王国の復興は終わった。
ここから始まるのは――。
大陸すべてを巻き込む、新しいノクス王国の物語だ。




