⑨ 彼女の出身地
「ただ、肝心のタイムマシンのバッテリー性能が、この時代の材料で作ると限界が有るから…手巻き充電に頼らなければならないっていうのが、がっかりポイントなのよねえ。」
妖精さんは最後に、残念そうにそう言った。
「…ねえ、妖精さん。」
おもむろにサンジェルマン少年が訊く。
「なあに?私のサン・ジェルマン。」
「貴女は何処からやって来たの?この地図でいうと、どの辺なの?」
当然湧いてくる疑問であった。
妖精さんは、彼にヒントを与えることにした。
「それはね…。」
「…うん、うん。」
「…秘密よ。」
「え~。」
「ウソ、ウソ。貴方たちが、ジパングとかジャポンとかって呼んでいる場所よ。」
「…聞いたことがあるぞ。確か…ここだね?」
彼はそう言うと、スペインより遥か東の、小さな列島を指さす。
「そうよ。いつかきっと、貴方の方から私に逢いに来てね?」
「うん。でもこんなに小さな島なら、妖精さんを探すのはきっと簡単だね?」
「…そうかもしれないわね。」
そう言うと、彼女はにっこり微笑んだ。
「それでね…貴方の時間であと5年もしたら、私は元の世界へ帰るわ。」
「えっ、そうなの?」
彼女からの突然の別れの予告に、びっくりする少年。
「実はここに顔を出すことだって、ルール違反なのよ。」
「あっ、タイムトラベルのルール…。」
「そうよ。貴方も分かって来たじゃない。上出来よ。」
「…でもね、貴方の青春時代は史実に出ていないのよ。だから私がコッソリ貴方に関わっても、ギリギリセーフかなって…。」
「…。」
「そして、貴方がタイムトラベラーになるのは、確定された史実なの。ところが、そこに至る過程は誰も知らない…と、言う訳なの。」
「…なるほど。」
「そんな訳だから、これからも暫くは、貴方にタイムトラベルの手ほどきをしてあげるわ。」
「うん、ありがとう。よろしくね?」
彼にカワイイ顔でそんな風に言われると、彼女の心にも若干の罪の意識が湧いてくるのであった。
「そうと決まれば…。」
彼女は慌てて話題を替える。
「なあに、妖精さん?」
「貴方…外国語は得意かしら?」
「将来、社交界で必要だからって、家庭教師がフランス語を教えてくれているけど…。」
「…他には?」
「芸術の勉強に必要なイタリア語とラテン語を少々…。」
「スペイン語、フランス語、イタリア語、ラテン語かあ…まあ上出来ね。でも英語とドイツ語、ギリシア語、それに中国語と日本語の勉強もやっておきましょうか?」
「…どうして?他の時代の人とは関わっちゃダメなんでしょ?」
「ここからはルールの第二段階よ。その原則は踏まえた上で、大きな歴史の変動が無いように配慮しつつ、貴方の良心に従って行動するのよ。それが正しいオトナの振る舞いよ。できるわね?」
「ええっ!?」
突然の要求のレベルアップに、当惑してしまうサン・ジェルマン少年であった。




