第33話
――三智慧人
「いま、志村が話していた内容から察するに、由紀達に脅されてイヤイヤ売春に行く子が居るんでしょ? 助けに行こうよッ! オジサンに会う前に、その子捕まえて、あなたが身体を売る必要はないって言ってあげようよ」
香織さんの言葉に、俺は脳天にケモノノチカラを食らったような衝撃を感じて言葉を失った。
一番大切なことを忘れていた。
オヤジに言われた言葉を思い出す。
『マモノハンターの使命はマモノを殺すことじゃなくて、マモノの脅威から無力な人々を守ることだ』
俺はいつの間にか『売春強要グループ』の犯罪を告発して、奴らを地獄に落とすことに夢中になっていた。
桜歌と亜沙美も似たようなものだろう。
でも、『売春強要グループ』を地獄に落とすのはあくまで手段。
俺達の目的は、彼女達に苦しめられている被害者を助けることだ。
「そう……だね。脅されて身体を売ったら、きっと心に消えない傷が残る。それを黙って見てるなんてダメだよね」
「お母さんに連絡します。サンキタ広場は事務所のすぐそばなので、お母さんに行ってもらえば間に合うはずです」
桜歌が慌てて桜理さんに電話をかける……が、桜理さんは電話に出てくれない。
「早く出て、早くッ!」
「ちょっと待って!? 桜理さん今日裁判に出廷してる、きっとまだ裁判中よ」
亜沙美が桜理さんのスケジュール表を開くと、『6月18日17:00~19:00。裁判に出廷。神戸家庭裁判所』と記載されていた。
「クソがああ! いま何時だ?」
「18時27分ッ! 脅された娘が男と会うまであと33分しかない」
「一番早い移動手段は、大通りを走ってるバスに乗ることだけど」
「間に合わないッ! 待ち時間なしでバスに乗るなんて不可能よ」
地図アプリに表示された経路案内では、バスに乗れば20分前後でサンキタ広場にたどり着けると表示されているが、この数字は理論値だ。
実際には、ここからバス停に移動する時間、路線バスは来るまでの待ち時間、加えて交通渋滞による遅延等の要素を考えるとバスでは19時までにサンキタ広場にたどり着けない。
「なら申し訳ないけど、和子さんに車を出してもらおうか?」
亜沙美がいつも帰りに迎えに来てもらっている和子さんに車を出してもらう事を提案するが、桜歌は無言で首を振る。
「三宮駅周辺の交通量を考えてください。特にいまの時間は帰宅ラッシュの真っ最中なので、車で向かったら間違いなく渋滞につかまります」
「八方塞がりだな。こうなったら間に合う可能性は低いが俺が走って――」
「私が行くッ!」
俺の言葉を遮って香織さんが宣言する。
「それなら、私が自転車で行きますッ! 一人は心細いけど、私が流奈って子を助けに行くよ」
そうか、香織さんは自転車を持っているのか、それなら19時までにサンキタ広場にたどり着けるかもしれない。
「可能性をあげるために自転車は俺が漕ぐよ、その方が速い。悪いけど、香織さんには後ろで道案内をして欲しいんだけど」
「慧人さんが一緒なら心強いけど、自転車乗れるんですか?」
「任せろ。自慢じゃないがマモノハンターやってたときに、緊急出動の訓練も受けてたからな」
マモノハンターをやっていると、都市から離れた場所に緊急出動を求められることがある。
主に人命救助が求められる状況で、マモノに襲われて定期便が動けなくなったときや、森林地帯で行方不明者が出たという情報が入ったときに、マモノハンターは人命救助のために大急ぎで現地に向かう。
その手の任務は密林の中を時速100キロ以上の速さで走れるウルディンが得意としているが、地球とゲートが繋がり技術的な交流を持ったことでクサリクもウルディンに匹敵する足を手に入れた。
「密林をマウンテンバイクで走ったんですか!?」
「緊急出動が必要なときだけな。特にPHCアマハラは人命救助を重視してたから密林をマウンテンバイクで走る訓練が教育隊の必修課程だった」
三智隊はオヤジの方針で、密林でマモノを探す狩猟任務や、定期便の護衛任務といった地に足を着けた仕事が多かったが、自転車走行の訓練は定期的に受けていたので香織さんより速く走れるはずだ。
「私の自転車はマウンテンバイクじゃなくて、普通の自転車だけど」
「森の中走るわけじゃないから問題ないです。ただ、俺はこの辺りの土地勘が無いので道案内をお願いします」
「わかりました。道案内は任せてください」
俺が自転車にまたがり、香織さんが荷台に腰かける。
桜歌も亜沙美も地元は学園都市なので、サンキタ広場までの道案内は土地勘のある香織さんにお願いするしかない。
「慧人さん、香織さん、これを使ってください」
桜歌は自転車走行中にメガネが吹っ飛んでいかないように香織さんの眼鏡をゴムバンドで固定し、続けて俺の顔にもゴムバンド付きの眼鏡をかける。
「これはスマートグラスです。眼鏡に内蔵されたカメラで慧人さんの視界を私達もモニターできます」
「俺と視界を共有って何に使うんだよ?」
「いろいろできますよ。例えば、流奈さん買おうとしてる男性の顔を撮影するとか」
桜歌はフフンと不敵な笑みを浮かべながら答えてくれる。
「けっこうスピードが出るので振り落とされないように、しっかり捕まってください」
「はい、お願いします」
香織さんがギュッと腰にしがみつくのを確認して俺は走り始める。
二人乗りでも20キロ以上のスピードが出るので、あっという間に桜歌と亜沙美の姿が見えなくなる。
ご拝読ありがとうございました。 私の作品が、皆様の日常のちょっとした楽しみになれば幸いです。
【読者の皆様へのお願い】 下にあるポイント評価(星マーク)は、作品のランキングに直結する非常に大きな力になります。 「面白かった」「今後に期待」と思っていただけましたら、応援のつもりで星をタップしていただけると嬉しいです!
頂いた評価や感想を糧に、さらに面白い物語を届けていけるよう頑張ります。




