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第一章9 ANOTHER WORLD Ⅰ

「う、うーん?」


 カテリナは目を覚ました。


「こ、ここは・・・。」

「お、やっと目が覚めたか、ボスはもう倒したぜ。」


 カテリナはあたりを見回した。確かにボスはいない。マリーとユイはもう気が付いて、カテリナの顔を覗き込んでいた。


「カズキ君がボスをやっつけて、私たちを助けてくれたんです。」


 マリーがカズキの活躍を称えた。


「カズキがいなかったらあのままやられていた。ありがとう。」


 ユイもお礼を言った。


「え?いやぁ何のこれしき!」


 カズキは照れ笑いしながら言った。


「フン!奴隷のくせに目立ちすぎよ!でもまぁ、一応感謝しとくわ。」


 カテリナはそっけなく言った。こいつは本当に素直じゃないな。


 四人はアラクネが落とした宝箱を開けた。中には大量の金貨と宝石、魔王城の扉を開くのに必要な黄色のメダルが入っていた。


「よっしゃー!大量だー!」


 カズキは歓喜した。


「アンタの分は無いわよ。」

「何ぃ!?」

「アンタは奴隷だもの、お宝を手にする資格は無いわ。お宝は私たち三人で山分けよ。」

「そんなぁ~。」

「でも、何もないのはさすがにかわいそうね。じゃあハイ!これはお給料よ。ありがたく受け取りなさい!」


 そう言ってカテリナはカズキに1000Gだけ手渡した。


「こ、これだけ?」

「そうよ。だいたいアンタは十分課金して強いんだしお金もいらないじゃない。私たち女の子はおしゃれにお金がかかるのよ!」


 カズキはうなだれた。結婚して小遣い制になったサラリーマンになったような心境だ。


 四人は洞窟から外に出た。外はすっかり暗かった。時刻は夜9時を回っていた。


「じゃあ今日はここまでね!明日朝9時にまた会いましょ!おつかれ!」

「お疲れさまでしたー!」

「お疲れ。」


 三人娘はログアウトした。カズキは一人になった。騒がしいのがいなくなり、急に静かになった。


「やれやれ。」


 カズキは草むらに寝転がり、夜空を眺めた。ふと、魔王城のことを思い出した。ルシファーたちはどうしているだろうか。急に家出しちゃったからなあ。俺のことを探しているだろうか。カズキは魔王城を飛び出したのが昔のことのような気がしていた。


 そんなことを考えているとカズキは睡魔に襲われ、寝落ちしてしまった。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




ーーーおい。



ーーーおい、遠藤君。



「おい、遠藤君、聞いてるのか?」

「あ、渡辺さん、すみません。ぼーっとしてました。」

「寝不足かい?しっかりしてくれよー。まぁいいや。『ANOTHER WORLD』なんだけどね、定期メンテで君がプログラミングを担当した魔王にエラーが出ていることが分かった。」

「エラー?」

「そう。どうやら魔王がボス部屋から消えてしまっているみたいなんだ。」

「そんなバカな!」

「とにかく、このままだと誰かが魔王の部屋に入っても魔王がいないためクリア不可能ということになってしまう。時間もないから、一階層下のルシファーを魔王ということにして、元の魔王の部屋は削除する方向で至急修正パッチの作成を頼むよ。」

「魔王の部屋を削除!?」

「ごめんよ。上まで相談してもう決まったことなんだ。じゃ、ヨロシク!」


(はあ、今日も徹夜かな・・・。)


 ここはとある日本のゲーム製作会社のオフィスである。一年前に発売した『ANOTHE WORLD』は大ヒットしたものの、その膨大なボリュームと自由度の高さが災いしてバグの嵐となっており、社員は日々その対応に追われていた。


 そして先ほど、ゲームディレクターの渡辺と話をしていたゲームプログラマー、遠藤和樹もその一人だった。


 28歳独身、彼女ナシ。顔は男前と社内でも定評があり、『ANOTER WORLD』のキャラデザ担当の鈴木さんに魔王のモデルにさせられたほどだが、毎日残業続きで彼女を作る暇なんて無かった。ゲーム開発に携わりたいと思いこの仕事についたが、やってみるとかなりきつい仕事だ。


 それでもこれまでこの仕事を頑張ってこれたのは、多くの人々に感動と夢を与えられるこの仕事にやりがいと誇りを感じていたからだ。


 『ANOTHER WORLD』のコンセプトは、『()()()()()()()()』だ。すべての性別・年代・人種・身分・境遇の人々が、現実世界でのしがらみを忘れ、もう一人の自分として冒険し、仲間と笑い、活躍できる。そんなゲームだ。


 和樹はさっそく修正パッチの作成に取り掛かった。キーボード上を和樹の指が高速で縦横無尽に駆け回り、プログラムコードをものすごい勢いで書き連ねていく。


 しかし、魔王はなぜ消えてしまったのだろうか。コードの書き間違えだろうか。確かに、魔王のプログラムはかなり複雑で、表情や行動パターン、セリフまで細かく設定されていた。何より、魔王の人格にはプレイヤーに対する意外性を持たせるために人工AIを載せており、型にはまらない自由なボスとしてプログラムされていた。それが悪さをしたのかもしれない。デバッグ作業は念入りに行ったはずだが、これだけ複雑なキャラだと見落としがあっても無理は無いか。


 和樹は少し落胆した。せっかく鈴木さんが自分を模したキャラを作ってくれたのに、消えてしまうとは。プログラムもかなり苦労して書き上げたのに、それも水の泡だ。


「さっさと終わらせて、三時間は寝よう。」


 和樹はそう呟き、その後は黙々と作業を続けた。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 一方そのころ、『ANOTHER WORLD』の世界の魔王城では、ルシファーが思案に耽っていた。


「魔王様はどこへ行かれてしまったのか。」


 魔王がいなくなった後、ルシファーは魔王城の周辺を部下にくまなく捜索させたが、魔王は見つからなかった。散歩とかではなく、家出としか考えられない状況だった。


「魔王様は我々をお見捨てになられたのだろうか。」


 と、その時、ベルフェゴールがルシファーの部屋に入ってきた。


「ルーシー、おつかれー。」

「その呼び方はやめてください。ベルフェゴール。」

「えー、いいじゃーん。お堅いなぁ。ねーねー、それよりさ、勇者に倒された時の一番かっこいい消滅の仕方って何だと思う?やっぱり、体を大の字にして『ぐわあーっ!』とかいいながら激しい閃光を放って消えていくのがいいかなあ?それとも、片膝をついて『くっ、無念・・・!』とか言いながら灰になってサーッと消えていくのがいいかなあ?」

「全く、魔王様がいなくなってしまったというのに、呑気なものだな。」

「魔王様なら大丈夫よ。きっと暇すぎて自ら勇者どもを屠りに行ったのよ。勇者どもを皆殺しにしたらまたきっとお帰りになられるわ。」

「そうだといいんですけどねぇ。」


 ピシッ!


 その時、異変が起きた。ルシファーとベルフェゴールの間の空間に亀裂が入り、そこから世界が歪みはじめた。


「何だ!何が起こっている?」


 そうルシファーが叫ぶと、二人の間の亀裂が開き、そこから何やら文字列が飛び出してきた。そして文字列は二人の頭の中に吸い込まれた。と同時に、空間の亀裂は閉じ、歪んだ世界が元通りになった。この世界の理が改変された瞬間であった。


 ルシファーは軽いめまいを感じたものの、すぐに治まった。


「今のは一体・・・。」


 ルシファーがそう呟いた瞬間、ベルフェゴールが急に跪き、ルシファーに言った。


「これは魔王様、私のご無礼をお許しください。私は魔王様の部屋に呼ばれた理由を失念してしまいました。何用でお呼びでしょうか。」


 ルシファーは呆然とした。状況が呑み込めなかった。


「お前・・・今私を魔王と呼んだか?」

「は、はい。何かおかしかったでしょうか?」


 いや、何もおかしくはない。()()記憶では、私は魔王だ。ほかの何者でもない。だが何か忘れているような・・・。


「クク・・・ククク・・・」


 ルシファーは笑った。


「ま、魔王様、私は何かおかしなことを申しましたでしょうか。」

「いや、お前は何もおかしくないよ、ベルフェゴール。そうだ、私こそが魔王だ!クハハハハ!」


 こうして、魔王サタンの記憶は抹消され、魔王ルシファーが誕生した。

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