執行と準備、とある世界の少女の怒り。
とりあえず、始めました。
稀代の連続殺人鬼にして死刑執行された連城冬彦は気づくと奇妙な場所に立っていた。地面は白く輝いているのに、壁も天井も墨を垂らしたように黒く、飲み込まれそうだった。そもそも、ここが屋内か屋外かさえ判別できなかった。
「地獄か」
「違います」
独り言に返ってきた答えに連城は振り向く。返答が聞こえた辺りも真っ黒だ。すると光が集まりだして人の形を取る。
「本来なら裁かれるべきですが、償いの機会を与えましょう」
虹色のベールに虹色のローブ、虹色の瞳に透き通るような白い肌。絵画で描かれるような美少女だ。
左手には抱えるようにして大きな本を持ち、右手には天秤を持っていた。いや、手のひらで浮かしているようだ。
「別にいらない」
即答する連城に目を丸くする少女。いや、見た目が若いが結構、もしかして、異世界式のアンチエイジングとかだろうか。
「推測しないで下さい」
叱責されるということはそういうことだろう。ここはそういう領域だ。
「とりあえず、あなたがどうしてここにいるのかを説明します」
連城は少女の説明を聞く。彼はこれから異世界に転生するらしく、建前として「勇者」なのだそうだ。
「俺が勇者ね」
「贖罪の気持ちがあれば、勇者として活躍していただこうとも考えていました」
そんな気持ちは微塵もない。少なくとも反省も後悔もしていない。だから、控訴が棄却されたのだが。
「ですので、好きにして結構です」
少女は諦め気味に言った。
「好きにね」
「えぇ、気の向くままに」
「いつも通りにか」
連城としては人助けをする気はない。殺した何人かが悪人だった時は、メディアはこぞって義賊みたいに取り上げたが、結果として彼が殺した人間はおおむね善良な人間だったためにこぞって非難したそうだ。
不意に、少女は連城に向けて手をかざす。
「人間が勝手きままに召喚を行うので、世界のバランスが崩れているのです。私は「管理者」として、彼らの横暴を止めねばなりません」
こうして連城にスキルが与えられることになった。
とりあえず、次回は未定です。