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三州安祥城合戦①

 今川方再出兵の動向を掴んだ織田方の動きは、織田三州自ら援軍の大将として織田三郎五郎を救援する積もりであったが急病の為、三弟の織田孫三郎信光を総大将、平手中務丞政秀を補佐に任じて、兵八千余りの援兵を安祥城へ送る事にした。


 また三月の安祥城合戦後に臣従してきた桜井松平内膳正清定の上野城と大給松平源次郎親乗の大給城への援軍は、林佐渡守秀貞と柴田土佐守勝義に兵千五百づつ率いさせて派遣した。


 しかし織田方の援軍が到着する前に、跡部越中守行忠が率いる武田勢は三河上野城を攻めて、御宿藤七郎が城門四つを突破し桜井松平氏を降伏させる戦功を上げるなどの働きによって、織田方の援軍は間に合わず、林佐州は急遽織田本隊の方へ合流を目指した。


 一方、柴田土州の方は大給城の方へ織田勢を近づくと、大給城を攻撃していた今川勢が織田勢に対して迎撃の構えを見せた。



「皆の者、今川勢はこちらへ矛先を変えてきた、ただちに今川勢と一戦を構えるぞ!!」


「オーッ!!!」



 戦意旺盛な織田勢千五百は、陣形を構えた今川勢兵三千に突撃を行い、(たちま)ち乱戦状態となった。



「織田勢の勢いに呑まれるな。 我々の方が数は多いので、織田勢を確実し仕留めれば、必ず勝てるぞ!!」



 大給城攻めを任された今川勢三千の大将飯尾豊前守乗連は、初陣迎えたばかりの嫡男善四郎致実(いいおむねざね)と叔父の飯尾善六郎為清、江馬加賀守時茂、江馬安芸守泰顕、垣塚右衛門郷友、松下石見守長則、松下加兵衛之綱、湯屋守三敏明、森川勘十郎充訓、内田左近丞安持に声をかけて、織田勢への攻勢に対応していた。



「殿、尾張勢は勢いあるが天下の弱兵。 迂回もせず正面から挑んだ事に後悔させてやりましょうぞ!!」



 重臣の江馬加州が大声を上げて今川勢を鼓舞すると江馬加州の声に呼応して、今川勢は(いさ)んで織田勢を正面から受け止めた。



 ガシャン!!  ドカッ!!  グサツ!!



 双方合わせて四千以上の将兵が槍や刀などを振り回して、ぶつかり合ってたので双方が消耗戦の状況に見舞われた。


 大給城を守ってた大給松平源次郎親乗は攻城戦が途切れて、今川勢が引いたと思ったら援軍の織田勢と合戦を始めたので、今川勢に横槍入れようと思ったが大給城の守兵達の死傷者が多くて出陣を諦めた。



「殿!! 御味方の織田勢は数が劣勢です。 何か我々も助太刀出来る事はないですか!?」



 大給松平家の分家筋に生まれた松平左衛門尉親清が、寡兵の織田方を何とか加勢出来ないかと、松平源次郎に進言する。



「左衛門尉よ、確実にやれるのか? 今、目の前で戦ってる今川勢以外にもここ三河には二万以上の今川勢がいるのだ。 ここで僅かしかいない大給城の城兵を使って、今川勢への横槍を入れたとして、再び今川勢が押し寄せた時はどうする気だ?」


「このまま籠城続けても、どの道降伏か全滅を迎える事になるでしょう。 ならばここは苦戦している味方の織田勢を支援すべく出陣しても良いと(それがし)は思います。」



 少しの時間、思案してやがて腹を(くく)って、松平左衛門尉に答えた。



「宜しい、ならばこの城に戻らぬ覚悟で全将兵に出撃を命ずる。 負傷した者達は、我が妻子がいる尾張品野城まで落ち延びよ。」


「ははっ、御意で御座います!!」



 陥落寸前の大給城から、死兵と化した三百余りの大給松平勢が決死の覚悟を持って、今川勢の側面を突くと動揺した今川勢は、そこで織田勢の突撃に押され始めてしまう。



「皆の者、命は惜しむな名を惜しめ!! 目指すは大将首ただ一つ!!」



 織田方の総大将柴田土州の嫡男柴田権六郎勝家が朱塗りの槍を手にして、自ら先陣を突き進んで今川勢大将飯尾豊州の首を狙って突き進んでいった。


 突き進んで行く柴田権六郎を慌てて捕捉し進路を塞いだ松下石州は、嫡男松下加兵衛と配下の郎党二百余りを連れて、柴田権六郎に挑んだ。



「そこの織田方の荒武者よ。 これ以上は我らを倒さねば、殿の御前に近寄る事は叶わずぞ!! 」



 松下家の郎党二百が長槍を前面に立てて、突破を行おうとしてた柴田権六郎の前に立ちふさがり、織田勢の攻勢を凌いで、数が多い今川勢の立て直す時間を稼ごうと必死だった。


 しかしのちに鬼柴田やかかれ柴田などの異名を持つ事になる柴田権六郎は、突き出してくる足軽達の長槍

 など物ともせず、石突きを巧みに使って長槍を弾き飛ばし、返す槍刃にて次々と足軽の喉を突いて殺していった。


 それを見た遠州一の槍名人と謳われてる嫡男松下加兵衛が、松下家の郎党を救うべく柴田権六郎の前に立ち塞がった。



「これ以上、我が家の郎党を殺らせはせぬぞ!!」



 朱塗りの槍をまともに受け止めた若武者に驚いた柴田権六郎は、配下の者達には今川勢の大将首を狙うようにと命じた後、松下加兵衛との討ち合いに臨んだ。



其方(そなた)、その若さで中々の武芸者であるのう。 まるで錦馬超のようじゃ!!」


「なんの鬼柴田こと柴田権六郎殿こそ、その若さで織田三州殿の重臣になられてる事は、この今川家にもよく伝わっておるぞ!!」


「ならば、我の槍を何時まで受け止める事が出来るか、その身体で試すが良い!!」



 柴田権六郎の力強い槍捌(やりさば)きを巧みに受け流す松下加兵衛は内心冷や汗を搔きながら、どうおーやって柴田権六郎を討ち取ろうか必死になって考えていた。



 《・・・・まずいな、技量は互角だが力の体力も鬼柴田の方が明らかに上回ってるな・・・・》



 松下加兵衛は五十合余り打ち合ったが、今後身につく力強さも耐久力も両方兼ね備えてる柴田権六郎にとても現状では勝つ見込みは無かった。


 しかしここで引き下がると大将飯尾豊州が討ち取られる公算が大なので、松下加兵衛は討ち死覚悟でここから一歩も下がらない事を決めた。

松下加兵衛之綱  前世の木下藤吉郎の最初の主君になるはずだった人。 調べると実は槍の使い手で、武芸者として名が知られてる事を知る。

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