四郎、大いに困る
猫有光江は、狩人の甚八郎に四郎宛の文を託して、高遠城へ到着したのは七月下旬だった。
光江達が北信濃へ出兵してから一ヵ月以上経つのだが、現在は栗原伊豆守信友からの要請で信越国境での探索方の任務を行ってるとの報告であったが、文を読んでいくにつれ四郎は難しい表情を浮かべながら、困惑していた。
『・・・・参ったな。 戦国の世に転生した俺は諏訪大明神の申し子などと持て囃されてるが、前世の知識の記録は使えるのだが、黒龍だの児雷也だの超常現象の使い手では無いんだよな。 まさか黒龍様の居所を神事で見つけれるのではないかと言う過大な期待を向けられてもな・・・・』
四郎としての本音は、そんな奇跡を起こす力など無いので無理だと言おうかどうか悩んでいた。
天利に大きな期待は何れ破綻すると考えてる四郎は、こんな超常現象が起こる戦国時代など前世の知識を持っていても対応する事は無理だと思っていた。
『・・・・これって、俺が前世の知識を披露して武田家へ肩入れした分だけ、他家とかでは超常現象で補ってるのではないか? そうなると俺が頑張っても呪詛や祟りなどで、状況を引っくり返させられるのではないか?』
四郎は、まさかこんな文が自分を悩ませるとは思ってもいなかったが、能々(よくよく)考えると四郎の傍には小笠原源与斎や原蹴煤など、その手の問題に得意としてる者達がいる事を思い出した。
早速四郎は、小笠原源与斎と原蹴煤夫婦を呼んで、光江から送られて来た文を見せて、黒姫山で起きた上杉方の間者と児雷也が起こした戦闘の事を説明して、綱手姫の父と言われる黒龍の消息を見つけて欲しいと言う依頼をどうするかと相談してみた。
「源与斎に原蹴煤よ、黒姫山に居られる綱手姫なる者から、諏訪大明神の申し子たる俺に黒龍様の居所を見つけて欲しいとの要望が届いた。 本来ならば、この話に乗っかる義理も無いのだが、黒姫山の綱手姫一行が上杉方と諍いが発生させたとの事と、綱手姫の血筋がどうやら高梨摂津守政頼殿の姪との知らせが入った。 もしこの話を断るような事があれば、上杉方としては武田家と高梨家との楔を打つ事に利用するかもしれぬ。 そのような事態は看過出来ぬので、俺は其方達と共に対応する事に考えたのだ。」
三人其々(それぞれ)、四郎から聞いた話の反応は様々であった。
「四郎様、まず始めに黒龍様がどこに行ったのか、各地での大嵐の痕跡を辿る事で追う事は可能です。 しかし現状は、この戦国の世に他国の領内で聞き取りなどの行動を行ってたら、間者として捕らえられるでしょう。 また各地の土地へ多くの人を送らないと情報集めにも時間がかかり過ぎまする。」
源与斎は、現状黒龍への探索は難しいとの考えを示した。 一方原蹴煤と林姑娘夫婦は、この日ノ本にドラゴンが居る事に驚きそして大いに喜んだ。
「シロウサマ、ヒノモトニハドラゴンガソンザイシテイルノデスカ? モシドラゴンヲトラエテウロコヤチナドヲテニイレレタラ、イロンナヤクヒンヲツクレマス。」
「貴方!! 神聖な竜を傷つけて鱗や血などを採取するなんて、以ての外ですよ!! 私の故郷明帝国では、竜は皇帝が天下を治める事を示す瑞獣なのです。 この日ノ本に竜が居るのでしたら、その竜の加護を得た者は日ノ本の皇帝になれるのかもしれません!!」
「イヤイヤ、ドラゴンハジャアクナモノトシテ、ヨーロッパデハタイジシナケレバイケナイモノトシテニンシキサレテイマス。 ビジョヲイケニエニシテキヲヒイテメアイダニナイトタチガ、ドラゴンノキュウショヲサシテタオスコトデ、ドラゴンスレイヤートシテホメタタエラレルノデス。」
なんか原蹴煤夫妻は龍に対してのお互いの認識の違いにより、夫婦喧嘩に陥っているようだった。 その隣で、淡々と竜に対しての話を行うのが源与斎であった。
「四郎様、この黒龍様を探索する話はすぐに行える事ではありませぬし、それなりの専門家を集めて知恵を出し合う必要もありましょう。 それにその綱手姫様や児雷也殿の話では四郎様の御力を期待しているようですが、四郎様は未だ幼き童子でありますから、黒姫山訪問や黒龍様の探索などは行う事は不可能です。 この任を行える代理者を探し求めて、四郎様は高遠の地で采配を振るのはどうでしょうか?」
源与斎が無難な進言をしてくれたので、四郎も前世の記憶の中に戦国時代に超常現象に強い人材が、どこかに埋没していないか、脳味噌をフル回転させて誰かいないかと探してみた。
『・・・・居た、代理人に仕立てあげれそうな者を見つけたぞ。 まさか近くに居ようとは思わなかった。 早速、源与斎に話して高遠に連れてきてもらうか・・・・』
四郎は、まだ実在するかどうか不安だがもし居るのならば、その者を黒龍様探索へ使おうと考えた。
「源与斎よ、ある者の情報を調べて、その者が黒龍様適任者だと思うならば、高遠城へ連れてきて欲しい。」
「はっ、どのような者でしょうか?」
四郎が何か思いついた感じがしたので、源与斎も話に耳を傾けた。
「信州佐久郡に暮らしている小泉小太郎なる若者を高遠へ連れて来てもらいたい。 その者ならば、おそらく黒龍様と同じ龍の血を引いた人間だろう。 だからこの探索の任を依頼しようかと思う。」
四郎が言い出した事に、何らかな意味がある事を知ってる源与斎は早速その話を受け入れて、すぐに小泉小太郎の居る佐久郡へ迎いに行く事となった。




