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新事業打ち合わせ

 四郎達が皆引き上げた後、謁見の間に残された萱野惣郷の桐原九紋次ら三人と片切二郎右衛門は、少し待たされた後に今回の新事業を行う担当者井深茂右衛門重吉と小鈴谷久左衛門が入ってきたので、再び緊張感に包まれた。


 お互い今回が初対面なのだが、この新事業の指導者となる井深茂右衛門、小鈴谷久左衛門と桐原九紋次達とでは責任を負う度合いが違うので、井深茂右衛門達が感じてる圧迫感は相当な物だった。



「初めまして(それがし)は、この新事業の責任者に任命された井深茂右衛門重吉と申す。 此度(こたび)高遠四郎様の直臣となり、この新事業推進の御役目を仰せつかった。 この新事業は、我々と其方(そなた)達萱野惣郷のお互いの協力を無くしては務まらぬ事業なので、其方(そなた)達が萱野惣郷に戻る際、一緒に同行して現場を確認しようと思う。」



 井深茂右衛門は最初の挨拶で語ると、続いて小鈴谷久左衛門が話始めた。



「初めまして拙者は、小鈴谷久左衛門と申します。 今回の大事業を井深殿と一緒に全体を監督するように四郎様から御命じられた者で御座るが、拙者は元々尾張常滑にて造り酒屋を稼業としておる庄屋の出身であります。 拙者が四郎様から望まれている事は醸造や発酵などの技術を活かした生産品を望まれている事ですが、決して萱野惣郷との連携や調整を(おろそ)かにする積もりはありませぬので、お互い膝を突いてよく話し合って決めましょう。」



 次に話してきたのは、片切二郎右衛門だった。



「初めまして井深茂右衛門殿、小鈴谷久左衛門殿、(それがし)は片切二郎右衛門と申します。 拙者は四郎様より、萱野惣郷の新事業の経過を報告する目付役として(おお)(つかまつ)りました。 四郎様が滅多に新事業を行う萱野惣郷に視察に来れない代わりに拙者が御報告させてもらいますので、どうか宜しくお願いします。」



 次は、萱野惣郷の名主桐原九紋次が紹介し始めた。



「井深様、小鈴谷様、片切様、私は萱野惣郷の名主をやらせていただいております桐原九紋次と申します。 そしてこちらに連れてきた二人は(ぼく)を営んでます(うまや)弁蔵(べんぞう)馬喰(ばくろう)の四之助でございます。 我々の惣郷は牛馬を生産するしか収入が無い惣郷ですので、新作物を作るのには一から学ばないといけませんので、井深様達には大変迷惑をかけると思いますが、どうか御容赦御願いします。」



 そういうと三人は一斉に平伏して、井深達の言葉を待ってたので、井深茂右衛門は今後の説明を始めた。



「あい承知した。 我々も南蛮渡来の作物の育成など初めてであるが、四郎様は新作物に関して日ノ本の百姓の持つ知識とは違う手法で生産する事になるだろうと言われ、ここにある新作物指南書を渡された。 この指南書によると連続して同じ場所に同じ作物を植えないとか数年に一度牛馬の餌になる白詰草なる植物の種子を撒けだの書かれておる。 我々は書かれた文献の効果がどれ位なのかを調べて、新作物の生産に適正な状態を記録して報告しなければならない。 その為、明日以降萱野惣郷へ向かい、新事業振興政策の政務所を普請し、六月初旬には事業始めを行おうと考えておる。」



 続いて小鈴谷久左衛門が話す。



(それがし)は井深殿を補佐しつつ、すぐには出来ない醸造所の普請を行おうと思います。 その為には九紋次殿に清涼な水が大量に手に入る土地を探してもらおうと思います。 四郎様からは酒、味噌、醤油などを製造して、さらに新作物を使った新しい薬の研究も行うそうですので、今後薬品を扱う者達を増やす予定です。 その為外部との接触を断って、この萱野惣郷からも学門を学ぶ者達を出す必要があります。」



 それを聞いた九紋次等は吃驚(びっくり)した。



「我々の惣郷は小さくて人口も百人ほど、色々事業に人が取られ過ぎて足りませぬぞ。」


「新作物の生産の方は、牛馬を農耕に使ったり新式農機具を使う事によって人手は減らせますし、体力の要らない学問の方は、女子供も積極的に学ばせます。 そして新式薬品の製造にも女子供にも参加させて、皆が働ける環境と考えております。」



 小鈴谷久左衛門は、今いる惣郷の者達は総動員して、なるべく外部の人を使わない方法を考えていることを皆に伝えると、女子供も使うのかと想定外の言葉に驚いていた。



「どちらにしろ三~四年は、新作物の生産方法の確立と種子の増産が目標なので、萱野惣郷の者達はそれ程忙しくはならないだろう。 むしろ当分は施設の普請や現状の牛馬の生産から利益を出す方法を研究する事も大事となるだろう。 また四郎様からは雇ってる南蛮人の為に色々とやって欲しい事が沢山あると言われてるので、それらの事もやる事になるだろう。」



 井深茂右衛門は(しばら)くは、甜菜や馬鈴薯や甘藷の種子が僅かしかないので、数を増やす事を主にやらないといけないのと、作物の為に土壌改良するのに堆肥作りや消石灰の確保などを進めたり、醸造施設の普請や四郎が求めてる干し葡萄を生産する為、一部は葡萄園を作るなど忙しかった。


 さらに四郎は元造り酒屋の出である小鈴谷茂右衛門に高遠城城下町に酒蔵所の出店許可を出して、尾張常滑の実家で高遠で新たに商売をする気がある者達、また常滑で常滑焼を行っていて、新たに工房を持ちたい職人達にも移住を奨励した。


 しかし城下に移住した者達にも萱野惣郷で行われている新事業の内容は秘密にされており、移住者達には自分の仕事の領分以外は解らぬように分散作業をなるように仕分けしていた。


 また萱野惣郷の人口を増やす事は急務なので、萱野惣郷の独身男性や女性を必ず(めあわ)せ、多産を奨励した。


 その為、四郎は萱野惣郷内の医療向上に力を入れて、永田徳本に相談し常時医者を滞在させるなど萱野惣郷の医療には気を使っていた。


 徳本先生には、以前話した新型薬品の製造の為に医者の派遣を要請したら、六月中旬にすぐに送ってきた。


 その際徳本先生も高遠城に訪問して、そこで初めて南蛮人の原蹴煤(パラケルスス)と会い、二人は意気投合して、原蹴煤(パラケルスス)妻林姑娘(りんこじょう)を介して、様々な医学話に夢中になっていた。


 また四郎が母香姫の労咳を早く治療したいが為に、西洋医学の身に付けた原蹴煤(パラケルスス)や漢方医の権威永田徳本が持ってない知識を二人に少しづつ伝える事に決めて、母上が亡くなる前に抗生物質の製造を望むようになった。


 しかし四郎の実地経験無い知識を披露する事だけで、薬など簡単に完成する訳ではないので、本当に上手く行くのか怪しいところであった。



干し葡萄からは、パンを作るのに必要な酵母菌の生産に使います。 また酵母菌を使って麦酒を作り、他にもウイスキー作る為に蒸留器が必要に繋がります。

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