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麺麭(パン)と乳製品

久々の四郎です。

 四月に入って木下藤吉郎が元服を行いすぐに尾張の中村惣郷に向かった後、高遠四郎は今年の農作業が始まる頃に合わせて、原蹴煤(パラケルスス)が持ち込んだ作物の種子を栽培できるかどうかの実験を新たな惣郷を選んで行う事に決めた。


 原蹴煤(パラケルスス)は一早く研究を行いたかったのだが、日ノ本での食生活が肉や乳製品の少なさに身体の方が徐々に参っており、肉の方は猪や鹿などの肉を分けてもらって補っていたが牛乳以外の乳製品が全く無いため、それを知った四郎は原蹴煤(パラケルスス)を呼び出して、乳製品を作れないか原蹴煤(パラケルスス)に聞いてみた。



原蹴煤(パラケルスス)殿よ。 其方達(そなたたち)は日ノ本に来て数ヶ月経たれておられて、食生活に馴染まれておられぬと言う話を耳にした。 特に主力の麺麭(パン)と言う名の食品と牛乳から作られた乳製品が欲していると耳にしたが(まこと)であろうか?」


「マコトデゴザイマス。シカシパンヲツクルニハ、パンガマトシゼンノイーストヲツクルヒツヨウアリマス。」


(まこと)で御座います。しかし麺麭(パン)作るには、様々な準備が必要であり、まずは夫が言う麺麭(パン)窯とイーストなる物を先に創り出して用意しなければなりませぬ。」


原蹴煤(パラケルスス)林姑娘(りんこじょう)よ。 其方達(そなたたち)が日ノ本の者達へ作り方を指導出来るのか?」


「ツマナラバ、ワタシトチガイリョウリノシドウガデキルトオモイマス。」


「夫は私に出来ると言っておりますが、何も無き状態から作り出すのは、四郎様の協力が必要です。」


「ならば原蹴煤(パラケルスス)殿が、ここ高遠で心地良く生活できるように協力しようではないか。」


「アリガトウゴザイマス。ナラバパンガマツクリト、イーストツクリヲオネガイシタイデス。 アトギュウニュウカラノチーズ、バター、ヨーグルトナドヲツクレルヨウニシタイデス。」


「あい分かった。 ならば原蹴煤(パラケルスス)殿には使用人と数頭の牝牛を手配しようではないか。 そしてその使用人や高遠城の料理人に麺麭(パン)や乳製品の作り方など教えてやってほしい。」


「分かりました四郎様。 まずは生活を安定させる為、夫や子供達と一緒に麺麭(パン)や乳製品の作り方を確定させますので、四郎様には麺麭(パン)窯を御頼み申し上げます。」



 こうして原蹴煤(パラケルスス)夫妻と話終えた四郎は、早速高遠城下の石工職人達を呼び出して、耐火煉瓦や消石灰窯で焼いて砕いたセメントと砂を混ぜ合わせてた漆喰(モルタル)を材料に使った麺麭(パン)窯を城下にある原蹴煤(パラケルスス)の屋敷の中に作らせた。



 四郎が数日後、原蹴煤(パラケルスス)の屋敷内に石工職人達が作った耐火煉瓦製の麺麭(パン)窯は、試しに林姑娘(りんこじょう)が小麦粉を練って作ったクッキーを焼いてみたところ、無事クッキーが焼けたので、麺麭(パン)窯の方は問題なく使える事が分かった。


 次に用意するのはイースト(酵母)の方だが、これは林姑娘が甲州の干し葡萄を使ってイーストを創り上げたので、四郎はこれらの食材を作る使用人の人選を行う事にした。


 まず最初に原蹴煤(パラケルスス)の屋敷で住み込みで調理する者を募集したところ、高遠家に臣従している国人衆達の跡継ぎではない庶家の者達が希望してきた。


 四郎は集まった者達に仕事の内容を伝えて、原蹴煤(パラケルスス)の屋敷では調理人や使用人みたいな仕事だと伝えたら、(たちま)ち皆が辞退してしまった為、改めて今度は城下で働いてる領民や流民の中から屋敷の使用人や料理人を探して、十人余りの者達を原蹴煤(パラケルスス)の元へ送った。


 十人余りの使用人の中で、原蹴煤(パラケルスス)屋敷を(まと)めれる家令として、下毛から流れてきた浪人の瀬蓮刑部少輔知安が博識ある者として十人の代表に選ばれた。


 また屋敷の料理人は鰐屋冬仙と言う元山内上杉家に仕えていた包丁番で、上杉兵部少輔憲政が常陸佐竹家へ逃走した後浪人となり信州諏訪で、生活の為に屋台を出していた時に募集の話を聞いて、高遠にやってきた。


 他にも元小笠原家に親が仕えてた娘お麻や信州伊那郡の名主の娘お豊、信州諏訪の木工職人の娘お富などが屋敷の侍女として雇われ、使用人も元流民の千吉、武兵衛、八郎彦、熊千代、次郎助などを雇用した。


 四郎は原蹴煤(バラケルスス)一家に新鮮な牛乳を飲んで貰いたくて、屋敷の敷地内に牛小屋を作り妊娠してたり出産した直後の牝牛五頭を牛小屋に飼わせて、使用人五人に牛の扱い方や牛乳の搾り方などを林姑娘(りんこじょう)から教わって、四郎は将来的にはこの五人に酪農を覚えさせる積もりであった。


 林姑娘(りんこじょう)は、五頭の牛から出す牛乳で飲みきれない物は乳製品にするので、四郎に頼んで手動式の撹拌器(かくはんき)を作ってもらい、その撹拌機(かくはんき)を使ってバターとかを作り出した。


 また四郎は河原者頭の山王原弾太郎左衛門に頼んで、屠殺した老牛の胃袋を譲ってもらい、その胃液を集めて林姑娘(りんこじょう)に渡して、使用人の五人に乾酪(チーズ)の作り方を教えた。


 原蹴煤(パラケルスス)が連れてきた養子達は、最近は屋敷の中で働く者達に興味を持ち、バター作りや乾酪(チーズ)作りを使用人達がやってるのを見て、一緒にやらしてくれとせがんでいるのも度々(たびたび)見られた。


 一方、原蹴煤(パラケルスス)の方は麺麭(パン)を作る為に、一々(いちいち)石臼で小麦やライ麦を引くのは大変なので、原蹴煤(パラケルスス)の故郷では水車で粉を引く事をやってたと四郎に伝えて、近隣の川に水車小屋を作ってもらい、そこで様々な穀物を粉末にする事をやり始めた。


 こうして五月末頃には、自分達で麺麭(パン)とバターを作るようになり、さらに四郎が今家畜として猪や鹿を飼って安定的に食肉を増やそうとしている為、猪肉などは手に入る度に原蹴煤(パラケルスス)の屋敷を送ってやった。


 後は、鶏を飼って卵を手に入れて、安定的に卵を食事に出せるのはまだまだ先であった。



 

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