表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/155

同行者

 柳生新次郎宗厳が服部党へ主君木下藤吉郎への紹介の文を書き終えた後、藤吉郎から命じられた任務を(こな)す為に服部党と別れようとしたら、服部党頭領の服部半三正種が新次郎に文を書いてくれた御礼に今川領内での道案内を同行させると言い出した。


 今川とは敵対している訳ではないが、木下家に出仕したばかりである新次郎としては、余計な騒動を避けると言う事でも今川領内の道中に詳しい者がいるのならば、大変助かるので服部半三からの申し出は(こころよ)く受け入れた。



「服部半三殿、此度(こたび)今川領内での道案内を付けてくれるのは大変助かります。 拙者は生まれて()の方、不破の関より東国へ向かうのは人生初めてでござるので、同行者を付けてくれる事に大変感謝致します。」


「ならば柳生殿、人選を致すので暫しお待ちくだされ。」



 服部半三は新次郎の前から去り、次に服部半三が姿を現したのは、翌日の早朝であった。



「柳生殿、待たせて済まなかった。 其方(そなた)の旅の目的を(かんが)みると、他者からなるべく警戒されないような者を選んだ。 小屋の外に待たせたので、その者が東海道の案内を行うから遠慮なくその者を使ってくだされ。」


「服部殿、本当は感謝致す。 この御恩は拙者が藤吉郎に服部党の事を口添えに尽力致す。」



 新次郎が服部半三に感謝した後に去って行った為、小屋の外に出ると旅装束の恰好した若い娘が入り口に立っていた。



「初めまして、私は木葉(このは)と言います。 私は日頃から薬師としての生業で東海道をよく行き来しますので、柳生様が望まれてる海たわしなる物を入手する手伝いが出来るかと思います。」


「拙者は柳生新次郎宗厳で御座る。 服部殿から道案内を同行させると言っておったが、其方(そなた)の様な娘が拙者を案内するのか?」


「その通りでございます。 私は普段から薬草を求めたり、商人と取引して薬の調合を行っていますので、柳生殿が求められてる海たわしなる物も私が漁師に頼めば、手に入れれるかもしれません。」


「なるほど、海の物で薬の材料次いでに探してもらうと言う事か?」


「その通りでございます。」


「ならば、まずはこの岡崎周辺から離れよう。 遠江の方が治安とか安全ならば、そこの漁師に依頼したいのだが、木葉(このは)としてはどう思う?」


「薬の材料を集めてる私が考えるに、海ならばどこでもある訳ではありませぬ。 おそらく海たわしなる物が海の生物なのか海藻なのか判明していないので、その辺りから海に詳しき者から聞く必要があるでしょう。」


「そう言う事ならば、まずは海へ向かおう。 治安が良いと思われる遠江や駿河などを考えていたが、もし三河の海にしかなくて、見逃してしまったらば手間がかかり過ぎる。 ここは多少危険があっても海岸沿いに地元の漁師に聞き取りながら進むしかないな。」



 新次郎はそう言うと木葉(このは)を伴って、三河の漁村を目指して旅立って行く事にした。



 ____________________________________________________________



 尾張中村惣郷から木下藤吉郎一行は、美濃まで北上してそこから木曽路へ向かう中山道の方に向かって進んでる最中だった。


 柳生新次郎の一人旅に比べると歩みはまさしく亀の様であり、未だ美濃国内の半分も進んでない有様だった。


 そんな歩みの中で、木下藤吉郎の弟小竹と妹の(あさひ)は、生まれて初めて故郷中村惣郷を離れて信州への旅に浮かれており、従兄弟の杉原七郎左衛門や杉原源七郎に色々と質問攻めを行っていた。



「ねーねー、七郎左衛門さん。 尾張から信州高遠って何日ぐらいで到着するの?」


「この速度ならば十日から二週間余りかかるんじゃないか?」


「ねーねー、源七郎さん。 高遠って所に行商行った事あるかな?」


「あるぞ。 一昔前は、それ程豊かな町ではなかったが殿様変わってから新しい産業が始まって、そこで作られたりする商品を目当てに来る商人増えてな。 俺が尾張から持って行った木綿の糸も高遠が豊かになってきたせいか飛ぶように売れたな。」


「つまり領民達に購買意欲が現れ始めだな。 四郎様が領民の生活を楽にする知恵を出してくれるので、おいら達もこれから四郎様の手伝いを行うんだぞ。」



 横から話を聞いていた藤吉郎が雑談に口を挟み武田家全体が富を作り出そうと意欲が増してきてる事を行商をやってた七郎左衛門と源七郎に暗に伝えてやった。



「なあ藤吉郎よ、我々は行商人と鍛冶屋と木工職人の集まりで、(いくさ)とは無縁だ。その俺達が四郎様の御役に立てるのか?」



 福島市兵衛が自分の中にある不安を吐露して、藤吉郎に大丈夫かと聞いてきた。



「心配するな。 四郎様はおいらに知行と屋敷を与えてたんだ。 只の百姓の子を元服させて知行をくれる殿様て、どこにもいないぞ。」



 藤吉郎から、その様な話を聞いて元気を貰っていた時、後方から馬が一頭駆けて来るのが見えたので、狭い道を藤吉郎太達の荷馬車が道を遮るような形になってる為、もしどこかの早馬が伝令として駆けてるのならば不味い事になると藤吉郎は思った。



「おーい、みんな。どこかの早馬接近きたので、荷馬車を(はし)っこに寄せろ。」



 藤吉郎達の荷馬車は(はし)に寄ろうとすると、駆けて来た騎馬の者が大声で藤吉郎達に叫んできた。



「そこの者達よ、もしかして武田家中の木下吉郎殿の一行では在りませぬか!?」


如何(いか)にも、拙者が木下藤吉郎で御座る。 して拙者にどの様な要件がありまするか?」


「拙者は服部党の文次郎と申します。 ここに三河で我等と知り合った柳生新次郎宗厳殿から頼まれた文を木下殿に御渡ししたい。」



 藤吉郎は柳生新次郎からの文を受け取り、すぐに読むと何故服部党の者がここにいる事が解った。



「文次郎殿、文の内容を読んでみたが三河の服部党が我等の推薦で武田家に仕えたいと書かれてるに見受けられるが、其方(そなた)達の期待に四郎様に仕えたばかりの拙者などは答えられぬと思うぞ。」


「ならばせめて口添えとも我々が高遠四郎様への面会の機会をお与えください。」


「会うのか会わないのかは、拙者は決められぬ。 ただ先に四郎様への文を送り四郎様の判断を仰ぐ言う事はやってやれるかもしれん。」



 藤吉郎が今出来る範囲の事を伝えると文次郎それで良いと同意して、木下藤吉郎の文も持った文次郎は、再び信州へ向かって馬で駆けて行った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ