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服部半三正種

 服部党頭領の服部半三正種は狭い土地である伊賀での困窮から脱出する為、永正年間に一族を連れて室町幕府第十二代将軍足利義晴に仕えた。


 しかしその頃の室町幕府は応仁の乱以降衰退しており、程なくして見切りをつけた服部半三は三河を統一したばかりの松平清康に仕えるようになった。


 しかし仕えてから数年後に尾張に攻め入ってた清康は尾張守山城を攻めてる最中(さなか)に家臣の阿部弥七郎正豊に斬られて即死してしまう。


 これにより主君を失った服部党であったが三河を離れようとした所、主君を殺した阿倍七郎の父阿倍大蔵定吉の懸命な働きにより、嫡子松平次郎三郎広忠は命を救われ伊勢に一旦逃れるのに護衛として服部党を命じた。


 伊勢に逃れた松平次郎三郎広忠は、幾度か三河に復帰を果たそてのとしたが失敗するのだが、駿河の今川治部大輔義元からの後援によって、三河岡崎城へ復帰を果たした。


 その岡崎城復帰の見返りに嫡男竹千代を駿府に送る途中に、今度は竹千代が戸田弾正少弼康光の裏切りにより、尾張へ竹千代が連れ去られてしまう。


 その結果、戸田家は今川勢の大軍に滅ぼされてしまうが、この誘拐により松平家の諸将に服部党の忍びとしての実力に疑いの声が出始めた。


 さらに服部党として不幸な事は、竹千代誘拐された二年後に今度は主君松平次郎三郎広忠が、松平権兵衛重弘の反乱鎮圧に出陣した時、岩松八弥に刺殺されてしまう。


 これにより、服部党が要人護衛の任に相応しくないと疑念が家中に広まると服部党として、三河に居場所が無くなってしまった。


 服部半三正種としては、自分達の落ち度で起きた事件であれば責任を取る覚悟なのだが、主君清康や広忠の斬殺は本陣で起きた事で、身近にいた近侍達の領分であったので、責められる立場ではなかった。


 また竹千代の誘拐に関しても親族の戸田弾正少弼の裏切りによって起きた事であり、服部党として護衛の任務すら命じられていなかった。


 三河での居場所を失いつつあった服部党は、主だった者を集めて服部党の行く末の相談を行った。



「半三様、三河での我々の評判は、どうやら松平家への禍成(わざわいな)(やから)との認識されつつあります。 特に青山藤右衛門忠門などは、得体のしれない伊賀者を重用する事まかりならんと言って、我々を邪険に扱う始末。」



 服部党の中で腕利きと家中で言われてる新堂小太郎が、松平家での扱いに憤懣やるせないと言わんばかりに話すので、山田八右衛門が新堂小太郎を(なだ)めた。



「小太郎よ、ここで怒っても仕方ない。 我らの窮状を松平家に属したままで、改善出来なければこの地を去るしかない。」


「して頭領よ。どうやって他家との伝手を作るのだ? どこの家もいきなり接触を図れば警戒されて、(たちま)ち謀略じゃないかと疑念もかけてくるだろう。」



 笹蟹太郎四郎が他家への伝手をどう作るのか問いてきたのでは、服部半三は甲賀の望月家との繋がりを使う事を示唆した。



「望月家は昔から交流があったので、その伝手が良いと思う。 しかしそれにしてもいきなり連絡を取るのは不審がるだろうから、何か手段を講じよう。」



「ならば父上、拙者が甲賀へ向かい望月家から武田家への紹介状を受け取ってしょうか?」



 服部半三の嫡男服部次右衛門保元が、自ら動いて武田家への繋がりを持とうと提案きたので、服部半三の者達もその提案に賛同した。



「治右衛門兄上が甲賀に向かうのならば、拙者は信州の望月本家に向かう事はなりませぬか?」



 次男の市平保俊も自分も是非行かせて欲しいと言い出して、皆に許可を求めた。



「武田領に入るならば、武田家の忍びに見つからぬように行くしかないな。 今川の属国の松平家が独断で武田家臣に接触を望む事は、下手すると武田家から今川家に確認の使者が送られるしれない。」



 笹蟹太郎四郎が再び懸念を申すと《大鼠》言われる神谷権六が自ら信州の望月家への使者に立候補した。



「ここは忍び名人の俺がいくのが良かろう。 信州の山林など獣道を使って入るは得意だし武田の三ツ目衆ならば、俺の名前を知っていよう。」 



 その様な談合を進めている最中に矢作川を渡し船に乗って、岡崎方面に向かう一人の若侍

 いる事を下忍の紺太夫が服部半三の元に知らせてきた。



「頭領、矢作川を越えて岡崎方面にやってくる一人の武士がいます。 身形は堂々としていて武芸者の様であります。 町の中で旅籠を求めていたみたいで、河原者に扮した別の下忍によればその者は柳生の里からやって来て、最近信州高遠家家臣木下吉郎に出仕したばかりと言ってました。」



 その者の話を聞いた頭領はぴくりと反応し、紺太夫に確認した。



「その下忍は、柳生の者だと何を証拠に確認したのだ?」


「柳生の者は、腰に薬籠(やくろう)を付けておりました。 その薬籠(やくろう)の造りは兵法が盛んな柳生の里の自家製の金創薬を入れる器として良く知られております。」


「なるほどな、その柳生の者が高遠家に仕えてる木下藤吉郎なる武士の陪臣になったと言うのなれば、主家は甲斐武田家のはず。 近年武田大膳大夫晴信の四男が高遠家を継いでから、武田家の勢いが盛んになったと時折耳に入ってたが、おそらく当主晴信を始め優れた家臣団の統治が上手くいってるのだろう。」



 さっきまで青山藤右衛門に対して怒ってた新堂小太郎が、武田家に関して聞いた噂を一つ話始めた。



「頭領、武田家の事で耳にした事があるのですが、近年武田家では独自にやり始めた新式農業が上手くいっており作物の収穫量が増えたとか、山など稲作に適していない土地を利用した作物を作ってみた所、その作物が沢山収穫出来て、飢饉対策に貯蔵庫に蓄えてるだの聞いた事があります。」


「そして人手が足りない為。近隣から流れてきた流民や河原者や山家者を雇用してるので、その噂を聞いた近隣の領民が武田領に流れて行ってると聞きました。」



 それを聞いた服部半三は、その柳生の者をしばらく交代で監視して、折を見て自らが話を聞くという事に決めて(しば)し様子見をする事にした。



 ____________________________________________________________




 柳生新次郎宗厳に服部半三が服部党の置かれてる事情を話すと、伊賀も耕作地が少なく困窮している領民が離れている事を知ってたので、服部半三の語った境遇に力を貸したくなっていたが、新次郎自身まだ木下家に雇われて一ヶ月も経っておらず甲斐武田家の事になど、とても口出せる立場ではないので拒否しようかと思案していた。


 しかし自分もある意味武田家や木下藤吉郎を頼って仕官した者で、一歩間違えば服部党と同じ立場なのだと考えると無碍(むげ)に断る心情にもなれなかった。



「服部党の置かれている立場は判ったでござる。 しかしこの戦国の世、各地で戦乱や飢饉が起こり数多(あまた)の者達が同じ様に苦しんでる。かく言う拙者もく木下家に仕官して、一ヶ月も経っていないので、物言う立場でもないのだ。」


「新次郎殿の考えは判り申した。 本当に御迷惑をかけてしまって、失礼仕りました。」



 服部半三が、柳生新次郎に謝罪して立ち去ろうとしようとした時、新次郎は服部半三を引き留めた。



「服部党の者よ、まだ話がある。 もしも武田家に貢献出来る手柄を手土産に仕官を望めば、出仕が許されるかもしれん。」


「それはまず我々を何方(どなた)かが推薦すると言う事ですか?」


「その通りであります。 拙者は木下藤吉郎様の陪臣。 その木下藤吉郎様も高遠四郎様から知行三十貫給(たま)わる家臣でございます。 拙者が事の次第の文を藤吉郎様宛に書きますので、これを持って藤吉郎様に面会してください。 その後は藤吉郎様の名を持って、高遠四郎様へ推薦して貰うのです。」



 それを聞いた服部半三は、やっと一筋の光が見えたと思い笑みを浮かべた後、新次郎に自己紹介をしていなかった事を謝罪した。



「ここまで我々に尽力してくれる事、一生御恩を忘れませぬ。 失礼仕(しつれいつかまつ)りましたが拙者の名を伝え忘れてましたが、拙者服部党の頭領服部半三正種で御座る。」


「こちらこそ、若輩なのに名も名乗らず話を進めて失礼仕(しつれいつかまつ)りました。。 拙者は木下家家臣柳生新次郎宗厳でござる。」



 お互い挨拶を交わした後、新次郎は藤吉郎へ服部党の事情と自分の考えを書き込んだ文を書いて、それを服部半三へ渡し、藤吉郎一行は現在美濃辺りを進んでいるので、そこに行って文を渡すようにと伝えた。

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