藤吉郎と犬千代
木下藤吉郎がお静伯母さんの家を出て中村惣郷の実家に戻る途中、派手な女物の着物を着た六尺もある若侍が街道の茶屋で先に休憩してるを見て、一廉の人物と感じとって藤吉郎の方から若侍に話かけた。
「拙者は木下藤吉郎と言って信州高遠家に仕える者なのだが、お主の様な大層立派な武者に驚いて、思わず話かけてしまった。 興味本位で声をかけてしまった故、気分を害したなら許されよ。」
「拙者は織田弾正忠家にて、織田三郎信長様の小姓を務めている前田犬千代と言う。 あんた俺より幼く見えるがもう元服しているのか、とても羨ましいぞ。」
どうやら小柄な藤吉郎を見て、童子みたいな外見だから幼名を名乗ったから、犬千代の方も驚いたみたいだった。
「失礼ですが犬千代殿は、歳はいくつでおられるか? 拙者は天文六年(1537年)生まれですぞ。」
藤吉郎を童子だと思い込んでると見抜かれた犬千代は、照れながらも自分の歳を答えた。
「藤吉郎殿に失礼した。 拙者も藤吉郎殿と同じく天文六年生まれですので、同い年でござる。」
同い年と聞いた藤吉郎は、大袈裟に驚いてみせて、そして大喜びしてやった。
「大変奇遇ですな!! 拙者と犬千代殿が同い年で、何か運命を感じまする!!」
「運命か・・・ 普段ならばそう言われて嬉しいのですが、此度三郎様と鷹狩りの最中に拙者の馬は、この大きな身体に耐え切れず潰してしまったのだ。 それで三郎様から馬を労りながら乗るこ事が出来ない粗忽者と叱られて、先に帰城されてしまったのだ。」
何故か今日初めて会った藤吉郎に思わず話してたら、藤吉郎が突然大声を上げた。
「なめほど、これは諏訪大明神四郎様からの御導きですな!! 犬千代殿よ、其方の身体を支えれる馬は拙者が持ってる。 ここで出会ったのは何かの縁だ、中村惣郷に置いてる拙者の馬を進呈しようじゃないかっ!!」
それを聞いた犬千代は大変驚いた。と言うより、藤吉郎が言う話は詐欺か若しくは只の大うつけだと感じたからだ。
「おっおい、藤吉郎殿よ、そんな旨い話などあるか? お前さん、季節外れの春の日差しで頭おかしくなったんじゃね?」
それを聞いた藤吉郎は冷静に答えた。
「荒子の犬千代さんと言えば、拙者の祖父が大変御世話になっとるぞ。 今あんたが持ってる三間半の朱槍の製作者は、拙者の祖父関与五郎兼員だ。」
藤吉郎は目敏く祖父関与五郎が入れた印字を見つけて、それを見て犬千代との接点を見つけて口八丁で、犬千代との会話の糸口を切り開いた。
「なんと!! 尾州一の鍛冶とも呼ばれてる関与五郎殿の御孫で御座ったのか!!」
「そうとも、犬千代殿の話は時折耳にした事ある。人々が尾州一の大武辺者だと。」
「藤吉郎殿、それは持ち上げ過ぎろうぞ。しかし藤吉郎殿から馬を借りてまで、三郎様の前に出るのは何て思われるか・・・・」
「あははっ、心配くて良い。拙者が連れてる絶壁飛はまだ二歳足らずの若駒、おそらくまだ犬千代殿は乗せれまい。しかし絶壁飛は来年辺りには体格が完成して、鎧付けたまま戦場を疾走くれようぞ。」
犬千代を揶揄うように藤吉郎は笑った後、絶壁飛ならば犬千代の様な大男を乗せれるになると伝えた為、犬千代は本当に藤吉郎の絶壁飛に会いたくなった。
「藤吉郎殿とは今日初めて会ったばかりなのに、まるで十年来の親友の様な気持ちになってきた。 藤吉郎ま自宅が近いらば、迷惑をかけるが馬を見せてもらえないか?」
「犬千代殿ならば、構わないよ。 拙者も犬千代殿と馬が合うと思っていた所だ。」
そう言うと二人は茶店の銭を払った後、一里先にある木下家に向かう事にした。
道中今までの人生をお互い話ながら歩いてら、藤吉郎が元行商人ある事を知った犬千代は、己も殖財に興味があり、最近は兄達から算盤を習ってると言った。
「藤吉郎殿は、商売の機微はどうしていたのですかな?」゜
「基本、足で情報を集めて、何気ない自然や人々の会話の変化から求めている物資を手に入れて、欲しがる客に売る事ですな。」
「藤吉郎殿は、あちこちの諸国を歩いたのですな。 もし拙者が武家じゃなかったなら、藤吉郎殿の様な行商人をやりたかったで御座る。」
そのような他愛のない会話を行ってるうちに木下家に着いて、早速絶壁飛を繋いだ馬小屋に行くと犬千代
は絶壁飛が想像も立派な馬だったので、忽ち馬に釘付けになった。
「こ、これは正しく甲斐の黒駒ではないかっ!! こんな馬ならば、三郎様の前に出ても恥ずかしくぞ!!」
驚いてる犬千代に改めてこの絶壁飛を譲ると言うので、犬千代も心が揺らいでいた。
「今日初めて会った犬千代殿であるが、このままでは拙者の絶壁飛を受け取れないと言うば、せめて拙者
犬千代殿に絶壁飛を貸そうではないか。 そして要らなくなった時に祖父関弥五郎に返してたらいいさ。」
藤吉郎から破格の条件を出されたので、犬千代は藤吉郎に見返りを聞いてみた。
「藤吉郎殿、どうして拙者にそこまで尽くしてるのか? 拙者は金品なんぞ多くもっておらぬぞ。」
「正直しますと、犬千代殿の武者振りに気に入ってしまったので御座る。 もし犬千代殿が織田三郎様に御仕えしていなければ、拙者の郎党にとお迎えしたかったので御座る。」
「なるほど、藤吉郎殿の御気持ちは大変嬉しいで御座る。 もし拙者が浪人に堕ちたならば、藤吉郎殿を真っ先に頼らせてもらおう。 何ならここで誓詞を交わしても良いぞ。」
「誓詞なんてとんでもない、拙者と犬千代殿が親友になれば、その様な事は必要ないわ。」
「ならば、会ったばかりだが親友になろうぞ。今から、敬語は無しじゃ!!」
「分かったぞ、犬千代!!」
「おう!! 藤吉郎!!」
男同士の妙なテンションで、ノリノリの二人は終生長い付き合いになるとは、本人達はまだ知らなかった。
ノリは水滸伝風




