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野尻湖の戦い

 赤川砦を守る高梨家の武将赤川道貫斎清元が守備兵達に命じて、砦の麓を二股の川を越えて通過しようとしてる村上周防守義清が率いてる越後勢千余りが、頭上から降り注ぐ矢を受けながらも数十人の犠牲を出しながらも弓の射程から逃れて、そのまま土橋砦の方へ向かって行った。



「皆の者走れ!! ここで止まれば矢襖(やぶすま)になるぞ!!」


「殿を死なせるな!! 殿の為に命を懸けよ!!」



 村上防州と杵渕(きねぶち)左京亮国季は足軽達に発破をかけて急いで赤川砦から離れると、一旦上杉勢を集めて再編製を行うと矢によって倒れた者は四十人余りで、負傷した者は百名余りいた。


 その中で、傷深く先に進む事が困難な者三十人余りをここに置いていく事にいて、残りの者達は野尻城攻撃の為に進軍することになった。


 一方、遅れて赤川砦の前に辿り着いた中条弾正左衛門尉藤資は、先行していた村上防州が無断で赤川砦の横を抜けて、信州に入って行った事を知り激怒していた。





「村上防州は信州復帰に逸りおったぞ!! このままでは上杉家の獅子身中の虫になりかねん!!」


「父上、村上防州殿をこのまま見捨てる事も出来ますまい。ここは赤川砦を落として、村上防州殿を引っ張ってでも越後に連れ帰るしかあるまい。」



 嫡男の中条与次郎景資が、このまま村上防州達を見捨てる事は、上杉家が越後統一に向けて動く時に、国人衆達からの支持を受ける事が難しいとの憶測を伝えた。



「ええいっ!! ここで奴を死なせてしまっては、御実城様への評判に差し障りが起きるだろう。仕方ない、儂が二千の兵を連れて奴等(やつら)を連れ帰る故、与次郎はここで赤坂砦の兵を牽制するのだ。」


「承知しました父上。(それがし)は足軽達に板盾を作らせて、それで赤川砦の弓矢を消耗させます。」


「近づき過ぎると投石が来るので、投石の射程内に足軽達を近づけるな。」


「承知しました。」



 中条弾正左衛門尉は、中条家の郎党二千を連れて赤川砦下の二股の河川を渡河したら、赤川道貫斎はまたもや弓で射撃を行った。


 中条与次郎は、父中条弾正左衛門尉が渡河してる所に攻撃を受けてるのを見て、板盾を持たせた麾下の足軽達を前進させ、赤川砦の麓から弓で援護射撃を行った。


 嫡男中条与次郎からの援護射撃を貰った中条弾正左衛門尉は、矢の雨が与次郎の兵の方に振り分けられた隙に赤川砦からの攻撃範囲から逃れる事が出来た。


 そして将兵達が少し休める場所に移動させると、村上防州が置き去りにした重傷者三十人余りが横たわっていて、半分ぐらいの将兵は事切れていた。


 生き残ってた将兵達に村上防州の行方を聞き、その後治療していたら野尻湖方面から破裂音と怒声などが激しく聞こえてきて、そのうちバラバラと上杉方の足軽達がこちらに逃げてくるのが見えてきた。



「たっ!!助かった!! 御味方がやってきてくれたぞ!!」


「お前等、村上防州殿はどうした!!」


「あっしらが見た時には、義清様は種子島に撃たれて落馬しておりました。」


「お前等は、大将を見捨てて逃げてきたと言うのか!!」


「見捨てたのではありませぬ。敵の飛び道具の正確さで義清様の元に近寄れず、皆が逃げてきたのです。」



 逃げてきた足軽達のうち元気そうな者を一人捕まえて、中条弾正左衛門尉は村上防州の様子を聞くとこの先には小山の上に馬防柵や虎落(もがり)が置かれており、その障害物の手前には空堀があった為、足軽達はその空堀を越えて柵を押し倒そうとした所で、次々と種子島や強弓で頭部を撃ち抜かれてしまい、村上防州も大声で鼓舞してた所、種子島を持った大柄な武士に撃たれたと言う。


 中条弾正左衛門尉は、もし村上防州が亡くなってたとしても頸だけは持ち帰る積りで決死隊五百を編成して、土橋砦の前に行こうとしたら負傷した村上防州を抱えた若い武士がやってきた。



「貴殿が村上防州殿を救出してくれたのか。貴殿の名は何と言うのだ。」


「拙者は村上家家臣滝沢仙兵衛盛政と申す!! 我等を逃がす為、杵渕(きねぶち)左京亮様が殿(しんがり)を行っています!!」


「そうか、相承知した。 某が今から杵渕(きねぶち)殿を救出しに行くので、其方(そなた)は我が子与次郎がいる所まで村上防州殿を連れて戻られよ。」


「中条様、(しか)らば御免!!」



 滝沢仙兵衛が負傷した村上防州を抱えて赤川砦の方向へ撤退していったのを確認してから、中条弾正左衛門尉は、杵渕(きねぶち)左京亮を助ける為に土橋砦の方向に進んで行った。



 ____________________________________________________________




 中条弾正左衛門尉が村上防州を救出する一刻前の事、赤坂砦からの弓の射程外に出た後、自らを武田家を釣る餌にする為に遮二無二(しゃにむに)に野尻湖の方に軍勢を進めた。


 すると少し開けた場所の先に小山があり、そこには武田家の軍旗と長尾家の軍旗が見えた。


 そこの小山の手前に空堀が見え、その後ろには馬防柵や虎落(もがり)が見えて、さらに後ろには曲輪があると思われる土橋砦の縄張りと思われた。


 それを発見した杵淵(きねぶち)左京亮が武田方の防衛陣地を発見して、大声で村上防州に伝えた。



「殿!! 前方に急造の防衛陣地があります。 ここは後方からやってくる中条勢を待ってからせめますか?!」


「ここは多少でも攻めた方が越後の領民の奪回すると言う理由が成り立つ。犠牲を抑えつつ防衛陣の第一線を破れ!!」


「御意!!」



 土橋砦の防衛陣地を越えようと、村上防州に命じられた杵渕(きねぶち)左京亮は兵二百余りを率いて、空堀を乗り越えて馬防柵を引き倒そうとした時に、土橋砦の曲輪から猛烈な種子島の射撃と弓の攻撃を加えられてた。



「クッ!! 種子島と弓の射撃が正確で激しい!! これでは馬防柵すら倒せんぞ!!」



 二百余りの兵を連れた杵渕(きねぶち)左京亮は、空堀になんとか転がり込み砦からの攻撃に耐えていたら、後方にいた村上防州が釘付けにされてる杵渕(きねぶち)勢の支援の為に、残りの将兵を連れて弾幕がされてない西側の急勾配の切崖の方に回って、砦内の守備兵を分散させようと動いた。


 しかしその様子を城内から見ていた高安彦右衛門一益は、杵渕(きねぶち)勢への射撃は強弓の達人伴喜左衛門一安に任せて、弟分の鈴木孫六の二人で上杉勢の大将を狙撃しようと相成った。



「孫六!! あそこにいる敵将を狙えるか?!」


「あの距離ならギリいけるかな。兄貴は当てれるのか?」


「おっ、そんなに疑うなら孫六、俺と競うか? 当てた方は、四郎様から貰った路銀の半分を貰うのはどうだ?」


「兄貴!! あんたはズルいよ!! 兄貴の路銀は博打でほとんど残ってないだろ。そんなに弟から金を奪いたいのか!!」


「文句言うならば、あいつに弾を当てたまえ!!」



 高安彦右衛門は、そう言うと見事に村上防州の身体に当てて見せた為、孫六も狙撃に気が付いた敵兵が村上防州に駆け寄ってきたのを見て、その駆け寄ってきた滝沢仙兵衛の兜に当てて見せた。


 孫六が放った弾は、仙兵衛の兜を吹き飛ばしたが、運良く頭部には当たらず兜だけが壊れたので、仙兵衛は慌てて狙撃された村上防州を担ぎ上げて、種子島の射程外まで逃げて行った。


 大将が負傷したのを見た上杉勢は、逃げた大将を追いかけるように引いて行ったので、空堀に隠れてた杵渕(きねぶち)左京亮も引き上げていった。


 その頃、土橋砦から上杉勢が赤川砦を突破して、土橋砦を襲ってるとの一報を受けて、栗原伊豆守信友と枇杷島善次郎頼仲は救援を送る事に決めて、栗原豆州は弟の栗原左衛門佐昌清に千五百の兵を与えて、すぐに向かわせた。


 それと同時に土橋砦では、引き上げた上杉勢を追撃する為に長尾左衛門督景孝が目付の猫有光江(みょううこうこう)に追撃の許可を願い出てた。



猫有(みょうう)殿、(それがし)は来襲した越後勢に対して、我々も戦えると言う事を武田殿や政頼叔父上に知らせたいのです。」


「左衛門督様、ここで無理を押して追撃する意味はあるのでしょうか?」


「ありますとも。ここで(それがし)の名の元で戦果が上がれば、越後領内の長尾家への支持に繋がりまする。」



 すると長尾左衛門督の側近である斎藤弥彦朝信が、猫有光江(みょううこうこう)に直訴した。



猫有(みょうう)殿、左衛門督様の願いを聞いてもらえませんか。拙者が一命に懸けて、必ず左衛門督様を生還させますので、何卒(なにとぞ)御願いします。」



 斎藤弥彦は、光江(こうこう)に願いを聞いてもらう為に平伏したので、光江(こうこう)は大変困った顔をした。



「左衛門督様、弥彦様、貴方達は私を困らせてまでも出撃したいのでしょうか?」



 泣きそうな顔をしてた光江(こうこう)を見て、左衛門督と弥彦は困ってしまったが、そこで助け船を高安彦右衛門が出してくれた。



光江(こうこう)さんよ。今し方、野尻城から伝令が来た。 速攻の栗原に兵千五百を率いさせて、こちらに来るそうだ。もしその軍勢に長尾勢を加えるならば、面白い戦いになると思わんか?」


「確かに栗原左衛門佐様は戦上手ですが、相手は強敵村上周防守義清です。此度(こたび)の戦は、上杉勢をむ追い払う事が目的なのですから、長尾左衛門督様を危険を遭う必要は無いと思うのですが、いかかでしょうか?」


光江(こうこう)さんの考えは確かに正しいよな~。しかし長尾方としては、ここで長尾家頭領が存在感を出せる事によって得る物が多いし、やらない事によって武田家の臣従大名だと越後の国人衆から見られる懸念があるのさ。その懸念を光江(こうこう)さんは、払拭出来る策は持ってるのかい?」


「その様な言い方されると、私もこれ以上引き留めれる言葉は思いつきません。」



 光江(こうこう)も彦右衛門から、その様な言い方されたので多少不機嫌になったので、その後彦右衛門は何とか光江(こうこう)の御機嫌取りを行う事なった。

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