三人寄れば文殊の知恵
興奮してた原蹴煤とじっくり話をしたいと思ってた四郎は、一旦皆を下げて宴の準備が整うまで、別室に休むようにと伝えた。
そして皆が下がった後、四郎は自分の部屋に原蹴煤夫妻だけを呼んで、そこでもう一度話を行う事にした。
近習で機知に富んでる木下日吉丸と防諜方の小笠原源与斎たけを傍に置いて、後の近習や小姓達を別室に待機させた後、原蹴煤夫妻を部屋に入れて話す事にした。
四郎に呼ばれた原蹴煤と林姑娘は、四郎の他に先ほどの大広間にいなかった二人の十代の少年二人の登場に怪訝そうな表情して部屋に入った。
まず最初に四郎から、ここにいる全員に話かけた。
「皆の者、先程は部外者もいたので話したい事が進められなかったので、この後宴を行うがその前に軽く我等の目標の事を話したいと思う。 その前に先の大広間には呼ばなかった彼等二人を原蹴煤夫婦に紹介しよう。 二人共、原蹴煤夫婦に御挨拶を。」
最初に小笠原源与斎が、原蹴煤夫婦に挨拶を始めた。
「原蹴煤様、御初に御目にかかりまする。 私、高遠四郎様の御傍で仕えてます小笠原源与斎と申し上げます。此度、四郎様から原蹴煤様の御仕事を手伝うように四郎様から命じられましたので、私が行える範囲ですが御手伝いしますので、どうか宜しく願いします。」
源与斎が丁寧な挨拶を原蹴煤に済ませた後、続いて木下日吉丸が挨拶を始めた。
「原蹴煤殿、おいらは四郎様にお仕えしておる木下日吉丸と言います。おいらは四郎様によって、この様に武士に引き立てられましたが元商人ですので、原蹴煤殿もおいらの事を気軽に声かけてください。」
原蹴煤が知る欧羅巴人の基準から見ると、小笠原源与斎はまだ十代前半の少年にしか見えなかったし、隣にいるもう一人の者は白人から見たら、まだ七~八歳にしか見えない童子にしか見えなかった。
しかしこの日ノ本の人々全体が年若くみえるし、今ここにいる一番子分の高い者が幼子の高遠四郎なので、そんな者が日ノ本の人々なのかと受け入れていた。
「シロウサマニオノオノガタ、コノタビワタシハコノタケダノチニ、イシトシテマタレンキンジュツヲタンキュウスルモノトシテ、ケンキュウソザイヲテニイレルタメニヤッテキマシタ。 マズサイショニテニイレタイモノハヨーロッパデハキチョウナオウスイナルモノデアリマス。ソレハキンやハクキンヲトカスシロモノデアリマス。」
「四郎様に各々方、此度夫はこの武田の地に、医師としてまた錬金術を探求する者として、研究素材を手に入れる為にやってきました。まず最初に手に入れたい物は欧羅巴では貴重な王水なる物であります。それは金や白金を溶かす代物であります。」
そこで四郎が記録の中から、王水の情報を引き出して語り始めた。
「王水とは、源与斎も日吉丸も聞きなれない水だと思うが、濃塩酸と濃硫酸を3対1の量で混合して作られた橙赤色の液体なんだ。 この王水の使い道は大半の金属を溶解させる特性から、純度が高い金の製造や万能ではないが金属素材の成分量を分析するのに使ったり、貴金属塩を製造したり、ギヤマン製品の洗浄や屑金属から貴金属回収に使えるらしい。 そしてこの王水なる物は、回教徒の錬金術師の間では、昔から実しやか語られてる話となってる。」
「オオッ!! シロウサマハナゼソノヨウナチシキヲエタノデショウカ? ワタシトシテヒノモトニクルマエニモアラビアノパクダットニイキマシタガ、コウハイシタマチシカナクテ、イマデハソノヨウナコトヲシルモノガミツカラナカッタノデ、シーナ(明国)ヤヒノモトヘチシキヤソザイヲモトメテキタノデス!!」
「夫は四郎様が何故その様な知識を御持ちになられたのか、とても興味があるのです。夫は日ノ本に来る前に亜剌比亜のバクダットなる都市に行ったのですが、過去の戦乱により都市が荒廃してましたので、四郎様が言う知識を見つけれなかったそうです。その為、明国や日ノ本までやってきて、情報を得ようとした次第です。」
幼子の四郎がその様な事を語るので、またも原蹴煤が興奮し始めて来たので、妻の林姑娘が原蹴煤を抑えに入った。
「貴方、四郎様が御困りになられるので、逸る気持ちを抑えてくださいませ。」
「アアッ、スマナイ。 フタタビイラヌアラソイをオコストロコダッタ。シロウサマ、オノオノカタ、サワイデシマッテスマナカッタ。コノトオリユルシテクダサイ。」
それを見てた四郎達は別に気にせず、原蹴煤の行動を不問にした。
「ここでは俺や源与斎、日吉丸にも無礼講を許すから忌憚無い意見を交わして、我々が今後やるべき事の道筋を作っていきたいと思う。」
源与斎が四郎に自分が呼ばれた理由を聞いてみる事にした。
「四郎様、私の役割はどのような事なのでしょうか?」
「源与斎よ、其方は此度の談合の肝だ。其方がいないと俺も原蹴煤殿も願いを叶える事は絶対に無理だ。」
「私は現在四郎様に近寄る魔の者達や探索方への護りや排除の仕事を務めてますが、それ以外にも何かやれる事があるのでしょうか?」
「ああ、あるさ。人を使ってやると命を落す様な危険な仕事を其方が使役してる式神にやってもらいたいので、それが可能かここに呼んだのだよ。」
「具体的にどの様な事なので?」
「伊那の山奥にある地獄谷上流の源泉に生き物全てを殺す池があるので、そこで式神を使って危険な水を回収して欲しいのだよ。 そけがあれば原蹴煤が求める王水が製造出来る。」
その話を聞いた原蹴煤と源与斎が同時に驚いてた。
「ナント!! ソノヨウナシュダンガアルトワ!!」
「何と!! その様な危険な水がこの世にあるとは!!」
その様な話が四郎が言ってくれた事で、忽ち原蹴煤と源与斎は、すぐに意気投合まった。
「ゲンヨサイドノ、ワタシハアナタガトテモダイスキニナリマシタ。ワタシトトモダチニナッテクダサイ。」
「私も原蹴煤様が知ってる未知なる知識と探求心に強く魅了されました。私こそ、原蹴煤様の弟子にしてください。」
「デシナンテ、トンデモナイ。ワタシトアナタはトモダチでタイトウノタチバデス。ソノヨウナジョウゲノカンケイナド、トモダチニハヒツヨウアリマセン。」
「解りました、私と原蹴煤殿は親友ですね。ならば私の事は豊松とお呼びください。」
二人が盛り上がってる所で、四郎が再び語り始めた。
「だがまだ色々問題があるのだよ。 回収した危険な水、これを硫酸と呼ぶ事にするけど、これを使う時に毒の空気を出し続け命に危険が起きるので、その毒を吸わないようにする対策を先にやらないといけない。 その為の資材集めに呼んだのが日吉丸だ。」
「えっ!! おいらが役立つのですか!?」
突然自分の名前を呼ばれたので、キョトンとして四郎の顔を見つめてた。
「そうだ、日吉丸。 其方は忙しくなるぞ。 原蹴煤殿の実験屋敷作りに防毒面を作るのに材料集めに、原蹴煤殿を補佐する職人達を集めたり、育成とやる事が一杯だ。 だから俺は、其方を元服させる。」
「えっ!! おいらが元服ですか!?」
まさか尾張の百姓の生まれの日吉丸がいきなり四郎によって武士に取り立てられて、さらにまだ十三歳なのに元服を申し渡された事に日吉丸は、頭の中が真っ白になった。




