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お前等、大人になれっ!!

 王水を取るには、有毒な空気を吸わないようにしないと採取出来ないと知った原蹴煤(パラケルスス)は愕然としたが、四郎は採取する方法があると言い出した。


 それを聞いた原蹴煤(パラケルスス)は、幼い四郎の身体に(すが)って四郎から聞き出そうとした時、いきなり四郎の傍に控えてた近習の伴野宮内少輔信守と秋山紀伊守光次が四郎と原蹴煤(パラケルスス)の間に入り刀を抜いて、四郎に近づく原蹴煤(パラケルスス)を威嚇した。



「無礼者!! 其処(そこ)に直れ、不届き者!!」



 それを見た妻の林姑娘(りんこじょう)が腰に差してた双剣を抜いて、一瞬のうちに原蹴煤(パラケルスス)の前に出て、伴野宮内少輔と秋山紀州の太刀を同時に受け止めてた。



「夫に(やいば)を向けて、傷付けようとする者は私が許さぬ!!」



 その光景を見た周囲の高遠家家臣達が主君を守ろうと動こうとした時。四郎が大声を出して双方を止めた。



「双方、剣を下げよ。原蹴煤(パラケルスス)殿は興奮してしまっただけで、俺に危害を加える心算(つもり)ではない。」


「四郎様、承知しました。しかし我等も四郎様御身を護る為に命を費やす心算でございますれば、原蹴殿(パラケルスス)殿への御無礼も承知していただきたい。」



 伴野宮内少輔と秋山紀州は、あくまで四郎を護る為なら鬼になってでも四郎に危害を加えるものならば、斬る覚悟だった。


 そこに原蹴煤(パラケルスス)の後ろで一部始終を見ていた高安彦右衛門一益は、伴野宮内少輔と秋山紀州それに林姑娘(りんこじょう)等の剣技を感嘆していた。



「しかし三人とも其々(それぞれ)の武芸の腕前は達人だよな。柳生の奴等や吉岡の爺ならば、其方達(そなたたち)と戦ってみたいと希望すると思うぞ。」



 彦右衛門が三人を褒めた後、今度は四郎に話かけてきた。



「初めまして、高遠四郎殿。拙者は江州甲賀の出身で、高安彦右衛門一益と申します。横にいるのは、拙者が連れている傭兵達で、此度(こたび)猫有光江(みょううこうこう)殿に堺で雇われて、高遠までお連れしました次第であります。」



 すると四郎は、高安彦右衛門の名前を聞くなり何か考える所があって、彦右衛門に聞いてみた。



「彦右衛門よ、この高遠まで無事に俺の家臣や原蹴煤(パラケルスス)殿を御連れしてくれて、とても感謝する。して其方(そなた)は江州甲賀の生まれだと言ったが、其方(そなた)の特技とは種子島の射撃ではないのか? そして博打も大変好きで借金も沢山抱えてるので、堺から離れるのが都合良かったと。」



 四郎がその様な事を言ってきたので、驚いて聞き返してきた。



「四郎殿は、拙者の名を知っておるのか?」


「種子島狂いの博打打ちと呼ばれてるんだろ?しかも実家は甲賀の忍びの家系なんじゃないか。」


「こんな幼子が何故知ってるのだ・・・  四郎殿いや四郎様。 四郎様が諏訪大明神の申し子と猫有(みょうう)殿から前もって聞いていましたが、四郎様はどうして拙者の実家の事を知り得たのでしょうか?」


「神のお告げと言うのは駄目かな? でも其方(そなた)将来武士(もののふ)として名を上げる事は知ってるので、其方(そなた)が良ければ俺に使えないか?」


「四郎様みたいな神の子にそこまで拙者を見込まれるとは、半分怖いですが残り半分は満更でもない気分ですな。 そうだな・・・・ もし拙者を家臣にしたいのならば、知行二百石に猫有光江(みょううこうこう)殿を拙者の妻にくれるのならば、考えてもいいな。」



 何でこんな時と言わんばかりに言い出した彦右衛門の爆弾発言に窪谷又五郎と猫有光江(みょううこうこう)は、硬直してしまった。



 彦右衛門がその様な事を言って一番驚いたのは、当の光江(こうこう)よりも窪谷又五郎で思わず光江(こうこう)に聞いてしまっった。



「おい、光江(こうこう)!! まさか其方(そなた)、武田家の忍びで在りながら、裏切って彦右衛門に情報漏洩していたのかっ!!」


「まっ、まさか私めは、彦右衛門に一切懸想(けそう)しておりませぬ。いきなり今、彦右衛門殿から初めてその様な事を聞かされたに過ぎませぬ。」



 光江(こうこう)は、又五郎の怒りに怯えながらも何とか自らの潔白を伝えようと口に出したが、又五郎の怒りは収まらなかった。



「四郎様!! この様な失態は全ては拙者の落ち度の事。(しか)らば光江(こうこう)を斬り、拙者も腹を()(さば)きまする!!」



 興奮した又五郎に四郎は、先程と同じく再び刀を納めよと又五郎を(たしな)めた。



「又五郎、控えよ。秋山紀州よ、窪谷又五郎が激情に走るかもしれなから、今だけ又五郎から武器を預かる様に。 」



 そして四郎は、彦右衛門に話かけた。



「彦右衛門よ。其方(そなた)が望む報酬、俺も叶えてやりたいが如何(いかん)せん二百石の報酬は出せるほど、高遠領は豊かではないのだ。それに光江(こうこう)の意思も両親の気持ちもあるだろう。もし夫婦(めおと)になりたいのならば、反対する者達を説得してみい。」


「確かに四郎様の言う事に一理あるし、普通ならばこの様な展開になるならば、拙者の希望通りになるどころかここで命を奪われる事になっても仕方ない事だよな。だかどちらも嫌なので、ならば武田家の次の戦で手柄を立てるまで、四郎様の所に居候しようじゃないか。そして敵の頸を上げたら光江(こうこう)殿を娶ろうじゃないか。」



 それを聞いた光江(こうこう)は、顔を真っ赤にして彦右衛門に文句を言った。



「何でそんな話になるのよっ!! 貴方と私はただの依頼主と護衛だけの関係なのよっ!!」


「兄貴、光江(こうこう)さんも兄貴に全く懸想(けそう)を抱いていませんので、さっさと報酬もらって次の仕事を探そうぜ。」



 孫六は呆れたように彦右衛門に突っ込みをいれると、彦右衛門はムッとして孫六を睨みつけたが、孫六は全く彦右衛門の不満など気にせず、さっさと報酬を貰う話にしたいみたいだった。


 余りのグダグダな展開に宿老の保科弾正忠が、いい加減強引に話を(まと)めようかと思った時に、四郎が皆に語り始めた。



「まずは彦右衛門等、傭兵達には五貫文を報酬を一人づつ渡そう。そして彦右衛門達傭兵は、新たに高遠四郎と雇用契約を結ぶ交渉を明日以降行う。原蹴煤(パラケルスス)一家には、今日から高遠城の一角で暮らしてもらい、明日以降原蹴煤(パラケルスス)殿には、俺が知ってる知識を現実化する研究を行ってもらう。報酬は、武田領にある研究素材と原蹴煤(パラケルスス)殿の研究に対しての後援者になってやろう。」


「また窪谷又五郎は、猫有光江(みょううこうこう)に対しての処断は不問にせよ。そして猫有光江(みょううこうこう)は、当面堺への任務を外し高安彦右衛門達傭兵の目付役に任じる。又五郎は目付に任じた猫有光江(みょううこうこう)の代わりの者を堺への連絡役に任じよ。」



 一気に四郎は、皆の前にそれぞれの指示を伝えるとやっと自分達の新たな役割を理解して、四郎に向って平伏して四郎の命を受け入れた。







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