96 スルメイカの匂い
由依は、こんなクセのある童話を読まされる時間はなかった。それよりも、ふたりの関係を知りたくて仕方がなかった。そこで、興味のない冊子を返すと、すぐにそのことを尋ねた。
「あの、宮沢先輩と柏崎先輩って、どういう関係なんですか?」
「えっ、どうして?」
宮沢史奈は、目を大きく見開いて、こっちをまじまじと見つめてきている。
「だって、さっき、一緒にいたじゃないですか」
「ああ、そんな、別に……普通の友達だよ。気が合うから一緒にいるだけで」
何でもないというのか、由依はにわかに信じられない。それよりも、その「気が合う」という言葉が気になる。
「気が合うんですか?」
「うん。なんか、変なこと考えてない?」
「いえ、別に……」
史奈は、まじまじと由依の顔を見つめたが、何か勘違いした様子だった。史奈は、にやりと笑うと、
「ふーん」
と言った。
「なんですか、そのふーんは」
「田所さん、そうなんだ」
「えっ、何がですか。えっ、ちょっと、やめてくださいよー」
由依は、とんでもない勘違いに焦った。いくらなんでも、そんな勘違いはされたくない。というか、これで話がこじれたら、八重に申し訳ない。
「大丈夫だよ。柏崎君には言わないから……」
違う、違うよ、そういうことじゃないよ、と由依は焦って、首を横に振った。しかし、いくら首を振っても勘違いは勘違いのままだった。
「じゃあね、アドバイスしてあげるよ」
「何のアドバイスですか?」
「恋愛の」
「なっ……」
史奈はふふっと笑うと、こう言った。
「モテる女子は、スルメイカの匂いなんか、してちゃ駄目だよ?」
「す、スルメ……」
由依は、思いきり恥ずかしいことを言われて、顔が真っ赤になった。そんなん、良いじゃないか、だって、スルメイカ好きだもの、と由依は思った。
「スルメイカはたまたまですよー」
「分かった。分かった」
「勘弁してくださいよー」
由依は、そう言いながら、ふと疑問に思った。スルメイカを食べたのは先週の木曜日のことだ。今週に入ってから、はじめて会ったはずの宮沢史奈が、どうしてスルメイカの匂いを嗅げたのだろう、と……。




