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95 宮沢史奈の部屋

 由依が案内された宮沢史奈の部屋は、すみずみまで掃除と整理整頓が行き届いていて、とても清潔な空間だった。そこが八重と由依の部屋と決定的に違うところだ。八重と由依の部屋は至るところにものが散乱していて、小惑星帯のような空間なので、二つを比べること自体、ナンセンスな気もしたが、それにしてもこの違いには由依も驚いてしまった。同じ造りの部屋でしょうか、と誰かに尋ねてみたくなった。しかし、尋ねる相手もいなかった。


 桃色のカーテン、桃色の布団カバー、桃色のシーツというように、部屋は桃色に統一されていた。ルームメイトのベッドも同じだった。しかし、見渡しても、宮沢史奈のルームメイトの姿はそこになかった。

「そのベッドに座っていいよ……」

 と宮沢史奈は、向かいにあるルームメイトのベッドを指差した。そして、史奈は窓際に机に歩み寄って、何冊か本を選び出している。


 それから宮沢史奈は、何冊か本を小脇に抱えて戻ってくると、ベッドの上に飛び乗った。そして、両足をだらしなく横に投げ出し、文芸部の冊子をぺらぺらとめくりだした。

 その姿をよく見ると、黒いソックスを履いた二本の足が、桃色のシーツの上に無造作に放り出され、横に折り重なっているのが、とても(なま)めかしかった。

 綺麗なつま先から足の付け根の方へと視線を這わせると、その二本の色白の足には、みずみずしい若さがみなぎり、色白のふとももは餅のように柔らかで、むっちりとした弾力をもって、もう一本の足と、なめらかにからみあっているのだ。また、それを覆い隠しているはずの制服の黒とグレーのチェックのスカートも、今では、ふとももの付け根のあたりまでだらしなくめくり上がり、二本のふとももの間に挟まれている純白のパンティーの可憐な膨らみをもったシルクの生地が、いかにも悩殺的な姿で外部に露出されている。それは濃厚なエロティシズムだった。

 由依はついまじまじとその美しい足を眺めてしまった。由依の露骨な視線が、さすがに気になったのか、宮沢史奈はスカートの端を左手でつまんでぐいっと引き下ろした。

 

「これが文芸部の発行している雑誌……」

 と、史奈は誤魔化すように、由依に雑誌を押し付けてきた。由依は、それを開くと、そこには文芸部員たちの小説、エッセイ、詩が載っていた。

 由依は、偶然、開いたページの作品を読み始めた。


           *


  雨の街の物語         宮沢史奈


 いつも雨ばかりふっている寂しい街がありました。朝も、昼も、夜も、昨日も、今日も、明日も、明後日も、いつも空からは悲しい雨がふってきます。止むことはありません。灰色のビルは、空に一番近いところにあるので、青い雨の色に染まってしまいます。馬車や歩行者が通るポティロン大通りには、開かれたアンブレラがふわふわと浮かんで、まるで川に流されているようにみえました。これは、そんな不思議な街のお話です。

 三毛猫のミーケは、今日も帽子を斜めにかぶっています。彼は今、踊るように階段をかけのぼって、二階のジェームズ探偵事務所にやっと戻ってきたところでした。

 部屋の中では、どら猫のジェームズが、ミルクを飲みながら、テレビを見ていました。

「ミーケ君、どうして、そんなに焦っているんだね」

「大変だよ。ジェームズ君、事件が起こったんだ。ボブの酒場で、殺人事件が起こったのだよ」

「なんだって、それは、えっ? つまりどういうことなんだ」

「事件だよ。密室殺人なんだ。まったくこんなことになるとはね。悪いけど、僕にもホットミルクを一杯くれよ」

「生憎、これが最後の一杯なんだ」

「そうか。今日の僕はついていないようだね」


           *


 由依は、何も考えずに読んでいたが、これ以上、読んでいられない気分になった。途中で、冊子を閉じると、宮沢史奈が、

「どうだった?」

 と尋ねてきたので、

「ああ、その、良いと思います」

 と由依は、最後まで読んでいないくせに答えておいた。

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