32 ナポリタンとカルボナーラ
城崎先生が、信用のできる人間かどうかというのは、よく考えると誰にも判断できないことだが、そこは三人とも問題としなかった。
「城崎先生と話がつくまでの間、どうしているの?」
と、八重が尋ねると、祐介は、
「そこの民宿に泊まっているよ」
と笑った。
そこの民宿というのが、一体どこの民宿のことなのか、八重には見当もつかなかった。
長月駅前は、お洒落な商店街がショッピングモールへと通じていて、賑わいがあるが、一歩踏み出せば、そこは田舎町である。昔ながらの民宿があっても不思議ではなかった。
「先生と早く話がつけば、僕は関係者に成りすまして、学園の調査ができる……」
そういう祐介の瞳は、灯火のように輝いて見えた。実は、ランプ型の照明の光がほのかに反射しているのだった。
ここで二人は、祐介と別れた。祐介はお代を払ってくれて、先に帰った。二人が遅れて、喫茶マトリョーシカの外に出ると、そこは薄汚い裏道であった。八重には、久しぶりの祐介が頼もしく思えた。そして、百合菜のお兄さんが不審死を遂げたことについて、あまりにも唐突に知ったことが、なんとも飲み込み切れず、心地が悪かった。
それに八重は、あることが引っかかっていた。
百合菜は、お兄さんの不審死を疑って、この学園に入学してきたのだ。それだというのに、彼女は入学してからというもの、学園の七不思議を調べていたのだ。あまりにも不自然じゃないか。それに、七不思議のことは私には喋っていても、祐介さんには喋っていないらしかった。それは何か作為的ではないか。八重の頭の中では、そんな疑問が生まれて、裏道をふらふら歩く足取りは頼りなかった。
「七不思議については、祐介さんに喋らなくて良かったの?」
と、八重は百合菜の背中に尋ねた。彼女は振り返ると、
「それは喋らなくて良いんです」
と言った。矛盾だらけな気がしたが、それでも百合菜はまた謎めいた美少女らしく、曖昧な微笑みの中に真実を隠してしまった。
「七不思議は、お兄さんのこととは関係ないの?」
「そうかもしれません」
「なら、どうして、私たちは七不思議を調べているの?」
百合菜は、まとわりついてくる子供にお灸をすえるように、その言葉にこう切り返した。
「七不思議が、兄の死と関連があるかどうか、それは私にもまだ分かりません。でも、可能性はあります。だから、自分で調べようとしているんです。しかし、このことは羽黒さんには喋りませんでした。羽黒さんには、兄のことを解き明かしてほしいと本当に思っています。が、すべてお任せしているわけではありません。私は自分の手で、兄の死の真相を突き止めたいという気持ちがあります。それに関しては、私自身が調べるべきものとして取ってあるんです」
と、百合菜がいつになく毅然とした様子だったので、八重はたじろいだ。
それを見て、百合菜は言葉をやわらかく言い直そうと考えたらしい。
「そうですね。話しておいても良かったかもしれません。でも、七不思議のことまでは羽黒さんには調べられないでしょう。学園内部のことは、結局、生徒同士しか調べられないんです」
八重は、それは確かにそうだと思った。それに七不思議だけではない。事故のことも同じだ。祐介がいくら、城崎先生の知り合いの振りをしたところで、生徒も先生もかつての事故のことを軽々しく喋ったりはしないだろう。結局、生徒である自分たちの手で調べなければならないのかもしれない。
裏道を出ると、二人は商店街を歩き、ショッピングモールへと突き進んで行った。そして、ショッピングモールの一階の洋食屋で、スパゲティを食べた。八重は、ナポリタンスパゲティを頬張って、百合菜はカルボナーラスパゲティを食べた。そして、二人は洋服を見た後、由依が喜びそうないちご大福をお土産に買って、午後三時のバスで紫雲学園へ戻った。この帰り道のバス車内では、二人はすっかり打ち解けていた。




