26 八重と百合菜、街へ出る
八重はベッドの中で目覚めた。やけに光が眩しく感じる。パジャマに隠れた首元から胸元にかけて、じっとりと汗をかいている。むくっと上半身を起き上がると、もう窓の外は日光で明るくなっていて、壁にかかったアナログ時計は、すでに午前七時を指していた。
見渡すと、部屋に由依の姿はなかった。バレーボール部の朝練に出かけたのだろう。相変わらず、朝が早い人間である。その時。
(そうだ、今日は……)
八重は、あることを思い出した。今日は、文芸部の詩を書かなければいけない日なのだが、八重はその他に、百合菜と一緒に学園の七不思議を調べる約束をしていたのだった。
昨日の別れ際、百合菜は「明日、朝早くに和泉さんの寮室に訪れるので支度をしておいてください」と言っていた。それを急に思い出した。こうはしていられない、準備をしないと、と八重はベッドから飛び出した。
ところで、百合菜は八重にこんなことも語っていた。
「和泉さん、明日は街に出ようと思うので、私服に着替えておいてください」
八重は、その言葉を思い出して、パジャマを脱ぐことにした。まとわりつく汗のにじんだパジャマを脱ぐと、すぐに私服に身を包んだ。ちなみに、日曜日は私服での外出が許されているのである。
それにしても、どういうことだろう。どうして、学園の七不思議を調べるのに、街なんかに出る必要があるのだろうか、と八重は疑問を感じた。
街といっても、あの長月という田舎町のことなのである。この学園の生徒が「街」と言う場合、例外なく長月駅前のことを指しているのだが、百合菜は転校してまだ間もないのに、もうその呼び方に慣れたものらしい。担任の城崎がホームルームで「街へ出る時は気をつけて」と頻繁に語っていたせいかも知れなかった。
八重は、白地に赤い英字のロゴが記された半袖のTシャツと、紺色っぽい黒のガウチョパンツを身にまとった。
この洋服は、ゴールデンウィーク中に、自宅近くのお店で買ったものだ。試着時は、大人っぽいファッションだと思ったのだけど、購入後、自宅の鏡の前に立って見たら、期待よりもずいぶん子供っぽく見えたので、ひどくがっかりしたという苦い思い出のある代物だった。しかし、こうして再び身にまとって、部屋の鏡の前に立ってみると、そんなに悪くない気がした。これなら、あの夕紀さんよりも可愛く見えるかもしれない、とやけに自信が湧いてきた。
(そんなことより……)
八重ははっとした。長月駅前にゆくのであれば、午前八時のバスに乗らなくてはならない。その後は、昼までバスが来ないのであった。
(夕紀さん、遅いな……大丈夫かな)
時計を見ると、すでに七時半になっていた。
その時、ドアをノックする音が響いた。八重が慌てて、ドアを開けると、水色っぽいストライプのシャツワンピース姿の美少女が立っていた。それは夕紀百合菜だった。
「お待たせしました」
と言って、にっこりと笑う百合菜は、いつもよりもお洒落で大人びた雰囲気があった。




