17 夏目部長
夏目部長は女子生徒だった。黒ぶち眼鏡がきらりと光り、長い髪を後ろで結っていて、前髪は真ん中で左右に分かれている。典型的な文学少女である。いかにも才女の香りがするその容姿は、やはり色白のきめ細かい肌のおかげもあってか非常に綺麗である。
「はい、注目!」
夏目部長は、五人しかいない部員の姿を見まわしながら怒鳴った。
「今日、集まってもらったのは、今後の部の活動に関して話し合うためです。新入部員はちゃんと来ていますか?」
「それが……」
柏崎先輩はやれやれと言った顔をして、
「新入部員は、和泉八重さんしか来ていませんよ」
と言った。
「本当ですか。柏崎副部長……」
ここで初めて、八重は柏崎先輩が副部長であることを思い出した。
「本当です。しかし、新入部員とは概してそういうものです。来てほしいと思った時には来ないで、来なくて良い時に来るのです」
「まあ、良いです。和泉八重さんが来たというのなら、勘弁してやりましょう。一人でも新入部員がいるのなら、それで良いことに致しましょう」
と夏目部長は、思い直したように呟いた。
「では、皆さま、お聞きなさい。紫雲学園文芸部は、今年の春から新入部員を迎えて、さらなる活動の向上を図ろうと考えています。ところで、秋には文化祭があります。文化祭では、部誌「文芸紫雲」の発売があることですから、その時になれば、自身の文学を知ってもらうことは充分にできるわけです。しかし、皆さまは、秋まで寝て過ごすわけにはいきません。作家は、常に書かなくてはなりません。そして、部員の中で、作品を読み合い、批評し合わなければなりません。それでこそ、文芸部というものです。お分かりですね。和泉さん……」
と知的で目つきの鋭い夏目部長に言われると、八重も焦ってしまう。
「はあ……あの、つまり、何をすれば……」
「書くのです。そして、あなたの隣の柏崎副部長にでも感想をいただきなさい。良いですか。いかなる精神的な世界も、葛藤も、作品に描かなければ、そのまま、お墓まで道連れにしてしまうことになります。しかし、本来の芸術家とは、自分の外へと表現しようとする意思を持っています。和泉さん。自己の内面をさらけ出し、それを形にするのです。お分かりですね」
と夏目部長が訳のわからないことを言うので、八重は困った顔をしたまま、かすかに愛想笑いを浮かべて頷いていた。
「ここにいる人間だけで良いです。来週の月曜日までに詩を書いてきなさい。この場で、回し読みをして、感想をぶつけ合うのです」
夏目先輩はこぶしを握って、八重の顔を見つめながら語っていた。
(来週の月曜日……今日は土曜日なのに……)
八重は焦った。発表の日まで二日しかないのだった。
そして、そんなことをしている場合でない気もした。なぜなら八重は、学園の七不思議と夕紀百合菜と柏崎先輩のことで頭が一杯になっているのだから。




