11 学園の七不思議
八重は、お盆にカレーライスとサラダを乗せて、一階の真ん中あたりのテーブルに運んだ。水を注いだコップも端に乗せたせいで、途中、何度か人波に揺られてお盆を落としそうになったが、なんとか水を溢さずにテーブルに着くことができた。そこにはすでに由依と百合菜の姿があった。
由依はすでにラーメンを食べ始めていた。百合菜は八重を待っていたのか、オムライスにはスプーンを付けずにそのままにしていた。
「お待たせ」
「うん」
八重はふたりの顔を見比べた。由依は醤油ラーメンを食べることに夢中で、ほとんど百合菜と会話をしようとしていなかった。
百合菜はようやくスプーンを手に取り、オムライスの端をそっと救って、小さな口に運ぼうとしているところだった。
「夕紀さんは、この学園に来る前は、どこにいたの?」
八重はカレーライスを食べ始める前に、気になっていたことを尋ねた。
「私立の高校……」
「そうなんだ」
八重は、どんな高校だったのか、なぜ転校したのか、もっと詳しく知りたいと思ったのだけれど、百合菜があまりにも曖昧に答えたものだから、あまり喋りたくないような事情があるのかもしれないと察して、それ以上は尋ねなかった。
「このオムライス、美味しいですね」
百合菜はそう言って、にっこりと微笑んだ。すると今まで黙って食べていた由依が、
「ここの食堂、何食べても、けっこう美味しいよね。私は大体、毎日ラーメンなんだけど……」
と言ってまた麺をすすった。
そんなにラーメンばかり食べていたら、体がラーメンになるぞ、と八重は訳のわからないことを思った。
八重はスプーンを手に取ると、カレーライスを一口、頬張った。真っ赤な福神漬けの甘みと、ルーの味わいが口の中で混じってとても美味しかった。その時。
「おふたりは、中学の頃からこの学園にいらっしゃるのですか?」
カレーライスの味わいに夢中になっていた八重は、突然そんな声が正面から聞こえてきたので、ちょっと不意を突かれた気持ちになったのを落ち着かせて、百合菜の方を向いた。
「いや、私は高校から……」
「そうなんですか」
「うん」
でも由依は中学からだよね、と八重は思って、由依の方に目を向けた。由依は、ラーメンの味に飽きたらしく、食べる速度があからさまに遅くなって、テーブルに肘をついたまま、口ばかりもごもごと動かしていた。
「私は中学からだよ……」
と由依は、まだ麺が口に残っていそうなはっきりしない声で言った。
「そうですか。ところで、おふたりは、この学園の七不思議をご存知ですか?」
百合菜はそう言って、ふたりの目を交互に見た。
その質問があまりにも予想外だったので、八重も由依もなんと言ったら良いか分からなくなった。
八重は、
「いや、知らない」
と答えた。
由依は、
「聞いたことあるけど、詳しくは……」
と言いつつ、首を横に振った。
「そうですか。いえ、気にしないで。ちょっと噂で聞いたもので、尋ねてみたんです」
そう言いつつも、百合菜の視線は、どこか遠くを見ているような、なんとも悲しげなものに思われた。
八重は、この学園に七不思議なんてあるんだ、と驚いた。それを百合菜が尋ねてきたことに対して疑問を感じるよりも、その七不思議についてもっと詳しく知りたいという思いが込み上げてきた。
「夕紀さんは、その七不思議について、よく知ってるの?」
と八重が尋ねると、百合菜は曖昧な笑みを浮かべて、
「さあ、私もよく知らないんです……」
と言った。




