<13>
茜色に染まる街を一晃君と手を繋いで歩く。これほどの幸福など無いだろうと感じた。
「一晃君」
下から見上げると、一晃君の顔も茜色に染まっていた。真っ赤な髪と溶け合うような色合いに、彼は本当に炎の化身なのではと錯覚するほどだった。
「あのね、私これからも一晃君と一緒にいられるんだよね?」
「当たり前だ。誰がなんと言おうと、俺が離さねぇ」
掌をギュッと強く、でも気遣うように優しく握ってくれる一晃君に、涙が溢れそうになる。
「私、将来一晃君が心から愛せる人が現れても、ずっと側で一晃君を支えていくからね!」
一晃君の隣に並ぶ女性の姿を想像するだけで胸が痛くて苦しくなるけど、それが私の新たな役目なのだから我慢しなければならない。それに下僕から側近くらいにまでは昇格できたような気がする。
意気揚々と一晃君に決意表明すると、なぜか一晃君の体がその場でビタッと固まってしまう。
「一晃君?」
心配になって一晃君の顔を覗き込むと、彼は突然叫び声を上げた。
「ちげぇえええええええ! なんでそうなるんだお前はぁ!」
「えぇ!?」
また彼の逆鱗に触れてしまったのだろうか私は。どうしよう、怒らせてしまった。
「なんで一緒にいようって言ってんのに、俺が誰かと結婚するみてぇな流れになってんだよ!」
「一晃君、生涯独身を貫くの?」
「貫かねぇし! そうじゃない、お前は俺と一緒にいるんだろ? 他のヤツが俺とお前の間にいたら嫌だろ? 嫌だと言え」
「うん、嫌だよ」
言われなくても嫌に決まっている。
「だったらなんで、俺がお前以外の奴を好きになるとか考えになるんだよ! そこは違うだろ!?」
「違うの?」
「違うに決まってんだろうが! 俺が、すっ、好きなのは、お前だけに決まってんだろ!」
「私も好きだよ、一晃君!」
「だから、ちげぇえええええ! 合ってるけど、あってねぇからな、姫子!?」
「えぇー……今日の一晃君は難しいことばっかり言うんだね」
「言ってねぇし! むしろお前の思考回路が複雑怪奇すぎて俺の頭が破裂しそうだっつーの!」
「頭痛いの一晃君!? やっぱり朝の鼻血は何かの病気の前兆――」
「朝の事は忘れろ! というか積極的に忘れて下さいお願いします! 違う! 姫子、俺の言いたいことは……あぁ、くそっ、俺はバカだ。マジでバカだ!」
ゴンゴンと自分の頭を叩き始めた一晃君に、吃驚して止めに入った。
「なにやってるの一晃君! 頭が痛いのにそんなことしたら、余計に悪化しちゃう!」
「あー……姫子は優しいけど、とんでもねぇバカだな。俺もバカだが、お前も大概バカだ」
今更バカなんて言われても、事実なので否定しようがない。昔から一晃君にバカバカ言われてきたし、人が簡単に出来るようなことが出来ないので、私はきっとバカなんだろうとは自覚している。
「一晃君はバカじゃないよ。私よりもずっと頭もいいし、完璧な人だよ」
「お前が言うと嫌味に聞こえる……ははっ」
なんだか一晃君が夕日を見つめて黄昏れ始めた。私も真似をして夕日を眺めた。
その時、私のお腹がキュウーっと情けない音を鳴らした。
「腹減ったか姫子」
「うん。お腹空いちゃった」
「帰るか」
「うん!」
再び私たちは歩き出した。一晃君はしっかりと私の手を握ってくれてるし、私もしっかり握り返した。
幼稚園に通ってた頃、お腹が空くまで一緒に一晃君と遊んだときの事を思い出した。あの時も、こうやって一晃君と手を握り合って家に帰ったんだっけ。
懐かしい記憶に胸が温かくなるのを感じながら、私たちは夕暮れの街をゆっくりと歩くのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
一晃視点でどうなっていたのかを書こうと思っていますが、いつになるか分かりません(震え声)