リン vs 山ブドウ
山ブドウさんが張り手を繰り出した。
集中力が高まったのか、リンには山ブドウさんの動きがゆっくりに見えた。
リンは片手でいなしながら懐に飛び込み、下から突き上げるように肘うちを放った。
イメージはマンガで見た中国拳法で、肘が鳩尾を下から抉るエグい技であった。
ブチッ!!
「ブモーッッ!!」
身長差が考慮されていなかった一撃は、下から抉るように山ブドウさんの股間に叩き込まれた。
リンの眼前には、山ブドウの叩き潰されたブドウがあった。
なんということでしょう。山のようにテントを張っていた股間が、今は谷間のように。谷からはドス黒い液体が流れます。
「エ、エグイのじゃ…」
「ギ、ギャーッ!! ブチッて言ったよ、ブチッて!
うぎゃー! 肘に生暖かい感触が残ってるよぅー!」
山ブドウさんは、股間を押さえて倒れ込み痙攣していた。
その横では地に両手を付き、えずいているリンがいた。
両者ノックダウン。
「可愛い顔をして、やることがエグいのじゃ。リン、トドメを」
「理ー無ー! と、鳥肌見てよ! 私のダメージも相当だよっ!? もう近寄りたくないよー」
リンは半泣きどころか、鼻水を垂らす勢いで泣いていた。
「そ、そうか。しかし、放って置くわけにも…」
その時、白い布が舞い落ちた。
『我らの負けです。どうか、子供達だけでもご容赦願えませんか』
この世界にそんな習慣があるのか、タオル投入、ギブアップ宣言だった。
二人の周囲でレスラー達が土下座していた。
「あらあら、うふふっ。どちらが悪役か分からないわね」
いつの間にかオラクルが現れていた。
「うわっ、突然驚くでしょっ!
言われなくても分かってるよ。なんかヒャッハーな二人が集落を襲っているみたいだって、自分でも思ってるよ! うわーん」
気持ち悪い思いはするわ、悪役にはなるわ、良いところがなかった。
「なんじゃ、こやつは!」
「あらあら、うふふっ。美少女天使、神ってるオラクルちゃんでーす」
「あ、見えるの?」
「見えるのじゃ! こやつがボケ担当じゃな?」
「うふふっ。さっきのでレベルアップしましたー。それで姿を見せるのも出来るようになっちゃいましたー!
ドンドンドン、ぱふぱふっ!」
無駄にリアルなボイスパーカッションで、効果音まで付けられた。
レスラー団体は土下座、山ブドウは痙攣中、パートの臓物が散らばって、辺りは地獄絵図。
その中に気の抜けた効果音が響いた。
なんともカオスな状態であった。
「どうしよっか、クッコロちゃん」
リンとしては、もうこのままダッシュで帰って体を洗いたかった。
「うむ、興が削がれた。
貴様等っ! 今日のところはこれで勘弁してやるのじゃ!
しかし! 二度とおなごを攫ったり、汚したりしてはならんのじゃ!
もし、それをすれば、リンが貴様等全員の股間を叩き潰すのじゃっ!」
「嫌だよっ! 潰さないよっ! っていうか、自分でやってよ!」
「嫌じゃ。そんなもの触りたくもないのじゃ」
クッコロは悪戯が成功した子供らしい笑顔を見せた。
『クッコロちゃん、トラウマ克服できたのかな?』
『そうね、できたんじゃない』
「うわっ、吃驚した! だから思考を読むなと何度言ったらー!」
「だから、読もうとしなくても、分かるんだって。ニコイチなんだから」
そんなオラクルリンを見て、大魔王から大天使に戻ったクッコロは、楽しそうに目を細めた。
「立つが良い、貴様等! 武人の誇りを持って顔を上げよ!
経緯はどうあれ、我らに一騎打ちを望みし、その心意気。
そして、我が身を省みず子等を案ずるその情け、まことに天晴れじゃ!
大魔王クッコロの名において、貴様等に命ず。その誉れをもって、思うまま生きていくが良い!」
大天使はヴァルキュリアだった。
孤高の女騎士が高らかに宣言した。
『ウォー! クッコロ様ー! クッコロ様、万歳ー!』
マッチョ語の歓声があがる。
そこかしこで筋肉がピクピクしている。興奮しすぎて痙攣しているみたいだった。
「ブ、ブ、ブモーッ!」
その中、山ブドウさんが起き上がった。
「ぬっ、まだやる気か? リン、行くのじゃ!」
「えー!? やだよぅー」
『待ってください、クッコロ様。私はもう戦う気はございません。
同朋に対するご寛恕、心よりお礼申し上げますわ』
「「「わ?」」」
山ブドウさんは、山ブドウちゃんに進化した!
山のような巨体が女座りで科を作った。
「き、き、気持ち悪いっ!」
叫ぶリンの後ろに、さっきまでの勇壮が嘘のように小さくなったクッコロが隠れた。
『いやんっ、ひどいわぁ』
山ブドウちゃんは、頬に手を当てて嘆いた。
「ととと、鳥肌っ! サブイボ、コールドターキーがっ!」
リンは混乱している。
「あらあら、うふふっ。凄い回復力ね」
オラクルは冷静だ。
「オラクルちゃんが言うと、なんかエロく聞こえるね…」
リンはツッコミを唱えた。
「あら、エロく感じる人がエロいのよ?」
しかしツッコミは、跳ね返された。




