そうだ、温泉に行こう!
リンはもう全てを放って帰りたくなった。
パートを倒した罪悪感も、山ブドウちゃんによって、些細なことに思えてきた。
「もう、色々面倒くさいから、帰ってお風呂入ろうよ」
「あらあら、うふふっ。元オッサンのリンが言うと、下心が凄そうね」
オラクルの言葉に、クッコロが青い顔をして我が身を抱いた。
「違う。あれ、ちゅーとりある。私、男ない、女。下心、ない」
「あらあら、うふふっ。ベタねぇ。今時焦って片言なんてないわよ。昭和じゃないんだから。21世紀よ?
だから、オラクルリンのツッコミ担当のボケは古いって言われるのよ」
「酷いっ! 公演もテレビ出演もしてないのに、どこで言われるのよ!」
「あらあら、うふふっ」
『あのぅ、お風呂に入りたいのでしたら、温泉にご案内しますわよ?』
ゾワッとした。
「うう、山ブドウちゃん、慣れないよぅ。でも、元日本人?として、温泉気になるなぁ」
「温泉は妾も大好きじゃっ! でもリンと入るのは、ちょっと怖いのじゃ」
「えー? いいじゃん。減るもんじゃないしー、ちょっとだけ、ちょっとだけ、なっ?」
「あらあら、うふふっ。リン、オッサン、オッサン」
「どうもオラクルちゃんのツッコミには愛を感じないなぁ」
「まあまあ、山ブドウちゃんが返事を待ってるわよ」
「じゃあ、案内してもらおうか。どうせ宿にもお風呂ないしね」
「そうじゃな。乙女は美しくあらねばならんのじゃ」
「おっ、クッコロちゃん、言うねぇ。着替えも買ってないのに」
「ふん、服など魔法で出せばいいのじゃ」
「えっ! クッコロちゃん、魔法使えるのっ!?」
「当たり前じゃ。妾を誰だと思っておる。伊達に大魔王を名乗っておらんのじゃ」
「ああっ、あったあった、服を出すシーン! 後空様の息子に…」
「な、な、な、なんじゃとっ! ご、後空の息子となっ? だ、だ、誰が産んだのじゃっ!」
「し、しまったー! 幼女クッコロちゃんの時は、まだ結婚してなかった!」
「け、け、け、結婚ー!」
「あらあら、うふふっ。また墓穴って、ベタねぇ。もうベタ芸人ね」
「ちょっとややこしくなるから、黙っててよ!
いやいや、クッコロちゃん、結婚は間違い。まだしてない。
ほら、私、超能力あるでしょ? 予知能力もちょっとだけあるのよ。
でも、誰がお嫁さんか分かんないなぁ」
知ってるけど。
チチリーだけど。
ドSの露出狂痴女だけど。
「むむむっ、なら妾の息子かも知れんのじゃ」
クッコロは小さく唸った。
ごまかせて、リンはほっと胸を撫で下ろした。
「いいなー! 魔法、いいなー! そう言えばクッコロちゃん、空も飛べるし、龍珠も創れるし、色々できるよねぇ。
私も魔法つかってみたいなぁ」
「超能力も魔法みたいなもんじゃろ、もう良いのじゃ! 温泉に行くのじゃ!」
『分かりました。お背中お流し致しますわん』
「「いらんわっ!」」
「あらあら、うふふっ」
『うーん、いけずぅ』
「「キモッ!!」」
「あらあら、うふふっ。もうこの下り飽きたから、早く行きましょう」
「うわっ、勝手! オラクルちゃん、自由すぎだよっ!」
『では、別の者に案内させましょう。アルー!』
山ブドウちゃんの呼び掛けで、レスラーの集団が割れ、間から雌オークが進み出た。
「うわっ、セクシー! セクシーダイナマイトッ! でも、顔はオークッ!」
リンは両手を地についてうなだれた。
雌オークは、ビキニアーマーから溢れんばかりの巨乳、巨尻を持ち、しかし凄まじいまでの腰のくびれを備えた、プレイメイトも真っ青の肢体を有していた。
ただし、顔は豚だった。
周囲のレスラーに劣らぬ、2m程の身長でスラリと長い手足には、プロアスリートのようなしなやかな筋肉が備わっており、まさにアマゾネスといった風体であった。
顔はブタであったが。
『私はアル・バイト。おまえ等にころされたパートの娘だ』
「気まずっ!」
「ほう、妾に一騎打ちを挑んできたオークの娘か。
一矢報いたいのであれば、相手になってやるのじゃ」
『いや、オヤジは武人として誇りを持って闘った。正々堂々とした立ち合いの結果に不満はない。
むしろ感謝している。
クッコロ殿にとって、オヤジの一撃は本来受けるまでもないもの。
もっと言えば、オヤジのファーストアタックを待つ必要すらなかった。
それをクッコロ殿は、正面から受け止め、その上で、それを遥かに上回る一撃を放った。
そんな正々堂々とした武人に何をか言わんや』
「お、男前! 不覚にも美女戦士に見えたよ」
『私のことはアルと呼んでくれ。では、参ろう』
「私が言うのも何だけど、お父さんの葬儀とかいいの?」
『心遣い痛み入る。武人の死合いに死は付き物。
そこに言葉はいらぬ。別れもいらぬ。オヤジの魂はここに引き継いでいるのだから』
アルはパートの方天檄を持った手で、自分の胸を叩いた。
「すてきっ! 抱いてっ! って、危うくイケメン武人に見えた!」
「あらあら、うふふっ。リンちゃん、ついに男にも欲情するようになったのねぇ。両刀のリン! 素敵な二つ名ね」
「違ーうっ! そんな二つ名、いやーっ!」
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