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ラストバトル

 分厚い雲に覆われていた戦場は、空で戦うサクヤと邪竜の衝突によって太陽の光が差し込んでいた。


 互いに退くことが出来ない。泥沼のような戦場で、ユニアスはリュークの下に駆けつけている。理由は、リュークの軍勢へと敵が集まりつつあったためだ。


 魔法陣の中央で指示を出し、何やら準備をしていた。


「お前、孤立してまで何がしたいんだよ! 敵が集まってるぞ!」


 ユニアスの怒鳴り声に顔も向けず、メモを取り何やら計算をしているリュークは淡々と答える。


「この魔法陣は、対ドラグーン用のものだ。これを利用する」


 敵が使用していた魔法陣を再利用し、ルーデルやアレイストを助けると言う。リュークは、真剣に計算をしていた。


 ユニアスは思う。


(言っても無駄だな。けど、こいつの兵力で耐えきれるか?)


 敵は背水の陣とでも言わんばかりに、結束して撤退をせずに突撃してきている。孤立したリュークの軍勢は彼らにしてみれば倒しやすい敵でしかない。


 魔法陣を再利用しようと、ろくな陣を敷いていないのも理由の一つだ。


 帝国の兵士は強い。ユニアスは自分の素直な感想を思い、この馬鹿な友人を説得するのを諦める。


「……仕方ない。ここは俺が時間を稼いでやる。どれだけ耐えればいい?」


 ユニアスの声を聞いて、リュークがメモに書き込む手が一瞬止まった。そして、再開すると、ユニアスに頼むのだ。


「……一時間だ。一度使用すれば、次は相手も警戒するから一度だけの使用になる。だが、それだけあれば上にいるルーデルには十分だろう」


 ユニアスがリュークに背を向けて歩き出した。


「なら、お前がこいつにかかりきりの間は、この俺が守ってやる。もしもの時は、意地でも担いで逃げるから覚えて置けよ」


 リュークは小さな声で「助かる」と言うのだった。



 黄金の鎧を身にまとい、新しく黒い二本の腕が追加されたサクヤは邪竜と殴り合っていた。


 黒い腕には黄金の武器が握られ、右手には白騎士の剣を。左手には黒騎士の剣を握りしめている。サクヤを守るように黄金の盾が二枚浮いており、邪竜の拳からサクヤを守っていた。


 互いに掴み合い、殴り合い、斬り合い、そしてドラゴンのブレスで攻撃し合う。巨体同士の戦いは、衝撃波を発生させて周囲の雲がいつの間にかほとんど吹き飛ばされ青空が広がっていた。


 邪竜がサクヤの首筋に噛みつく。鋭い牙は、一本一本がドラゴンを狩る魔剣以上の力を秘めていた。


 サクヤが口を開けて叫ぶと、そのまま邪竜の腹にボディーを叩き込む。サクヤの太い腕から繰り出される一撃は、邪竜の硬い皮膚に亀裂を生じさせていた。


 苦しくなり、邪竜が口を開けてサクヤの首筋から離れた。サクヤはそのまま邪竜の頭部に黄金の剣を振り下ろす。


 邪竜がすぐに離れようとするが、サクヤは両腕で掴み逃さない。顔を逸らし、邪竜が角の一部と片目を犠牲に被害を抑えた。


『ぬぅ、傷の治りが悪い。何故だ!』


 サクヤは首筋から血を流しながらも、邪竜に対して返答した。


『サクヤの力をルーデルとアレイストが引き出してくれているんだ。だから負けない。サクヤは強いんだぞ!』


 幼い。非常に幼いが、絶対に負けないという意志がサクヤから感じられる。


 邪竜が残った片目を見開き、大きく口を開いて咆吼した。


『この紛い物のトカゲが! 貴様は寄せ集めの紛い物の分際で、誰に逆らっていると思っている!』


 サクヤを紛い物という邪竜は、そのままサクヤにブレスを叩き込もうとする。しかし、邪竜の口元に集まった黒と赤の濁ったような魔力は、光の剣によって斬り裂かれ、邪竜の口元で爆発した。


 そこには憤慨しているルーデルの姿があった。


「貴様! 俺のサクヤに文句があるのか! いいだろう、ぶっ飛ばしてやる!」


 邪竜が口から煙吐きながら、アスクウェルの名を叫んだ。


『アスクウェル! 何をやっている。こいつらを殺せ!』


 サクヤと邪竜。二体のドラゴンを足場として、ルーデルとアレイスト、そしてアスクウェルは戦っていた。


 だが、アスクウェルの方は、アレイストに阻まれている。


「やっている! 貴様さえ、貴様さえいなければ!」


 眉間に皺が寄り、まるで鬼の形相をしているアスクウェルが槍を振るった。その槍からは衝撃波と魔力が発生し、アレイストに襲いかかる。


 ただ、アレイストは魔法剣でそれを打ち払い、そしてもう一方の剣でアスクウェルへと斬りかかる。


 アスクウェルが左腕を犠牲に、その一撃を受け止めた。剣はアスクウェルの腕に深々と斬り込むが、切断するまでには至っていない。


 ただ、アレイストは双剣を持っており、すぐにアスクウェルの腹にもう一方の剣で追加の一撃を加えた。


「くっ!」


 血は出ない。再生もするアスクウェルの体だが、それに怯むことなくアレイストも攻めたてる。


「ルーデル! こっちも助けて! 僕一人だと押さえるのが精一杯だから!」


 なのに、アレイストは情けない声を出していた。それが、アスクウェルの神経を逆なでしているのだ。


 アスクウェルが槍を無理やり振るい、アレイストを弾き飛ばす。しかし、アレイストは逆にそれを利用して距離を取ると、そのまま自身の影から次々に槍を生み出し、アスクウェル目がけ飛ばした。


 それらを槍で全て打ち払うアスクウェルだが、黒い槍は爆発して煙を発生させ視界を奪う。その隙に、真上からルーデルが斬り込んできた。


 槍で受け止めようとするが、ルーデルの渾身の一撃は槍を両断してアスクウェルの右肩から腹部までを大きく斬り裂く。


 それを見たルーデルの一言は、


「これでも駄目か」


 血が出ず、再生を始めるアスクウェルからルーデルも距離を取った。足場としている邪竜が大きく動くと、アスクウェルが体勢を少し崩す。


「何をやっている!」


 苛立ったアスクウェルだが、空の上……不安定な足場、そしてドラゴンの背中という環境は、ドラグーンにとって味方であった。


 ルーデルがすかさず斬り込んできて、アスクウェルの足が宙を舞った。次に、体勢を立て直したアレイストが斬り込んで腕を斬り裂く。


 空中に投げ出されたアスクウェルは、自ら浮いて体を再生させようとする。しかし、目の前にはサクヤの拳が迫っていた。


「ふざけ――」


 ふざけるな、と言おうとしたのだろう。だが、意思の疎通が出来ているドラグーンは、騎士とドラゴンがセットで有り、連携は当然だった。


 殴られ、吹き飛ばされ体の多くの部分が潰れ、吹き飛ばされるがアスクウェルは再生を始めた。しかし、その再生も徐々に遅くなってきている。


「何故だ。何故、貴様らは」


 体を再生させ、再び戦場に戻ってくるアスクウェル。ルーデルとアレイストの二人を相手に、劣勢を強いられていた。



 地上では、リュークを守るためにユニアスが奮戦していた。


「一人たりとも通すなよ!」


 大剣を振り降ろし、帝国の兵士を斬り捨てながら叫ぶと、周囲の部下たちが返答するように声を張り上がる。


 泥が舞い、鉄が舞い、血が舞い、肉が舞う戦場は、まさにこの世の地獄だろう。


 次々に押し寄せる帝国の兵士たちも死に物狂いである。


 ユニアスはリュークを信じてこの場を死守しており、大剣を振るっていた。目の前に、騎士らしい男が前に出る。


 一見して強いとすぐに分かった。巨大なハンマーを振り回し、味方をなぎ払いながらユニアスの下に突撃してくる。


「貴様が大将か!」


 敵の騎士の言葉に、ユニアスは笑った。


「だったらどうした!」


 魔法剣。渾身の一撃を相手に振り降ろし、相手はハンマー共々両断され動かなくなる。ユニアスは息を切らし、そして前を見た。


 数が減っても、味方を踏み越えて前に進む帝国の兵士たちを前に奥歯を噛む。


「さっさと降伏すればいいだろうが!」


 大剣を横凪に振り抜き、もう一人を斬り伏せると後ろの方で衝撃が発生した。敵も味方も、そちらへと視線を向ける。


「なんだ!?」

「クルトアがなにかやったのか!」

「あの光は――」


 ユニアスたちの後方、リュークたちが魔法陣を使用していた場所から光が発生していた。


「あいつ、やりやがったか!」


 リュークが成功したと信じ、ユニアスは味方に檄を飛ばす。


「もう一踏ん張りだ! ここを乗り切れば、俺たちクルトアの勝利だ!」


 雄叫びが戦場に響き、そして激しくぶつかる両陣営。



 リュークは魔法陣の中心で、盾騎士を魔法陣の中や外に配置して空を見上げていた。


 魔法陣からは光があふれ、更に魔力が増幅されていく。


 空を見上げると、遠くに戦うドラゴンが二体。


 遠見と呼ばれる魔法で、相手の位置を確認してリュークは頷いた。バーガスがリュークに声をかける。


「若旦那、もう盾が限界だ!」


 リュークが笑っていた。


「バーガス、若旦那と呼ぶな! だが、これで終わりだ。ルーデル、私からの助力を……私とユニアスからの助力を無駄にするなよ」


 右手をかかげ、そして指を鳴らすと魔法陣の真上に光の玉が発生した。その周りを火、水、風、雷、土と、属性魔法が回っており、空へと放たれ邪竜へと向かって行く。


 それを見届けると、リュークは膝から崩れ落ちた。魔法陣からの光は消え去り、バーガスがリュークへと駆け寄る。


「おい、リューク!」


 昔のように名前で呼んだバーガスに、リュークは笑っていた。


「馬鹿。私は雇い主だぞ、バーガス。だが、悪くない。……バーガス、ユニアスに助力する」


 無理やり立ち上がると、リュークはユニアスの救援に向かうと言って周りに指示を出すのだった。



 ルーデルは、空の上から地上に視線を向けた。


 アスクウェルと斬り合っている最中、下から何か放たれたのに気が付いたのだ。そして、すぐに理解する。


 直感とでも言えば良いのか、それとも学園時代から慣れ親しんだ友人の思考を察したと言えば良いのか……助けが来ると理解した。


「リュークか! 恩に着る!」


 ルーデルの言葉に、アスクウェルが腹を立てる。


「貴様、戦場で余所見を――」


 ルーデルはアスクウェルを蹴り飛ばし、自分もアレイストを回収してサクヤの肩へと向かうとサクヤへと叫ぶ。


「サクヤ、距離を取れ!」


 サクヤはすぐにルーデルの指示に従い、邪竜から距離を取った。傷だらけの邪竜とアスクウェルは、この隙に傷を癒そうと考え――。


『なんだ!?』

「下からだと!?」


 下から迫る光に少し遅れて気が付き、そのまま逃げ去ろうとする。しかし、光はそのまま邪竜たちを捕え、更に内包する魔力が爆発して邪竜とアスクウェルを炎が包んだ。直後、水が発生し二人を包み込むと、そのまま雷が発生。


 風が吹き荒れ、二人を嵐が包み、最後には嵐の中に岩が混ざって二人を襲う。


 ルーデルの隣では、アレイストがその光景を見て若干引いていた。


「あんなの、よく耐えきれるよね」


 アレイストもボロボロだった。鎧は一部が吹き飛ばされ、傷だらけで頬からも血が流れている。


 ルーデルも同じようなものだ。傷だらけ、そして盾にはへこみが有り、剣にも欠けがあった。


 ルーデルは周囲の状況を見ており、今が勝負を賭けるときだと判断した。


 左手をかかげ、拳を握る。


「……アレイスト、次で勝負を決めるぞ」


 ルーデルの真剣な声に、アレイストも頷いた。


「分かった。全てをかけるさ。ここまで来たんだ。もう全力で――って! え! えっ!?」


 アレイストが驚くのも無理はない。肩に乗っていた二人を、サクヤが手で掴むのだから。右手にはルーデルを、左手にはアレイストを掴み準備に入るサクヤ。


 アレイストが叫ぶ。


「待って! 予想できるけど、もしかしてこの後って!」


 ルーデルは笑っていた。


「察しが良いな、アレイスト。そうだ……サクヤに投げて貰う。一撃に全てをかけろよ、アレイスト」


 親指を突き立て、アレイストに笑顔を向けるルーデルだった。


 アレイストはサクヤの指の隙間から、顔を項垂れさせ乾いた笑い声を出している。


「あは、あははは……ちくしょう! やってやるよ!」


 二人が覚悟を決め、そして地上から放たれた魔法が消え去る。


 解放されたアスクウェルと邪竜は、全身が傷だらけで再生が間に合っていなかった。


「サクヤ……俺たちを投げつけろ」


『うん!』


 ルーデルは自身の剣と盾に魔力を流し込む。今まで培ってきた技術を注ぎ込む。


 剣と盾に魔力が流れ込み、そして光が炎のように揺らめいた。


 風が発生し、炎を更に揺らす。


 アレイストも同様に、双剣に魔力を流し込む。


 無限の魔力などもうない。だが、アレイストの培ってきた、アレイストの魔力がある。


 アレイストの思う通りに操れるソレは、双剣に黒く雷のような魔力を流し込んだ。


 二人の準備が整うと、サクヤは両腕を同時に振るって二人を邪竜へと投げつける。


 邪竜が咆吼し、アスクウェルは全身から魔力を放出。


 迎え撃つ体勢に入るが、ルーデルは邪竜へ。


 アレイストはアスクウェルへと向かい、互いに攻撃態勢へと入った。


「これで――」


「――終わりだぁぁぁ!!」


 邪竜が咆吼し、ルーデルへとブレスを放った。


 しかし、ルーデルはそんなブレスの中を盾で防ぎながら突き進む。右手に持った剣が魔力で刃を伸ばし、そして邪竜へと振り下ろされた。


『貴様さえ、貴様さえいなければぁぁぁ!!』


 アスクウェルは全身全霊をかけて、アレイストに立ち向かう。


 だが、アレイストの双剣とぶつかり火花を散らした。


「お前のせいでこの狂った世界が……お前の、お前のせいで!」


 アレイストはアスクウェルの言葉を聞いても、もう迷わない。


「罪悪感ならある。けど、それでも……僕は友達と前に進みたいんだ! みんなと前に進む、って決めたんだ!」


 アスクウェルがアレイストの言葉を聞き、そして力が緩んだ。


 そのままアレイストの双剣が槍とアスクウェルを斬り裂く。


 二人がそのまま空中に放り出されると、ルーデルが空中を移動してアレイストを回収した。


 そのまま、剣を鞘へとしまい右手を邪竜とアスクウェルへと向ける。


 アレイストは、その光景を見て驚く。


「ドラゴンがあんなに……」


 邪竜とアスクウェルを囲むように、ドラグーンやドラゴンたちが配置され、その口にはブレスを放とうとしていた。


 サクヤもブレスを放とうとしており、ルーデルが開いた手を握るのを合図に全てのドラゴンが一斉にブレスを放つ。


「塵一つ残さない。安らかに眠れ」


 ルーデルが小声でそう言うと、邪竜とアスクウェルは光の中に消えていった。


 だが、アスクウェルだけは上半身だけが地上へと落下していく。


 追いかけようとするが、ルーデルもアレイストも限界に近かった。落下する中で、黄金の鎧も黒い腕も消えたサクヤが二人を優しく回収する。


『ルーデル、下が静かになったよ』


「……本当に終わったか。流石に疲れた」


 ルーデルは、そう言ってサクヤの手の中で目を閉じた。



 地上に落ちたアスクウェルは、体が再生したもののただの人間に戻っていた。


 目を開くと、近くにはミースや部下たちがいる。


「アスクウェル様! す、すぐに医者を呼びます。だから、気をしっかり――」


 しかし、怪我は治っているように見えるが、中身までは駄目だったようだ。アスクウェルは、自分の死期が近いと悟った。


 黒い存在の力を借り、無理をした代償だろう。


(そうか、俺はここで終わるのか)


 アスクウェルが、ミースの腕を掴む。ミースが驚くと、アスクウェルは声を絞り出した。


「ミース……こ、この戦争の責任……は、俺にある」


「喋らないでください、アスクウェル様!」


 血を吐きながら、アスクウェルは続けた。


「だ、駄目だ。誰かが責任を取る。そうしなければ……これ以上の混乱が……」


 アスクウェルは、帝国が疲弊しているのを知っている。その不満をぶつけられる存在が必要だとも思った。


 少しでも不満を和らげよう。そして、自分に出来る事を考えた。


「お、俺は帝国まで持てばいい。この首は帝国で斬られてこそ意味が……ある。だから……だから、俺を帝国に連れて行け。そこで、民の前でむごたらしく……」


 血を吐き、そして続けるアスクウェルにミースがなく。


「逃げましょう、アスクウェル様。少人数なら隠れることだって」


「駄目だ! 駄目なんだ、ミース……頼む。頼むから」


 泣き出したアスクウェルは、最後に帝国で処刑されることを望んだ。国を疲弊させた極悪人として、不満をぶつけられる存在になろうとした。


(そうか、俺は逃げたのか……かつての夢を諦め、逃げたからこんな事に)


 アスクウェルは続ける。


「ミース、俺の屋敷に色々と研究資料がある。農業に関する物だ。失敗ばかりだったが、お前が役立ててくれると嬉しい。帝国のためにとはもう言えん。いずれ、崩壊するだろう。だが、後のために……頼む」


 ミースはアスクウェルの手を握りしめ、そして泣きながら頷くのだった。アスクウェルは微笑むと、自分を縛り上げて帝国まで撤退するように伝えるのだった。



 イズミは、撤退する帝国軍を見ていた。


 追撃など出来ないほどに、クルトアも疲弊していた。


 クルストが、空の上を見ている。


「兄さんが戻ってきます。行って上げてください」


「すまない!」


 イズミは、ふらつく足で地上へと舞い降りるドラゴンたち。その中にいる一頭の白いドラゴンを見て駆けた。


 サクヤがゆっくりと舞い降り、ルーデルとアレイストを地面に優しく置く。イズミはルーデルを見ると飛びついた。


 同じように、アレイストのハーレムメンバーもアレイストに飛びつく。こちらはアレイストがもみくちゃにされていた。


 声も出ないのか、アレイストは女性陣に身を委ねるしかなかった。


 イズミはルーデルを抱きしめた。


「……無茶ばかりする。また怪我だらけだ」


 イズミがそう言うと、ルーデルは目を少し開き笑っていた。


「悪い。でも、なんだか気分が良い」


「……ルーデル?」


 イズミが微笑んでいるルーデルを見て、心配になった。


「ようやく乗り越えられたんだ」


 イズミの声が震えた。


「あぁ、だからこれからも頑張らないと」


 すると、ルーデルがイズミの顔に手を伸ばした。


「そう言えば……考えていた」


「何を?」


「今回の戦功……報酬はイズミがいい。アルセス家はクルストに継がせて、俺はお前に告白したい」


 ルーデルの手が頬に触れる。イズミがその手を握りしめた。


「あぁ、受けてやる。受けてやるから……」


 ルーデルが笑っていた。


「良かった。なら、プロポーズの言葉を考えないと……ユニアスか、リュークに相談して……アレイストでもいいかな?」


 ルーデルの声がか細くなってくる。イズミが冗談を言う。


「あの三人だと不安だ。だから、ルーデルが考えてくれ。どんなに突飛なことでも驚かないから。だから……」


 イズミが涙を流すと、ルーデルは笑ってその涙を指で拭う。


「なら、考えて……みる。失敗しても怒るなよ?」


 ルーデルが目を閉じた。


「怒らないから! だから……だから目を開けて!」


 ルーデルが一度だけ深く呼吸をした。


「あぁ、なんだか安心したら……」


 ルーデルの手が、イズミの手から滑り落ちて地面に落ちた。イズミは声を出して泣きわめき、その周りにはベネットを始めルーデルに関わった多くの人物たちが囲んでいた。


 皆が目をつむり、黙祷を捧げる。


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