二年ぶりの首都アレス
やがて。
遠くに、大きな城壁が見えてきた。
「あ」
思わず身を乗り出す。
巨大な壁。
その奥から突き出した、いくつもの尖塔。
そして。さらに高い場所に見える、巨大な建物。
アレス王立学院。
「……すげえ」
思わず呟いた。
二回目なのに。その大きさには、やっぱり圧倒される。
二年前。
俺は、この城門を父さんと母さんと一緒にくぐった。
父さんは、目を輝かせながら町並みを眺めていた。
母さんは王立学院を見上げ、勝手に俺の将来を決め始めていた。
――あなたなら大丈夫よ。
そんな声が、一瞬だけ頭の中に蘇った。
胸の奥が。少し痛んだ。
痛みが消えたわけじゃない。
たぶん。これからも、完全には消えない。
でも。以前のように、息ができなくなるほどではなかった。
俺はもう一度、王立学院を見上げる。
『……来たよ』
誰に言うでもなく。心の中で呟いた。
アレスの城門前は、二年前とは比べものにならないほど混雑していた。
ガイルが衛兵へ証明書を見せる。
確認を終えた衛兵が、ぶっきらぼうに手を振った。
「通れ」
「どうも」
門をくぐる。
すると。街の空気が一変した。
「うわ……」
人。
人。
人。
大通りには色とりどりの旗が掲げられ、至るところに案内板が立っている。
商人たちは屋台を出し。
宿の呼び込みが声を張り上げ。
王立学院の制服を着た学生たちが、受験者を誘導していた。
適性試験。
アレス領の各地から、十歳前後の子供たちが一斉に集まる。
なるほど。ちょっとした祭りみたいになるわけだ。
立派な上着を着た少年が歩いている。
腰には、細身の剣。
『貴族かな』
その少し先。
長い耳を持つ少女が、立派な杖を背負っていた。
エルフだ。
独特な刺繍の入った羽織を身につけている。
反対側には、大きな斧を背負った獣人の少年。
その横には。何の武器も持たず、普通の麻布の服を着た子供もいた。
本当に。いろんな奴がいる。
そして。同い年くらいの子供が、こんなに大勢集まっている場所へ来たのは。
もしかすると、生まれて初めてかもしれない。
「あ」
人混みの中。
杖を両腕で抱きしめた少年が、誰かとぶつかった。
「あ、す、すみません!」
相手より先に、何度も頭を下げている。
杖を落としそうになり、慌てて抱え直した。
『大丈夫かな、あいつ』
少し離れた場所では。白を基調とした、神殿で見かけるものに似た服を着た少女が、案内板をじっと見つめていた。
周囲が騒がしいのに。一人だけ、妙に落ち着いて見える。
そのさらに向こう。
周囲の子供たちとは明らかに違う空気をまとった少年がいた。
背筋を真っ直ぐ伸ばし。
腰には、手入れの行き届いた剣。
人混みの中でも、まったく浮ついていない。
何となく。目がいった。
向こうも。一瞬だけ、こちらを見る。
視線が重なった。
ほんの一瞬。
それだけだった。
「アドリス」
ガイルに呼ばれる。
「あ、今行く」
案内役の学院生についていく。
大通りを抜け。長い坂を上がる。
そして。巨大な門の前へ辿り着いた。
アレス王立学院。
近くで見ると。やっぱり、でかい。
二年前は、遠くから見上げただけだった。
今日は。この中に入る。
門の前で、ガイルが立ち止まった。
「俺たちはここまでだ」
「うん」
「まあ」
ガイルが俺を見る。
「緊張せずやってこい」
「それ、無理じゃない?」
「なら勝手に緊張しろ」
「どっちだよ」
ダイスが笑った。
「魔術の基本、忘れんなよ」
「取り込んで」
俺は指を一本立てる。
「自分の魔力で属性を与えて」
二本。
「形成して」
三本。
「放つ」
四本。
「よし」
ダイスが満足そうに頷いた。
「あと、五属性だからって調子に乗んな」
「そっちが五属性様って言い始めたんだろ」
ジルが、俺の服の襟を軽く直した。
「怪我をしないようにね」
「試験だよ?」
「あなたの場合、試験でも何か起きそうだから」
「どういう意味?」
「そのままの意味よ」
三人を見る。
一年七か月。
ずっと。この三人と旅をしてきた。
最初は。ついていくことしかできなかった。
守られることしかできなかった。
でも。今日は。
俺一人で、この扉の向こうへ行く。
「じゃあ」
俺は笑った。
「行ってくる」
「ああ」
「いってらっしゃい」
「派手にやってこい」
背中を向ける。
巨大な扉へ向かって歩く。
二年前。
俺は父さんと母さんの後ろを歩いて、この街へ来た。
その後は。ガイルたちについていくことで、生きてきた。
でも。ここから先は。
少しずつ。自分で決めなきゃいけない。
聖騎士になるのか。
別の道へ行くのか。
今はまだ、分からない。
だったら。まずは。
今の俺が、どこまでできるのか。
確かめてみよう。
俺は。適性試験会場の扉の前に立った。




