12. 6th DARK (?) the decisive stage ①
ひかるはまさかりさんから届いたダークの予告状を見て、驚きと共に何だか少し胸が躍った。
「えーっ、懐かしい……」
ネットで検索しながら、内容を解読してみる。
『七夕の戌の初刻』は、7月7日ーーつまり今日の午後7時。
『桜星公園』は、今ひかるがいる合宿先の最寄り駅から歩いて5分のところだった。
現在時刻は午後6時47分。ちょうどいいくらいだ。
「うーん……」
ひかるは疲れた頭で考え込んだ。
これ、もしかして、タカのサプライズ……?
でも、何でまさかりさんから予告状?
それに『お前の大切なもの』って、何だろう……?
と、考えていたらまさかりさんから電話があった。
「まさかりさん!? どういうこと?」
「いーから。すぐ来て。場所わかる?」
「うん……、マップ見れば……」
「あ! 通話はこのまま! オレが丁寧に道案内するからな!」
「え? うん……」
ひかるはまさかりさんの言う通り、通話を繋げたまま歩き出した。
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まさかりさんから俺に送られてきた画像は、ダークの予告状だった。
……はぁ、今日はそれどころじゃないと言うのに。ふざけてるのか?
しかしそれにしては、あの頃作っていたものと同じ精巧な造りである。
……最後の作戦から大体2年ぶりか。もう懐かしく感じる。
一応、解読してみる。
『七夕の戌の初刻』は、7月7日ーーつまり今日の午後7時。
『桜星公園』……? どこだそれは? すぐさまマップで調べる。……遠い。最短でもタクシーで10分の距離。
そして現在時刻は、午後6時49分。
思わず俺は素っ頓狂な声をあげた。
「バカか!? 間に合わないだろ!!」
そして『お前の大切なもの』は……、もうこの話の流れから、何となく想像がついた。
俺はまさかりさんとひかるに電話をかけた。が、2人とも何故か話中だった。
一瞬、予告状を無視してやろうとも思ったが。
……奴等の狙いがひかるなら、待っててもひかるは帰ってこない。
「くそ……ッ」
俺は慌てて家を飛び出した。
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ひかるはまさかりさんの言う通りの道を歩いていたら、何故か少し遠回りをさせられた。
桜星公園についたのは、6時57分。
かなり大きい公園だ。遊具や芝生だけでなく、屋外ステージや遊歩道もある。
そして公園内にある『誓いの丘』は、丘への小道が一本だけ。
しかしその道を塞ぐようにコーンが置いてあり、『この先整備中の為立ち入り禁止』と紙が貼ってあった。
「じゃ、後ろ振り向いて」
と、プツリとまさかりさんの通話が切れる。
7時ちょうどだ。
ひかるが後ろを振り向くと、ダークが立っていた。
「え……っ」
鼻まで覆う仮面を付けているから、誰がダークなのかはわからない。
ダークは『しーっ』と唇に指を当てると、何も喋らずにひかるの手を引いて歩き出した。
『立ち入り禁止』と書かれたコーンを超え、丘を登っていく。
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俺は家を出てすぐにタクシーを拾ったが、帰宅ラッシュと重なり道が混んでいた。
タクシーに乗っている間もひかるに電話をかけたが、ずっと話中で繋がらない。
まさか俺と会話させない為に、まさかりさんがずっとひかると通話を繋げてる……!?
アイツらにしては……中々やる……。
胸騒ぎを覚え、慌ててタクシーを降りる。
公園に着いたのは7時4分。
ここから『誓いの丘』まで、俺の足で5分くらいだろうか。しかし、坂道はキツイ……。
「クソ、アイツら怪我人の事考えろよ……」
まさか忘れた訳がないとは思うが、俺は右脚太腿を撃たれ少し麻痺が残っている。
俺は息を切らして丘への小道へ向かった。
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タカが公園へ入っていく様子を、超小型ドローンのカメラが捉えていた。
まさかりさんとエリンギは、丘の脇にある茂みの中にいた。
エリンギがドローンを操縦し、まさかりさんのPCに映し出されている。
「タカの足だト、ここまで来るのに5分くらいかナ。
でもここまで歩かせるのハ、やっぱり可哀想だったかモ……」
「愛するひかるの為なら死ぬ気で来るだろ。頼むぜエリンギ、この作戦はタイミングが大事だ」
「モチ。この感じ、久々でワクワクするヨ」
「さ、そろそろひかるが来るぜ」
丘の上に、ダークに手を引かれたひかるが登ってきた。
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ひかるはダークに連れられ、丘の上に辿り着いた。
下の住宅街が一望できる、景色のいい場所だった。
初夏の夕方7時。快晴。涼しい風が抜ける。
ほんのり薄暗くなった空を、ダークはひかると手を繋いだまま無言で指差した。
突然、空中に数十個の光の点が現れた。
無数の小型ドローンだ。
ピカピカと点滅しながら、ドローンは隊列を組んで夜空に文字を浮かべた。
『I』『♡』『U』
「あー……、うん……」
ひかるは苦笑いするしかなかった。
――一体わたしは、何を見せられてるのでしょうか……。
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エリンギが操縦する小型ドローンはタカをこっそり追跡しており、小道へ辿り着いたのを確認した。
ちなみに今回は、まさかりさんお得意の『防犯カメラをハッキングして追跡』する技は使えない。
前提条件として、今回の作戦は全て合法の範囲で行うからだ。
「ドローンショーの時間稼ぎはそこまで時間がもたないと思ったけド、ちょうどいいくらいだネ」
まさかりさんはインカムに向かって言った。
「おいオメーら、高俊が丘に辿り着くまで30秒ってところだ。カウント始めっぞ……」
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俺は『誓いの丘』へと続く小道へと辿り着いた。
その一本道には『立ち入り禁止』と書かれたコーンが立っている。だがこれは無関係な人を立ち入らせない為に、アイツらが置いたものだろう。
俺はコーンを超えて進んだ。
既に7時8分。
とっくにダークの出没時間を過ぎている。
もし予告状の通りに現れているのであれば、既にダークはひかるの元か?
読めない。この作戦の意図が。
よく考えたらこの公園は、ひかるの合宿先の最寄駅の側だ。
俺が絶対に間に合わない時間に予告状が届いたのは、バカだと思ったがそうじゃない。俺より先にひかるが辿り着くように仕向けたのだ。
アイツらは、ひかるの何を盗もうとしている……?
俺は息を切らして、丘の上に辿り着いた。
一番高いところで、ダークと、手を繋いでひかるが空を見上げていた。
あれは……ドローンショー……?
ダークは俺に気づいて一瞥し、仮面を取った。
ダークは……“タカ”……偽物の俺だった。
「な……っ」
アレは、じーさんの変装か!?
島根からわざわざ東京に?
そして偽物は、ひかるを強く抱きしめた。
「え……!?」
「おい、お前……ッ」
あの変装の中身が誰であろうと、異性のひかるを抱き締めるのは冗談でも解せない。
俺が言葉を発しようとしたところで、偽物は俺に聞こえる声でひかるに堂々と言った。
「ひかる、これまでの事ごめん。好きだ。付き合ってくれないか」
一瞬、俺もひかるも何が起きたのか分からず、呆然とした。
そして俺は、血管が張り裂けそうなくらいの突発的な怒りを覚えた。
「おい!! ふざけるなッ!!」
俺が真っ赤な顔で怒鳴りながら現れると、ひかるもやっと俺の存在に気づいた。
俺はひかるから偽物を引き剥がした。
「タカ……!?」
「ひかる、コイツは偽物だ! おいお前ら! こんな事をして、俺やひかるが喜ぶとでも思ったか!?」
信じられない。本当に信じられない。
俺やひかるの気持ちを弄ばれた。
アイツらのこと信用して相談したのに……、何もかも、裏切られた気分だ!
俺は偽物の胸倉を掴んで睨みつけた。
「お前はじーさんか!? まさかりさん! エリンギ! いるんだろ!? 出て来いッ!!
本当に余計な事をしてくれたな! こんな事して……っ、絶対に許さないからな!!」
あまりの怒りに、声が震えた。もう少しで目の前のこの偽物を殴りつけたい衝動に駆られる。
しかし2人は出て来ない。
それどころか、偽物は何も言わずに余裕そうにほくそ笑んでいた。
するとひかるは、静かにポロポロと泣き出した。
「ひかる……っ」
「分かってた、このタカが偽物だって。だってタカがこんな粋な事して、『好きだ』なんて言う訳ないじゃん……」
「……」
「でもね、やっぱり」
ひかるはしゃくりあげて泣き始めた。
「それは、一番、タカから聞きたい言葉だった……っ」
丘の上にひかるの啜り泣く声がただ響く。
……どうしてくれるんだこの状況……。
こうなる事は分かってただろう。
俺を怒らせて、ひかるを傷つけて、あいつらは何をやりたいんだ……?
「さて高俊、どうしたものかな」
やっと偽物が口を開いた。
俺の顔をして俺の声で、ニヤリと笑って言った。
「この場を収拾するには、俺の言葉以上の言葉を、今ここで彼女に伝えるしかないぞ?」
「っ……!?」
ああ、そうか。唐突に理解した。
最初から、コイツらの目的はこの状況を作る為だったのか……!




