13. 6th DARK (?) the decisive stage ②
俺の偽物は、動揺する俺に余裕な笑みを貼り付けたまま言った。
「じゃ。後は二人で頑張ってね〜」
「おい!」
そうして偽物はニッコリ笑ったまま去って行った。
……やられた。まさか……まさかこの俺が、ダークの発案者で司令塔の俺が。
見事にダークに盗まれた。
俺が、言うべきだった言葉を。
俺はこの作戦の意図に気付き、不思議と怒りはスッと消え、感心してしまっていた。
このダークの目的は最初から、ひかるではなく俺だ。
俺が今ここで、絶対に言わざるを得ない状況を、強制的に作り出した……!
しかも、『好きだ付き合え』以上の言葉を捻り出せだと!?
ハードルを上げてどうする……。
認めたくないが、見事に出し抜かれた。
シンプルなのに秀逸で……だが、陰湿な作戦だ……。
本当に、あの3人がここまでの計画を練ったのか? 信じられない……。
……いや、感心している場合ではない。
今目の前でひかるが、泣きながら俺の言葉を待っている。
依然、俺の大ピンチには変わりない。失敗すれば、ひかるとのこの関係が終わる。……かもしれない。
しかもたぶん、アイツら絶対何らかの方法で俺たちを見ている。
公開処刑だ……。俺がアイツらに何をしたと言うんだ……。こんなのイジメじゃないか……。
でも……やるしかない……。
「ひかる……その……」
俺はなるべく、ひかるに聞こえるだけの声で口を開いた。
じーさんの言った通り……、思ってる事をハッキリと……。
「俺は、お前のことが……、『好き』じゃ、ない」
一瞬、俺とひかるの間で時が止まった。
「え……?」
ひかるは、明らかに動揺して俺を見た。
「いやっ、違う。そうじゃない! そうじゃなくて……。っ……」
俺は俯いて顔を片手で覆って、必死に頭を回転させながらなんとか言葉を絞り出す。
「『好き』とか……、もう、そんなんじゃないだろ……。そんな薄っぺらい言葉だけで表す事の出来る、間柄じゃない。一緒に死線を乗り越えた仲だぞ」
「……」
「ちょっと、……上手い言葉が出てこない」
「……うん」
ひかるは静かに頷いて、涙を拭った。
俺の心臓は激しく波打っていて、口から何かが出て来そうな程だった。それを鎮めるため、俺は長く息を吐いた。
……今、言うべきなんだろう。野次馬が居ようが構いなく。ここで逃げたら本当に終わる。
「結婚の話。俺があそこまで結婚に固執してたのは……。安心したかったからだ」
ひかるが驚いて顔を上げた。
しかし俺は尚も視線を下に向けたまま、手で顔を隠したまま言う。
「“恋人”なんて口約束じゃなくて、ちゃんと公的にお前を縛れば、絶対に俺から逃げないと思った」
「タカ……」
「だから、完全に自分本位な理由だ。……そこに、肝心のお前の気持ちは考慮してなかった。結婚は一人じゃ出来ないのに……」
「……」
「……だから、この前は怒って悪かった」
「ううん。わたしもちゃんと話聞かなくてごめん」
「でも俺はまだ正直、お前が何故あんなに拒絶したのかピンときてない」
「……そっか」
「だがお前が“恋人”という関係値を積み重ねたいと言うなら、俺も足並みを揃えるべきなんだろう」
ふぅ、と俺は息を吐いた。もう、ここまで来たらやるしかない。
もし失敗したとしても、……かつて俺が何度もダークで窮地を挽回した時のように、また何度だって立ち上がればいい。
俺は顔を上げ、真っ直ぐひかるの目を見据えて言った。彼女に真っ直ぐ手を差し伸べた。
「光里、俺と組め。……俺の唯一無二の、パートナーとして」
「……!」
「その、つまり、男女の仲としてちゃんと交際しよう……と言ってる。もう今日からただの同居人じゃないからな? 俺も光里ももうハタチを超えた大人なんだから……覚悟しろよ、色々」
七夕の夜。満天の星空の下。生暖かい風が俺と光里の髪を揺らした。
俺は多分、緊張を悟られないように強面になっていた。最後に脅し文句まで出てしまった。
しかし光里はその俺の顔を見て、夏の一等星よりもキラキラと破顔した。
「うん。わたしも“恋人”としてタカと色々経験を重ねていきたい。だからこれからもよろしくね、タカ」
そう言って、光里は俺の差し伸べた手を握り返した。
夜空に輝く太陽のように光里の笑顔はあまりにも眩しくて、俺の呼吸は止まった。しかし今度こそ俺はその顔から目を逸さなかった……逸らすものか。
この一瞬しかないコイツの一番の輝きを、俺は生涯忘れぬように大切に胸のフィルムに焼き付けた。
その時。
「点火!!」
どこからかまさかりさんの声がしたと思ったら、物陰から突然吹出花火が数個一斉に上がった。
こ、こんな演出まで用意してただと……!?
「わあ……! 凄い!」
ひかるは喜んでいたが、俺は恥ずかしさで倒れそうになった。
誰だクソ、こんな事まで企画したのは……! ロマンティストのエリンギか、派手好きなまさかりさんか?
無駄とリスクを省く俺のダークのシナリオ(作戦)には絶対にいれない工程だ! オマケとは言え滅茶苦茶にしやがって……!
俺は気恥ずかしさが限界を迎え、叫び散らした。
多分茂みのどこかにいるはずなのだが。
「おいっ、お前らいい加減出てこい! この俺とダークをいいように使いやがって、全員一発ずつ殴らないと気が済まな――」
「タカ」
光里はハッとしたように何かを思い出して、俺の腕を突然掴んだ。
「あのね。『お返しは必ずする事』って約束したから」
「は?」
光里は一歩前に踏み出して、俺の肩を掴んで背伸びをした。
そしてそのまま俺の唇を塞いだ。
「……!!」
キスをしたのは、最後の作戦の時――本当に約2年ぶりだった。
あまりの衝撃に、目を閉じるのも忘れた。
光里の唇の暖かさと柔らかさに、ただただ頭が真っ白になって、宙に浮いた気分になって……とにかく、泣いてしまいそうなくらいに、幸せだった。
ちゃんと……勇気を出して率直に言って良かった。
ひかるは少ししてから離れて、はにかんで笑った。
「気持ちをちゃんと伝えてくれた、お礼です」
「……あぁ」
「うん……」
「で、その……。凄く言いづらいんだが」
「うん?」
「見られてる」
「……え?」
「よぉー! お疲れ様でしたー!!」
茂みの影から、拍手しながらまさかりさんとエリンギとじーさんが満面の笑みで現れた。
キスシーンまでバッチリ見られた。俺は遂に顔を覆って芝生に卒倒した。
「タカー!?」
「俺は……死んだことにしてくれないか……。今すぐ殺して欲しい……」
「嫌だー! せっかく恋人になれたのに死なないで!」
「あのー……タカ。一応言っておくと……。わしじゃないぞ?」
じーさんが申し訳なさそうな顔で、地面に倒れる俺の顔を覗き込んだ。
「お前さんに扮してたのは、わしじゃない」
「は?」
「確かにメイクしたのはわしじゃが、変装は流石に断ったわ……。お前さんを何だか裏切るような気がして、心が傷み過ぎて……」
「じゃあ、誰が……?」
「匿名希望さんでス。口外すればボクらが殺されまス」
「は??」
「ひかるとハグして、うっかりキスまでしちまった時の為に、女同士ならまだキズは浅いだろ」
……女??
「それにタカやダークのことをよく知ってて、かつ出し抜けるような作戦を立てられるのは……。もう1人しかおらんじゃろ」
「!!」
「チョ、2人とモ! もうそれ答えになってるヨ!」
……あのクソ女!!
俺は勢いよく地面から起き上がった。
「どうりで何か陰湿な計画だと思った……! おい、アイツはどこ行った!? どうせこんな計画を持ち掛けたのもアイツだろ!」
「帰ったヨ」
「帰った!?」
「『私がいたら高俊に叱られるから、じゃーねー!』だっテ。潔いよネ」
「あはは。パワフルらしいね」
また……アイツに借りを作ってしまった……。
長井邸のDKの件と、Mホテルの件でもう既に目眩がしていたのだが。
もう、本当に、頭が痛い。
「本当に悪趣味過ぎるだろあの女! 俺はアイツに一言文句を言わないと気が済まないっ、連れ戻せ!」
「無茶言わないでヨ」
「おい急げ! 早くずらかるぞ!」
まさかりさんとじーさんは、花火の残骸を回収し始めた。
「え、何でそんなに急いでるの?」
「ここ、花火禁止なんじゃ。叱られる前に逃げるぞ」
「バカかお前らは!?」
俺が柄にも無く取り乱して叫び続けているのを、光里はずっと楽しそうに笑って見ていた。




