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2 コレ、始末書です? (5)


 こんな場所にあるはずのないものを見つけて、私の思考は混乱の真っただ中に突き落とされる。

 確かに転移陣の入手自体は、別に制限されているわけではない。でも、それには莫大なお金が必要だし、間違ってもこんな街中の路地裏に設置されるようなものではないのだ。だというのに誰が、いったい何のために……?


 状況を飲み込めない私の前で、転移の準備は着々とととのっていく。束の間呆然としていた私も、ハッとそれの意味するところに気がついた。


(この人たち……荷物を転移させて証拠を隠滅しようとしている……!)


 荷車に向かって駆け出そうとしたところを、後方の男たちがナイフで必死に足止めする。


「あぁ、もう……!」


 わずか二十歩ほどの距離が、あまりに遠い。先に進ませまいと決死の覚悟で食らいついてくる男たちと、魔力の充填が完了した魔法陣の光。

 荷車を守る男たちは勝利を確信した表情で、積み荷を陣の中へと押し込もうと――。


「させ、るかぁ――っ!」



○   ○   ○   ○   ○   ○   ○



 ――言い訳になってしまうが、その時の私は本当に必死だった。

 このまま転移を実行されてしまったら、証拠となるものが何もなくなってしまう。男たちは白を切りとおすだろう。そうしたらこの「荷物」は……「()()」の行方は闇に葬られてしまう。

 だから。


 体内に巡る魔力を一気に(みなぎ)らせ、転移陣へとその矛先を定める。

 手加減なんてしている余裕はない。こうなったら転移が行なわれることがないように、その根本から陣を破壊するしか……!


 どぉん、と少し籠った爆発音とともに、狙い通りの場所に土柱が上がった。


「地震か!?」

「まずい、転移陣が……!」


 慌てふためく男たち。その足元に、先ほどまであった転移陣の光はない。どうやら目論見(もくろみ)通り起動しかかっていた転移陣を破壊できたようだ。


 頭上に落ちてきた小さな木屑を何気なく払いのけながら、よしっ、と内心でガッツポーズを決めた。そんな私の頭の上にパラパラともう一度、先ほど払ったはずの木片が降ってくる。

 落ちはじめた木片は何故かいつまで経ってもやむことがない。むしろ時間の経過とともに、その大きさを増していく。


「…………?」

「おいっ、逃げろ! 崩れるぞ!」


 まるでその言葉を合図にしたように、両脇の建物がピシピシという不吉な音を立てながら傾きだした。

 それに伴い、木片どころか大きなレンガの塊まで落下物の中に紛れはじめる。ぐらぐらと足元が波打つ。




 身の危険を感じた男たちはさすがに荷車も捨て置いて、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。その背中をすぐにでも追いたいところではあるけれど――。


「あぁ、もうっ!」


 駆け寄って荷車にかけられていたボロを投げ捨てれば、荷車に積まれていた荷物の正体があらわになった。


「っ、やっぱり……!」


 そこに横たわっていたのは、まだ年若い五人の少女。これだけの大騒ぎが起きているというのにぴくりとも反応せず、ただ死体のように静かに台車に乗せられている。


 ある程度予想していたとはいえ、私の頭は怒りで煮えたぎった。

 意識さえなければ、人間であっても物質と同じように転移できる――奴らはその性質を利用して、標的の意識を奪って人さらいをしようとしていたのだ。


「許せない……!」


 卑怯な手口に(いきどお)りながら、身体強化を済ませた腕で荷車を持ち上げた。

 もう両脇の建物はいつ倒壊してもおかしくない状態だ。でも、彼女たちを見捨てる選択肢なんてとれるはずもない。


「防御魔法は……苦手なんだよね……っ!」


 降ってくる瓦礫(がれき)防御(シールド)で防ぎつつ、守りきれないものは剣で打ち返す。そうしながら、倒壊する建物から離れようと荷車を引いてひたすら足を急がせる。


『お前の戦い方は傭兵のやり方だ、騎士ではない――』

 こんな時に、父親から言われた言葉が思い出された。

『ただ強さだけを追い求めても、騎士にはなれん。力なき者を守る戦い方を学んでおけ』


 ――ああ、どうしてあの時の私は、父親の助言を一蹴してしまったのだろう。

 「誰かを守る」という行為が、こんなに難しいものだったなんて。




 なんとか大通りに出たところで、背後ですさまじい轟音が鳴り響いた。それと同時に、もわっと視界を覆うほどの埃が舞い上がる。

 振り返らずとも、とうとう崩壊が始まったのだと察することができた。……間一髪のところで、間に合ったのだ。

 ただ路地を駆け抜けただけだというのに、身体は普段の何倍も疲弊していた。大きく溜め息をつく。でも、荷車の上の少女たちに傷ひとつつけることなかった――それは我ながら偉いと思う。


「何があったってんだ?」

「突然路地で爆発音がしたと思ったら、建物が崩れたのよ」

「テロかしら、怖いわ……」


 ざわざわと交わされる野次馬の言葉に、私は遅ればせながらあることに気がついた。それと同時に、自分の顔からすぅっと血の気が引いていくのがわかる。


(やばい……)


 絶望的な気持ちで顔を上げれば、目に入るのは完全に建物が崩れ落ちた街の一角。巨人に踏み潰されたかのように、そこだけぽっかりと空いている何もない空間。

 逃げ出すときは無我夢中で考える余裕がなかったけれど、この倒壊の原因は間違いなく。


(私が魔法を手加減しないでぶっ放したからだ……)


 騒ぎを聞きつけて、衛兵たちが駆けつけるのが見える。鳴っている連絡警報のレベルは、今日ユーリに習ったばかりの「最大警戒」。慌ただしい兵士たちの足音が、その緊迫感を否応なしに伝えてくる。

 荷車の少女たちが衆目に晒されないように物陰へそっと移動しながら、私は力なく天を仰いだ。


(人助けのためとはいえ、街を吹き飛ばしちゃったコレってやっぱり……始末書かなー!?)




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