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3 意外と良い人ですね (2)


 そんなこんなで多少のトラブルはあったけれど、仕事に差し障りが出るほどではない。

 予定通り演習を終えて、私はシラハと団長の執務室へと向かったのだった。


「失礼します、アレクです」

「ああ、来たか。例の王都誘拐事件の件で話がある」


 迎え入れる仕事モードのユーリの声は、普段よりちょっと固い。書類に字をしたためる彼の手は休まることなく、机の上の資料は即座に仕分けがされていく。

 一緒に働き始めて知ったことだけど、彼は仕事もできる男なのだ。


 促されたとおりに長椅子に座れば、何故かその対面にはシラハが、そして私の隣にはユーリが腰を下ろした。

 ちらりと横を見れば、ユーリが良い笑顔でさらにこちらへ肩を寄せてきた。仕事モードとなっていても、相変わらず距離の近さは変わらないんだから……。




「途中までは情報が入っているかもしれないが、改めて例の事件を振り返ろう。今回の件、アレクが救出した被害者は貧民街の十四から十六くらいの年齢の少女ばかりだった。居なくなってもあまり騒ぎにならず、なおかつ若い女性を標的にしていたものと見える」

「卑怯な奴ら……!」


 思わず吐き捨てるような声が出た。奴らの卑劣な手口を知っていれば、もっと殴ってやったのに。

 (いきどお)る私に、ユーリは静かに頷く。


「ああ。だから今回だけでなく、この件には明るみになっていない被害者がいるのではないかと思って調べてたんだが……シラハ」

「はい。調査に当たったところ、衛兵の情報と住民の情報に食い違いがあることがわかりました。兵士たちは、これまで人が攫われるといった被害は聞いていないとの一転張り。しかし、住人たちによると、街で若い女性が居なくなるという噂はそれなりに前から囁かれていたようです。ただ、貧民街の住人がいくら訴えたところで兵士は取り合ってくれないと」

「……っ!」


 思いがけない情報に、気づけば拳を握りしめていた。王都の暮らしを守る役目のはずの衛兵たち。彼らは、いったい何をやっていたのだろう。

 それなのに、ユーリはその報告を聞いても落ち着き払った様子で、「やはりそうか」と顎に指を当てる。……うーん、それだけで一枚、立派な肖像画が描けそうな美しさ。

 思わず見とれてしまったところで、ユーリは私に向き直った。


「実行犯の男どもを尋問したが、あまり情報は得られなかった。彼らの仕事は随分と細分化されているようだ。彼らは運搬が専門で、しかもその行く先すら知らされてはいない……アレクは今回の誘拐事件について、どう思う?」


「変だなーとは思ってる。なんというか……身も蓋もない言い方をするなら、コストを掛けすぎって感じ? 転移陣なんて貴族の家が建てられるくらいの価値はあるのに、それをたかが、と言ってはなんだけど誘拐のために使うなんて。目的はわからないけど、組織的に何かが動いているんじゃ……」


 そこまで言ってから「ああ」と私は納得の声を上げた。


「確かに転移陣を用意できるだけの財力があるなら、衛兵たちの口止めだってできるかもしれないね」




 シラハが驚いたように目を(みは)って私を見ているのがわかった。声に出してはいないけれど、彼が何を考えていたかは手に取るようにわかる。

 ……まったく、失礼な。確かに私は脳筋と思われがちだけど、ちゃんと考えるときは考えられるのだ。大体はそれより先に身体が動いてしまうだけで。


「ああ。アレクの言うとおりだ。これは、単純な誘拐事件ではない。下手をしたら、王都を揺るがす大事件になりうるだろう。奴らの転移陣が残っていれば、そこから何か探れたかもしれないが……」


 ユーリの指摘に身を縮めてしまった。あの辺り一帯を、証拠品含めて一切合切吹き飛ばした自覚はあるのだ。

 ぽん、と慰めるようにユーリが私の頭を撫でて微笑む。


「まぁ済んだことを嘆いても仕方がない。被害者の無事を優先させたのは悪くない判断だった。そうでなければ、事件自体が揉み消されていただろう。――とにかく、この誘拐事件についてはもっと調べてみる必要がある。ただ、敵の規模が掴めていないうえに王都の衛兵たちが抑えられているとなると、あまり大掛かりに動くのは得策ではない。シラハを中心とした少数精鋭で進めていく。……良いな?」

「はい」「了解っ!」




 びしっと敬礼を決めた私に、ユーリはなんともいえない表情を浮かべた。


「それと、こんな話をしておいて申し訳ないが……アレクには別の仕事の依頼が来ている」

「別の仕事?」

「ああ。とある貴族女性の元に脅迫状が届いているらしくてな。身辺警護のためにアレクを貸してほしいとのことだ」


 はて、と私は首をかしげる。不思議そうな私の反応に、ユーリは気まずそうに言葉を続けた。


「もちろん、本来ならこんなことは騎士団の管轄ではない。だが、断れない筋からの依頼でアレクを名指しされていてな。頼めるか?」

「もちろん、団長命令なら断るわけないよ。それで、依頼者はどこのどなた?」

「フローリア家の三女、ハーベスト嬢だ」

「……へ?」




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