64.手紙
マイアたちがゼフィのもとに戻ったのは予定の日の三日前だった。
それについて特に想定より遅かったというわけでもないが、ゼフィとしては何か起こっていないか不安で少しばかりじれていたところだった。あらかじめマイアからあまり早く来すぎるのもよくないかもしれないという説明を聞いていて、それももっともであるともちろん納得はしていたが。
「ここまでご足労いただきありがとうございます。グラザル様」
「いいえ。エル様のためですから。……それと、私はラズで構いません。敬語もいりませんよ。こんな小娘相手にそんなに丁寧に話していては目立ってしまいますから」
「……わかった。よろしく頼むよ、ラズ」
「はい、お願いします。ゼフィさん」
ところで、とゼフィは視線を移す。
ラズの後ろにぴったりとくっついてその服の裾をちんまりと掴んでいるコハクを見て、どうしたものかと考える。ラズをここに連れてきてもらうにあたって彼女がここについてくるとは想定していなかったのだ。
ただ、それ自体は今にして考えてみれば十分にありうることであり、単に自分がうっかりしていただけだとも思うが。
それでもコハクのことをどう扱うべきなのかゼフィとしては少しばかり困るところではあった。
「えっと、改めてだけど、コハクもよろしく」
「……よろしく」
そのそっけない言葉に対応を誤っただろうかとマイアとアルカに視線で助けを求めるも、特に問題はなかったのか反応は返ってこなかった。ゼフィが苦笑いを浮かべると、ラズは思い出したかのように振り返る。
「コハクさん?」
「……」
そうラズに呼びかけられるとコハクは沈黙したまま嫌そうな顔で俯く。状況がわからずゼフィはきょろきょろと視線を巡らせるが、マイアとアルカも二人のことをじっと見つめていた。
しばらくそのままでいた後、コハクは渋々といったようにゆっくりと動き出し、一歩前に出ると顔を上げて初めてゼフィと目を合わせる。
「私はラズを守る。そのために来た。えっと、だから、それで、あなたの言うことを聞くように言われてる」
「なるほど……」
それでいいのか、と確認をとるようにゼフィがラズに視線を送ると、ラズは肯定するように微笑みながら頷く。
「つまり君はラズの傍にいたいってことだね?」
「うん」
「わかった。ラズのことは任せるよ」
「ところで、こっちの様子は大丈夫だった?」
「ああ、今のところ問題ないよ」
マイアの問いに大丈夫だと答える。
こっちの様子、皇女についてゼフィの知る限りは何の動きもなかった。ハイドランについては基本的にゼフィが見張っていたが、その他の動きについてもユージンとマナインから特に動きはないと聞いていた。
それにあたってマナインが少しばかり介入していたらしい。さりげなく皇女殿下については今は触れない方がいいという情報を伝えていたのだ。
その甲斐あってかどうかはわからないが、そちらの貴族も様子見に徹しているようだった。
それから三日間、ときにユージンとマナインを交えて当日についての打ち合わせなどをしながらひっそりと過ごした。
まずは以前と同じくユージンとマナインが皇女の護衛たちの意識を引き付けている間にゼフィたちが侵入する。侵入するのはゼフィ、マイア、ラズ、そしてコハクの四人だ。アルカは前回とは異なり宿での待機となる。予定どおりに皇女を連れ出すことができたならすぐに宿へ行き、一旦そこで様子を見てから街を出ることにしたのだ。
ただ、場合によっては宿に戻る余裕がないため、そのときにはアルカを置いてそのまま街を出ることになる。実質的に自分が何もしないことにアルカは不満を訴えたが、この一団の中で唯一普通の人間として動けるアルカには宿の者などへの対応を任せなければならないため、なんとか説得して受け入れてもらった。
そして、いよいよその日の夜が訪れた。
ユージンとマナインの二人は先日と同じように護衛の者たちのもとへと近づいていく。にやにやといやらしい笑みを浮かべながら声をかけると、馴れ馴れしく肩を組み、耳元で何かを囁く。護衛の男は少しだけ不快そうにするも、特にそれを拒絶することもなく苦笑を浮かべている。
「……彼ら、演技うまいわね」
「……そうだな。俺にはあれはできないな」
マイアの感心したような呟きにゼフィも同意する。ユージンもマナインも、やっかいな兵士として話しかけながらもやっかい過ぎない程度にうまく調節している。護衛もめんどくさそうにしながらも、その程度では強く追い払うこともできないのだ。
やがて、ユージンから手で合図が来ると、ゼフィたちは前回と同じ道を辿り、内部に侵入する。身体能力の面でラズだけが一般的な人間なので、その分慎重に動かなければならず、何度か誰かの気配を感じることもあったので、その分時間をかけることにはなったが。
以前と同じ巨大な広間に侵入すると、祭壇に祈りを捧げている皇女の姿が目に入る。まずはゼフィとマイアがその背後に静かに近づく。そして、周囲の様子を窺い、誰もいないことを確認すると、そこで改めて合図を出し、ラズとコハクも入ってくる。
完全に気配を消していたゼフィとマイアとは違い、そういったことに慣れていないラズの気配に気付いたのか、エルはぴくりと体を震わせるとゆっくりと振り返る。
頭を下げるゼフィの姿を目に止めると、すぐにその背後に視線を動かす。
「―――お姉さまっ!」
その瞬間にだっと駆け出すと、エルはラズの懐に飛び込んで正面から抱きつく。
ゼフィとマイアはその音に気付かれてしまっていないかと部屋の外に意識を集中させる。本当なら静かにしろと言うべきなのかもしれないが、さすがにラズの胸に顔を埋めて嗚咽を漏らすエルにそう言うことはできなかった。
その後、しばらくの時間が経った後、エルはそこからゆっくりと離れる。
そして、ラズは膝を付き頭を下げる。
「皇女殿下、お迎えに上がるのが遅くなったこと、そして、私のことで殿下に心配をかけてしまったことをお詫び申し上げます」
「ラズお姉さま……。本当に生きていてくれて良かった。……私のせいで、あなたが死んでしまったと聞かされていたから……」
「……」
ラズは何も言えなかった。だが激しい怒りを覚えていた。エルに対してそのような虚言を弄したものに。そして、そう利用されてしまった自分に。
「エル様、私とともにここから離れましょう。幸いにもというべきか、私のグラザル家は殿下の後見人にあたると認識されています。私といれば殿下の身は安全です」
それは嘘だった。
確かにグラザル家がそう認識されているのは間違いないが、現状ではグラザル家などというものはすでに存在せず、ただラズ・グラザルがいるだけだ。だからラズといるからといって安全であるということはない。
それでも、エルをここに一人置いておくことは認められなかった。こんな場所で一人きりにさせることは許せなかった。たとえ今の自分に何の力もなかったとしても、無責任だと言われようとも、このまま放っておくことだけはできなかった。
「でも、おね……ラズにこれ以上迷惑をかけることはできません。私は皇女です。それも何の力もない第五皇女。こうして道具として利用されるのも仕方のないことです。ここまで来てくれたことは嬉しく思いますが、もうこれ以上あなたが労を背負う必要はありません」
エルは諦めたように感情のない言葉でそう告げる。
その言葉にラズは歯を強く噛み締める。そして、高ぶった感情を鎮めるように大きく深呼吸すると、静かに反論する。
「……殿下のおっしゃることはもっともです。確かに今の私にはたいした力はありません。殿下が信を置くには不足した存在であることは否定できません。それでも、あなたの幸せのために尽くすことが私の使命です。殿下は決して道具などではありません」
「それは違います。私は皇族なのですから。そうして使われることもあるのは生まれたときから決まっていることです」
「……確かに、皇族である以上そういうこともあるのかもしれません。ですが、仮にそうだとしてもあなたをそう扱えるのは皇帝陛下のみです。たかが一貴族ごときに殿下をそう扱う権利などありません」
「それは……」
その言葉を否定はできなかった。皇族である以上、皇帝の娘である以上、国のため皇帝のためと利用されるのは致し方ないことかもしれない。だけど、それとは関係なく一貴族が私欲のために皇女を勝手に利用することは許されることではない。それを認めなければならない理由などありはしない。
言葉が継げなくなったエルはどうしたものかと助けを求めるように視線を彷徨わせる。そして、ゼフィと目が合うとそこで止まる。
ゼフィは何を言うべきか少し迷った後、思っているままを答える。
「……まずは、殿下が何をやりたいかをお考えになってはいかがでしょう?」
「私の、やりたいこと……」
エルはゆっくりと自らの胸元に手をやると目を閉じる。そして、しばらくそのままでいた後、目を開けるとぽつりと告げる。
「私は、医学を学びたいと思っていました」
それにはエルの母のことがある。ほんの少し前に病で命を落とした母。エルも後になって聞いたことではあるが、以前の母はずっと健康だったらしい。だが、エルを産んだ後、体調を崩すようになり、病に倒れ床に伏すことが多くなったという。
それがたまたまその時期だったのか、エルを産んだことによるものかはわからなかったが、エルは生まれてからずっと母が病で苦しんでいる姿を見てきた。
真偽はわからないが、その病によって皇帝も母への興味を失ったのだという噂を聞いたこともある。
だから、エルはそんな母を助けたいと思い、子供ながらに医学について学んでいたのだ。
「……でしたら、ここに残られるのですか?」
ラズは少し寂しそうに尋ねる。
この世界において医学はそれなりに発達している。それはこの世界の歴史は魔獣との戦いの歴史だからだ。多くの者が戦いに挑めば負傷者の数も多くなり、そのための治療の方法の整備が急務となるのは必然だった。
それに、そうせざるをえなかった理由はもう一つある。それは魔法の力だ。この世界で魔法の力、そして魔道具はなんでもできるものとして扱われている。しかし、実際にはそれほど万能のものではない。他人の体に直接影響を及ぼすことができないという性質上、たとえば怪我や病気を治すような魔法は存在しないのだ。それは魔道具においても同じだ。
ゼフィはその例外となるものを一つ見たことがあるが、それ以外には見たこともないし、他の者が知っているという話を聞いたこともない。
もちろん、間接的に医療などに使われる魔道具は存在する。たとえばフェイヴァーの家、イオの部屋に設置されている空気を清浄に保つ魔道具などがそれにあたる。それこそ魔法としてではなく、医学としての進化だ。
それらの医学を学ぶにはどうすればいいか。その方法は様々だ。たとえば書物などで独自に勉強することもできるし、知識のある者から指導を受けて学ぶこともできる。その現場で働きながら覚えていくのもいいだろう。
当然の話ではあるが、どんな方法を選ぶにせよこの帝都にいるほうが学びやすいというのは間違いない。貴族の庇護下にあればその機会も増えるかもしれない。
だから、エルはここに残ることにするのかもしれないとラズは考えた。
しかし、エルは首を横に振る。
「ここに居て私にできることはありません。あるいは書物くらいは与えられるかもしれませんが、所詮私に自由はありません。できるのはせいぜい本を読んで空想に思い浸ることくらいでしょう」
ここでずっと籠の中の鳥として生きていくことはできるだろう。不自由にさえ目を瞑ればずっと平穏な暮らしが送れるのかもしれない。
「……だけど私は、自分の足で歩きたい。遅くとも前に進みたい。だから―――」
エルは改めてゼフィの方に向き直り頭を下げる。
「だから、私をここから連れ出してください」
「かしこまりました」
ゼフィは安心させるように笑みを浮かべると皇女の言葉にしっかりと頷く。
そして一行は来たときよりも慎重に来た道を引き返していった。
そのまま精霊殿を後にすると、アルカを待たせてある宿へ足を進めた。
それは不幸な偶然だった。道を歩いていると前方から多人数の兵士の一団が進んでくるのが目に入る。即座に道を変えるべきだったのかもしれないが、おかしな動きをして目立ってしまうことを恐れて、そのままその兵士たちとすれ違うことにした。
その中に、一人の華美な衣服を身にまとった男がいた。
「……オスキル……」
ラズが低い声でそう呟く。
ゼフィにもその意味はわかった。その華美な衣服を身にまとった男こそが、ハイドランの手先となりヘリアフードで動いていた黄色のレイタ・オスキルなのだ。そして、ラズのグラザル家を滅ぼした男でもある。
だからゼフィは気を遣うように視線を送るが、ラズはだいじょうぶだと言うように微かに苦笑を浮かべる。
「―――貴様はっ!」
その一団とすれ違おうというときに、ゼフィは一人の男に呼び止められる。ラズやエルは顔が隠れるような外套をまとっていたため気付かれなかったのかもしれないが、ゼフィは怪しまれたりすることのないよう顔を出していたのが裏目に出た。
そのゼフィを呼び止めた男は、以前に森の中で一度だけあった兵士、ユージンとマナインの上役であったセイル・アイムナーであった。
「……お久しぶりです」
セイルを刺激することのないようにと、ゼフィは頭を下げる。しかし、それが逆に癇に障ったのか、セイルは憎々しげに舌打ちをする。
そんなセイルの反応が気になったのか、オスキルがどういうことかと尋ねると、セイルは以前にゼフィと出会ったときのことを説明する。オスキルはそれを聞いて納得すると、足先から頭の先までゼフィをじろりと睨みつけるように観察する。
だが、この場でできるのはそれだけであり、いくら貴族であっても何の罪もないものを捕えるようなことはできない、はずだった。
その後、両者はそのまますれ違うことになったが、その後ろに従う兵士たちも前方でオスキルがなんらかの話をしていたのが気になったのか、すれ違いながらも興味深そうに視線を送っていた。
そして、そのうちの一人があることに気付く。
「……グラザル様?」
兵士の中にラズの顔に覚えがあるものがいたのだ。そのちらりと見えた横顔からそれがラズ・グラザルだと気付いたのだ。
一団がざわりと揺らぐと、その先頭にいたオスキルたちが引き返してくる。そして、ラズに向けて外套を取って顔を見せるように指示をする。
「お久しぶりですね、オスキル様。ご健勝そうで何よりです」
「貴様……」
平然と顔を見せたラズにオスキルは顔を歪めるが、すぐに周りにいる兵士に指示をする。
「この娘を捕えろ!」
そう指示されるが、兵士たちはどうしたらいいかと戸惑い、顔を見合わせる。だが、オスキルが早くしろと急かすと渋々という感じでゼフィたちを取り囲もうと動く。
「―――いや」
だが、何かを思いついたようにオスキルはその兵士たちを止める。そしてぐるりと周囲に視線をやり、そこに誰もいないことを確認するといやらしく嗤い、改めて指示を出す。
「その娘を殺せ」
その瞬間に誰の目にも止まらない速度で二人が動く。
「ってえ……」
その声を漏らしたのはゼフィだ。顔の正面でその両の腕を交差させ、放たれた拳を受け止めたのだ。
「なんで止めるの?」
「……さすがにそれは死んでしまうからね」
その拳を放ったのはコハクだった。オスキルが殺せと言った瞬間にオスキルを殴りつけるべく飛び出したのだ。
それはあまりにも速い一撃だった。その場にいた中で反応できたのがゼフィただ一人だけだったと言えるほどに。何の技術もない一撃、ただ前に出て思いっきり殴りつけるだけの一撃。
単に身体能力という面だけで見るならばそれはカイに匹敵する速度だった。
「ラズを殺すって言った」
「気持ちはわかるけど、ラズはそれを望んでいないから」
コハクが振り返ると、ラズは安心させるように微笑み軽く頷く。
コハクから怒りが消えると、ゼフィは気を落ち着けるように一つ息をついて指示を出す。
「先行して彼女に伝えておいて」
「わかったわ」
マイアに対して先に宿に戻ってアルカに状況を伝えるように言うと、マイアはすぐにその場を離れる。
「ラズ、君は彼女を連れて追いかけて」
「わかりました。……こっちに」
同じように指示を出すと、ラズはエルの手を引いて走り出す。エルもすぐにそれに従う。
「お、追え!」
オスキルを含めて兵士たちはしばらく呆気にとられていたが、遅れて状況を理解すると追手を差し向けるべく声を荒らげる。兵士たちはいまだどうすべきかはわからなかったが、指示には従うべくラズを追おうとする。
その行く手を遮るように、ゼフィは立ちはだかる。
「君は、ラズを守るんだろ?」
「……うん」
「じゃあ行くんだ」
ゼフィがそう言うとコハクは弾かれたように駆け出す。
そしてその場に残ったのがゼフィだけになると、オスキルは悔しそうに顔を歪めながら命令する。
「その男を捕えろ。ラズ・グラザルの居場所を吐かせてやる」
その言葉に兵士たちは顔を見合わせる。
兵士たちはゼフィに掴みかかろうとするが、ゼフィはその体捌きで器用にそれらを躱す。オスキルが囲むように指示を出すと、ゼフィの退路を断つようにゼフィの周囲に展開する。
その一連の動きはひどく緩慢だった。
兵士たちにとって、それが何のためのものなのかわからなかったのだ。
兵士の中にはへリアフード出身のものも多くおり、彼らにとってラズもグラザルも決して悪しき貴族などではなかった。実際にラズに会ったことのある者、言葉を交わしたことのある者さえいた。
確かに特段親交があったというほどではない。それでも、彼女に恨みを持っている者などいなかったし、そんな彼女を殺せという命令に平然と従えるはずもなかった。
それゆえに生まれた包囲の緩み。
その瞬間を狙ってゼフィは逆に前に出ると、オスキルに攻撃するふりをする。そして、オスキルが怯むとその脇を真っ直ぐに走り抜け、そのままラズたちが逃げた方とは反対に走り去る。ゼフィの全速についてこれる者はその場には一人もいなかった。
オスキルはただ、その背に怒声を浴びせることしかできなかった。
その後、追跡を逃れるためにしばらく入り組んだ道を通り、かなり遠回りしながらゼフィは宿へと戻った。
「何か問題はあった?」
「ない」
ゼフィが尋ねるとコハクは一言答える。視線を軽く巡らせるとマイアが頷くのも見えたので、コハクの言う通りあれから何事もなく帰ってこられたのだろう。
「アルカは、話は聞いた?」
「ええ、状況は一応理解していますラズ様が見つかってしまったことも」
それは単なる説明にすぎなかったが、負い目を感じてしまっているのか、ラズは申し訳無さそうに目を伏せる。珍しく慌てたアルカはそういう意味ではないとすぐに釈明する。
「アルカの言うとおりだよ。見つかってしまったのはまぁ不幸ではあったけど、遅かれ早かれどうにかしないといけない問題だと思うから」
そう言ってゼフィはちらりとエルの様子を見る。仮に誰にも見つからずに逃げ果せたとしても、やがてはラズ・グラザルにたどり着く。そうすればエルがラズとともにサナトの居城にいることも知られてしまうだろう。
サナトであればそうなったときに、あるいはそうなる前になんらかの手を打つ可能性はあると考えられなくもないが。
だけど、とゼフィは考える。この件についてはどうするかの判断は自分に任されたのだから、やはりエルの安全を確保するところまで自分で責任を持つべきではないか、と。
ゼフィは視線が自分の方に向いていることに気がつく。全員が宿に帰ってきたわけではあるが、これからどうするのかと指示を仰いでいるのだ。
「……提案がある」
ゼフィが切り出すと、コハクを含めた全員が真剣な顔で頷く。
「みんなはこのまま夜のうちにここを出てサナトの城に向かってほしい」
「私たちみんなで? あなたはどうするの?」
マイアは尋ねるが、どういうつもりなのかなんとなくはわかっているようだった。それでもゼフィが何をするのか具体的には予想がつかなかった。
「ちょっと後始末をね。……それで、殿下に一つお願いがあります」
「え? なんでしょうか。私にできることであれば」
まさか自分に話が向くとは思っていなかったのか、エルは驚いた表情を浮かべるが、すぐに気を取り直し、ゼフィの言葉に応える。
「殿下には手紙を書いていただきたいのです。あなたの父君、皇帝陛下への」
「陛下に、ですか?」
「はい、それを持って私が陛下に、いや―――俺が君のお父さんと話してくるよ」
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
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